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新・息子のための料理教室「独り立ちに最適な炊飯器飯」 Posted on 2022/07/04 辻 仁成 作家 パリ

パパはもうすぐ、日本に出発する。いつもと違って、今回は冷蔵庫に解凍すればすぐ食べられるようなものは何一つ買い置きしていない。
君はパパが出発したら、この夏の間、たった一人で料理をして、生き抜いていかないとならないんだ。サバイバル番組みたいなものだな。
しかし、笑っていらないよ。これは、初めてのことだし、結構大変だと思うけど、大丈夫かい?
まず、最初に言っておかないとならないのは、料理をし終わったら、食事が終わったら、毎回、きちんと片づけること。食洗器にお皿をいれ、定期的に洗うことだ。
洗ったら、食器を所定の位置に戻すこと。それは絶対やるように。
キッチンのシンクの中にお皿がたまっていくと、夏だし、不衛生極まりないからね。必ず守ってほしい。
一週間の食費は70ユーロだから、そこを超えないようによく計算をして買い物をしないと、すぐにお金なんてなくなってしまうからね、いいね?
何にいくらかかったか、買ったものをメモしていくと便利だよ。70ユーロごと、封筒に入れて小分けしてあるから、そこに書きこんでいけばいい。最初の一週間をそれで乗り切ることが出来たら、スタートは合格点ということになる。
ということで、昨日はペペロンチーノの作り方を教えたけれど、今日はこの炊飯器を使った超簡単な料理を教えたる。これは便利だぞ、調理時間は10分だ。

新・息子のための料理教室「独り立ちに最適な炊飯器飯」



一人暮らしの場合、カレーライスなどの作り置きの食べ物も便利だと思う。
パパが出発する前にカレーライスの作り方ももう一度教えてあげるけど、夏の間は日持ちしないので、残ったものは必ず冷蔵庫に、(冷めてから入れること)、そして、早めに食べることだ。夏の間は、食中毒など気を付けないとならないよ。
よし、じゃあ、さっそく、炊飯器料理の仕方を教えよう。
前に一度、シンガポールライス(海南ライス)を一緒に作ったことがあったけど、鶏肉はちょっと処理をするのが難しい。
皮つきの鳥もも肉をフォークでさして穴をあけ塩コショウをし、ジップロックにいれて酒を振りかけ、30分ほど下味をつけないとならない。
料理というのは慣れるまで、あまり下ごしらえが多いと、面倒くさくなってやらなくなるから、今日は下味をつけないでもすぐに料理が出来るこれ、そこのスーパーで売ってる真空パックのタラを用意した。
もし、タラがなければ、冷凍食品のサーモンでいい。
サーモンの方が脂がのっているからその分、旨味が出るよ。
この炊飯器料理をマスター出来れば、夏なんか簡単に乗り切ることが出来るぞ。
昨日教えたペペロンチーノも、トマトペーストを最後に入れたら、トマトパスタになるし、クリームを少しいれて、缶詰のサーディンなどと和えればクリーム系のパスタも出来る。
応用が効く料理だったよね。
ところで、炊飯器はもっと応用が効く。君の想像力の出番ということになる。
とりあえず、二人分、1合半の米を研いでごらん。お米の研ぎ方はわかるよね。普通にお米を炊くのとかわらない手順でいい。水もいつも通り、一合半より、やや少ない水の量をいれておくこと。ここまでいいかな?

新・息子のための料理教室「独り立ちに最適な炊飯器飯」



お米を炊く前までの作業工程は一緒なんだ。
これにダシをいれて、具材をいれて、生姜とニンニクをお好みで入れて、葱などの青い部分とか昆布とかコリアンダー(パクチー)などを投入し、蓋をし、スイッチのボタンを押すだけ、な、簡単だろ。あとは炊飯器が君にかわって、作ってくれる。
皮つき鳥もも肉で作れば、海南ライスになる。タラの場合の名前は知らないけど、炊飯器ライスでいいんじゃないの?
いいか、大事なのはイマジネーションだ。炊飯器が具材も一緒に炊き上げてくれるわけだから、お米にどうやって香りがうつるかを想像すればいい。
さ、想像してごらん。料理とは想像の仕事なんだ。
どういうものが合うと思う。ダシは? 何風にするかでダシが決まる。海南ライスは鶏がらスープの粉を使ったよね? タラの場合は?
そう、和だしでオッケー。でも、今回はもっと便利なものがあるから、茅乃舎の「野菜ダシ」を使おう。コンソメ風のダシだけれど、美味しいよ。
一袋を破り、中の粉をぶちんでしまえ。
調味料入れに和だしの素もあるから、野菜ダシにあきたら、液体の和だしだと、さらに和風に仕上がるよ。マギー社が出している、この野菜ダシも茅乃舎よりワイルドな味わいが出て、便利だよ、好きなもので作ればいい。

新・息子のための料理教室「独り立ちに最適な炊飯器飯」



で、次にパパが必ずいれるのは、ニョクマム(ナンプラー)なんだ。
魚で作った醤油(魚醬)さ。これが東南アジアの人の知恵が満載で、実に旨味を引き出す。日本にも東北の方にしょっつるという魚醬があって、江戸時代とかに広まった。
もともと魚醬は中国・韓国、東南アジア一帯で使われていた万能の調味料なんだよ。
タイだとナンプラー、ベトナムのニョクマム(ヌクマム)カンボジアのタクトレー、など世界中に様々な魚醬調味料が存在する。
パパはベトナムのニョクマムを愛用しているけど、中身はほぼ一緒。これを少し振りかけると風味がぐんと増すので、おすすめだよ。
それから、生の生姜を輪切りにして、一枚か二枚。ニンニクを一片入れる。ま、生姜は必ずいれるように。そして、生唐辛子をちょっと入れておこう。え? 
昨日習った、ペペロンチーノに似ている? 
そうなんだ。ペペロンチーノはニンニク、生唐辛子、そして、アンチョビだったね。このアンチョビと魚醬の位置は似ているかもね、役割が。
もともと古代ローマにもガルムという魚醬があったのだとか・・・。料理の作り方は基本のところで通底している。

新・息子のための料理教室「独り立ちに最適な炊飯器飯」

※手作りの胡瓜のきゅうちゃん。小さな胡瓜が売っていたので作ったら、めっちゃ美味かったあ!!!!



それから、風味をもっと出すために、パパは葱の青い葉っぱの部分、普段は捨てる硬いところを香りだしのために、使う。
コリアンダーでもいいし、和風感を強くしたい場合は昆布とかも面白いね。風味の強い何か、思い付いたらいれてみたらいいよ。
お好みで塩コショウをして、蓋をして、ボタンを押せば、はい、あとは炊き上がりを待つだけだ。簡単だろ?
じゃあ、ボタンを押してごらん!
よし!!! これで、この夏を乗り切れ。

つづく。

ということで今日も読んでくれてありがとう。
皆さんもぜひ、炊飯器ライス開発してみてください。基本のやり方は上に書いた通りです。工夫次第でもっと面白い料理が作れますね。レッツトライ。
さて、父ちゃんからのお知らせです。
さきほど、マガジンハウスから連絡があり、「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」3刷、10000万部増刷となりました。ありがとうございます。発売前に2刷、直後に3刷、滑り出し好調ですね。
そして、地球カレッジ二周年企画、講演会形式のオンライン講演会「小説を一度書いてみたいあなたへ」と題して、お送りします。応募された方の中から40名の皆様を抽選で都内秘密の講義室へご招待いたします。詳しくは、下のバナーをクリックください。

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※ 残ったごはんはお握りにしてください~。うまいよー。



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