JINSEI STORIES

滞仏日記「久々の空港、父ちゃんはいよいよ日本に向けて出発なのだ」 Posted on 2022/07/06   

某月某日、トランクが重いので息子が下までおろしてくれた。(エレベーター無し)
当たり前のことだと思われるかもしれないけれど、子供はいつも親に甘える生き物、父子旅の歴史を振り返っても、いつも荷物はぼくが抱えて移動していた。
中学の後半、高校生になってやっと自分の荷物は自分で運ぶようになったが、ぼくのトランクを率先して持ってくれたことなどはなかった。
「パパ、何時に出発なの?」
昼食の時に息子が言ったので、時間を告げると、それからその時間までずっとサロンのソファの上で音楽を聴いて待機してくれていた。(もしかしたら、寂しいのかな?)そして、時間になると、
「トランク、おろすよ」
と言って、重たいトランクを4階からおろしてくれた。ちょっと感動的でもあった。(個人的な意見です)
うち以外のご家庭では、とくに普通のことなのだろうけど、辻家では初めてのことだったので、そこに明らかな息子の成長をみた、気がした。
ぼくはタクシーに乗り、シャルル・ド・ゴール空港を目指した。
2020年に一度日本にとんぼ返りしているので、2年ぶりの帰国である。
前回は二週間の隔離がきつくて、気がどうにかなりそうだった。その時のシャルル・ド・ゴール空港は人がまったくおらず、閑散としていたが、久しぶりの空港はいつも以上に活気を取り戻し、実に、賑やかであった。

滞仏日記「久々の空港、父ちゃんはいよいよ日本に向けて出発なのだ」



カウンターに行き、日本行きのチケットを貰った。
係員は全員、フランス人の空港職員さんなのだけど、お客さんの誘導などは日本の航空会社地上係員さんがやっている。
チケットを貰って、出発ゲートへ向かおうとしていると、日本の係員の方がいたので、荷物の件で聞きたいことがあり、声をかけた。
そのやり取りの後、行こうとしていると、
「三四郎君は元気にされていますか?」
と不意に・・・。
「はい、元気にやっているようです・・・」
驚いて、とんまな回答をしてしまう。笑。
三四郎という響きがぼくを現実に連れ戻した。昔はたまに「息子さん、お元気ですか」と聞かれたものだったが、今は三四郎なんだと思わず苦笑してしまった。ここにも歴史の変遷がある。長く生きてるものなぁ・・・。あはは。

滞仏日記「久々の空港、父ちゃんはいよいよ日本に向けて出発なのだ」



日本に着くと、NHK制作会社の義和ディレクターが出口で待っていてくれる。
彼に、撮影したデータを渡す。といっても、AirDropで、ぼくが撮影した三四郎とか息子の映像をゲート出たところで携帯から携帯に送信するだけ。凄い時代だ。
それで4K番組が出来てしまうのだから、まじ、アイホンは凄い。
ちなみに、ぼくは優秀なカメラを数台持っているが、軽さ、画像の美しさ、機動力など、アイホンには敵わないのであーる。
それはおいといて、空港の出発ロビーの端っこに行き、最後の自撮りを行った。
これからのこと、これまでのこと、「ボンジュール、辻仁成のパリの夏ごはん」の番組の最後の場面に使いたいので、お願いします、と義和さんに頼まれての自撮りであった。(恥ずかしげもなく、できちゃうところが、笑えるね)
もちろん、夏に待ち受ける三年半ぶりの大仕事のことなど、ちょっとだけ語った。使われないとは思うけど・・・、
この日記では言えないことが実はたくさんあって、というのはいつも不確実で、不意に中止になることが当たり前の世の中になってしまったので、こういうことを今やっているんだ、というのがなかなか宣言し難い時代なのである。
そういう不確実性の強い世の中にぼくらはいるので、日記も、未来のことをあまり語ることができない。日々のことばかり・・・。夢はどこへ・・・。
そもそも、そういうことはあの番組にはあまり関係がない。依頼される映像もすべて、息子か三四郎のことばかり、笑、この時代のうねりのようなものは、強く描かれてはいない。
でも、透けては見えるかもしれない。たぶん、それでいいのだと思う。日々は、丁寧に生きることの中にある、穏やかな陽だまりのようなものだから・・・。
義和さんは会ったことがないけど、いいやつだと思う。そうじゃないとああいう番組は作ることが出来ない。・・・なにせ、ぼくが嫌なやつなので、えへへ。空港で対面するのを楽しみにしている。きっと変な奴なんだろうなぁ。愉しみ~。

滞仏日記「久々の空港、父ちゃんはいよいよ日本に向けて出発なのだ」

※ 自撮りの動画より。こんなことして、シャルル・ド・ゴール空港を独り占めする父ちゃん!



それにしても、光り溢れる広々とした素晴らしい空港だった。
ぼくは自撮り撮影をしてから、飛行機に乗った。
久しぶりの機内、CAさんたちがきびきびと動き回っている。
航空会社さんは本当に大変だったろうなぁ、このコロナの時代・・・。
今も、ロシア上空は戦争のせいで通ることが出来ない。この飛行機は中東をまわって普段より二時間ほど長いフライト時間となる。先週末は空港がストライキを行い、日本便でもの凄い数のロストバゲージが出た。日本にたどり着くまで安心できない。
ストは日曜日に終わったようで、ぼくは影響を受けていない。思ったよりもスムーズに移動出来ている。日本政府が発行した「MySOS」も役立っている。

滞仏日記「久々の空港、父ちゃんはいよいよ日本に向けて出発なのだ」



感染症や戦争の影響で世界が一時的に遠くなっているが、その分、ネットなどが大きく躍進をしたのも事実だ。
ということで、ぼくもこの日記を、離陸する飛行機の中から配信することになる、かな。
では、皆さん、日本で!!!!

つづく。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。
飛行機の中でぼくはたまった仕事をやって、ちょっと仮眠をして、時差調整をしつつ、日本に降り立ちたいと思います。空港で母さんにお土産を買おうと思ったら、職員の態度が酷くて・・・。ぼくが仏語をしゃべらないと思ったのか、小言が・・・あなた、言いたいこと言うな、聞こえているぞ、と文句を言ってやりました。「マダム、ごめんなさい」と謝られたのだけど、ムッシュじゃああああ、と怒鳴り返してやった、62歳の父ちゃんでした。あはは。なので、お土産ないのよ~、母ちゃん、すまん。
さて、お知らせです。
そんな父ちゃん、7月28日に、都内某所からオンライン小説講演会を開催させて頂きます。一度は小説を書いてみたいなぁ、小説憧れるなぁ、書きたい、と思われる皆さんを対象にした講演会です。(抽選で40名の皆さんを現地にご招待します)小説教室の導入的な、ぼくがどうやって小説家になったのか、作家になるまでのいろいろ、そして、ちょっと小説の書き方のヒントなど、をさらけ出したいと思っております。人生についても、さらけ出せ仁成! 文章教室第二段の入り口になりますので、ぜひ、ご参加ください。
詳しくは下の地球カレッジバナーをクリックくださいませ。良い一日を。

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