JINSEI STORIES
滞仏日記「終わりない暴力の世界で、人類の未来を考える」 Posted on 2022/07/08 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、どういう犯人像かよくわからないけれど、自分と考え方が異なる人間を、よくもまぁこのような残忍な方法で、殺害できるものだと、激しい衝撃と怒りを覚えてならない。
恐ろし過ぎる。
それが、この平和な日本で起きたことだなんて、まず、信じることが出来ないし、この現実から目をそらしてはならない。
ぼくは三日前に、帰国したばっかりだったこともあって、かなりのショックを受けることになる・・・。
ここ最近、ウクライナ侵攻もそうだし、世界中で繰り返される銃乱射事件もそうだけど、暴力で解決をしようという世界的な動き、これが当たり前になりつつあって、改めて人間の根底に横たわる狂暴さに震え上がってしまう。
政治思想や信仰の違いで、人間を殺して、自分たちの思い通りの世界にしようという動きが加速している。あまりに不気味である。
暴力でこの世界を破壊しようとする者らを許さないし、負けてはならない。暴力で他者を黙らせようとする動きを許してはならない。ぼくは絶対に認めることが出来ない。
安倍元首相が倒れる瞬間の映像をツイッターで見たけれど、その時、駅前の人がそこから動かず、倒れた安倍さんを振り返って眺めていたようにも、見えた。
あれがテロが頻繁に起こっている欧米諸国だったら、最初の破裂音の直後にみんな走り去っていなくなっていたに違いない。
ケネディ大統領暗殺のようなことがまさか平和な奈良県で起こるなどとはだれも思ってなかっただろうから、あそこから動けなくて当然なのだけど、犯人がマシンガンなどを所持していた場合、皆殺しになっていた可能性もある。
想像するだけでも恐ろしい。
警察には、この犯人の思想や動機や背景をしっかり分析してもらいたいが、こういうことは今後も起こりうることなので、しっかりと警戒していくことが必要である。
ロベルトやアドリアンやぼくのフランスの仲間たちからお悔やみのSMSが届いた。この事件は世界中に激震を届けた。
安倍元首相は長く総理を経験したことから、歴代の首相の中ではかなり名の知れた総理大臣であった。だから、きっと世界中で大きなニュースになっていることだろう。(フランスでも、トップニュース扱いで報じられているとのこと)
ここから、少し話が変わる。
最近、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ぼくらが戦後享受してきたこの民主主義というものが、崩壊していくような不気味さを感じてしょうがないのだ。
もちろん、欧米がすべて正しいとは思わないけれど、欧米以外の国々が結束しつつあるのも事実で、最近、破産宣言したばかりのスリランカはロシアに一部経済的支援を申し出たりしている・・・。
アフリカなどの後進地域では、中国やロシアの影響力が大きく、欧米に頼らず、違う世界との連携を模索する動きも大きい。
で、西側とかEUとか欧米が民主主義を生み出し守っていると思ってきたのだけど、もう一つの民主主義が世界には存在している。
それは西側からすると独裁政治とかそういうたぐいの世界かもしれないが、実際、彼らは力を持っていて、もう、アメリカだけでは、これらの勢力に打ち勝つことが出来ないような状態になりつつある。
そういう状況下における、この、ウクライナ侵攻なのであった。
ブラジルの大統領などは、プーチン大統領の肩を持っているし、インドもどっちにもつかず、様子をうかがっている。
今のところまだ欧米の影響力は一定力あるものの、これも数年で逆転しかねず、そうなると、今、ぼくらが享受しているこの民主主義という概念さえ、根底からひっくり返される可能性さえ孕んでいる、ということになる。
ロシア、中国、ブラジル、インドの四か国に南アフリカを加えた五か国をBRICSと呼んでいる。
ブリックスは経済新興国で、資源に恵まれている。宗教的には異なるが経済圏としては共通の認識を持っていて、面積では世界の30%、人口では43%、そしてGDPでも世界の2割以上をしめている。
ここにイランが加わろうとしているのだけど、彼らは毎年会議を開催し、欧米主導の国際秩序や外交交渉に対抗している。
一方、インドは、日米豪印でクアッドを形成している。
クワッドは「自由、民主主義、法の秩序」という基本的価値観を共有する4か国の枠組みだ。しかし、インドは、ブリックスの一員でもあり、インドと中国は紛争問題を抱えた時期もあり、インドの動きが、今一つわかりにくい。
まだ、西側の力はあるものの、西側だけが民主主義を持っているわけではなく、みんなが民主主義を口にする世界なのである。それは「自由」や「正義」という言葉と一緒だ。
ブリックスが力を付けてきた中での、ロシアのウクライナ侵攻であり、西側は、効き目はあるにしても、経済制裁をロシアに行っているわけだが、ロシアは中国と新しい経済的なしかも強いつながりを模索しはじめていて、そこに貧しい国がどんどん加わっていくならば、西側の経済制裁にも限界が生じ、西側を超える経済圏軍事同盟が形成される可能性さえある。
いったい、この後、世界秩序はどう変化していくことになるのであろうか。
G7ももはや力がない。
日本の経済力は今後、ゆるやかに落下するのは間違いなく、イタリアもけっこう厳しい。
カナダはおいといて、フランス、ドイツ、アメリカ、イギリスがいくら頑張っても、ブリックスを中心にした新しい経済圏にどこまで対抗できるのか、見通せないところもある。
現実問題、中国はアメリカをGDPでうわまっているし、中国の経済力を世界は無視できないだろうし、中国とロシアは経済的にも軍事的にもますます強いつながりを持ちつつあるし、はたして、このようなバランスの中で、西側が信じてきた民主主義だけが「民主主義」と言い切ることが可能なのか、・・・ここは考えていかないとならない大きな端境期に直面している・・・。
なので、このウクライナ侵攻からぼくは目が離せないでいる。
ここで起きていることは、明日の世界の在り方にも影響すだろうし、力を持った世界とどうやって向き合うべきか、という難問が聳えることになる。
決して、対岸の火事ではない。むしろ、その反対なのである。
欧米が、武器供与以外で、うかつにウクライナ侵攻に参戦できないのは、こういう力学が背景で働いていて、核戦争を回避させるために、ある意味、ウクライナが西側が信じるこの民主主義を守るための、防波堤、あるいは犠牲になっているという側面が強いのである。
西側は、ロシアを弱らせるカードをウクライナに期待しているのだけど、果たして・・・、この戦争が長期化して、まず、つらくなるのはどこの国だろう? 資源のない日本が心配でならない。
ぼくらは、狭く脆い橋の上を渡ろうとしている、・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
大変な世界ですけど、毎日を丁寧に生きながら、今いる世界で、暴力には反対する断固たる姿勢が大事ですね。いろいろな暴力から、・・・。
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