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滞仏日記「息子に買い物の仕方を伝授する。父ちゃんの家事と人生の極意」 Posted on 2022/07/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、補欠の大学の順位の上昇が止まった。がっびーん。
1500位から100位台までは順調だったのに。ここに来て、昨日が101位、今日100位なのだとか、・・・。さすがにみんな進む大学を決め始めたということである。
でも、息子くん、志望校には入っているし、国立なので学費がゼロだから、親孝行この上なく、父ちゃん的には有難い。
上を見ればきりがない。
どこの大学に行くかよりも、何を勉強したいか、が大事だ、とぼくは歩きながら息子に言った。ということで、その時、ぼくらはアジア食材店を目指していた。
今日はぼくの行きつけのアジア食料品店に連れていき、どういうものを買えばいいか、などを教える日なのだ。
明日は近所のスーパーや冷凍食品店に連れていく。
買い物というのも、限られた予算の中で、最大限ほしいものをゲットしてこその、自炊の達人である、・・・と父ちゃんは歩きながら買い物道について息子に伝授したのであった。
ちなみに、昨夜、ぼくの不在期間中に使う食費が決定し、袋に詰めて贈呈式を行った。発表します。息子君の一週間の食費、「70ユーロ」(約1万円)!

滞仏日記「息子に買い物の仕方を伝授する。父ちゃんの家事と人生の極意」



一週間一万円は高いと思われるかもしれない。しかし、フランスは日本の倍から3倍物価が高いと思ってもらいたい。
カフェのランチ、ハンバーガーなど頼むと、15ユーロ前後が相場であろう。
日本のランチだと、700円くらいで食べれられるし、飲み物付きだったりするが、そんなのはとんでもない。モジャ男のカフェで、ランチを頼むと1600円くらいはかかる。それに飲み物、400円、としても2000円だ。ぼくはワインを飲むので、もっとかかってしまう。ワインが一杯で済まないことの方が普通なのであーる。
なので、カフェは学生には敷居が高い。彼らはスーパーでパンとハムを買って、公園で食べたりしている、若者らしく・・・。
一人暮らしを始める息子に、人生の予算というものを教えることは親の役目であろう。一日、10ユーロでやってみろ、と教えた。
彼は「そんなにいらない」と最初言った。でも、説明をしたら、
「そうだね、そうか、パパがいないなら、それくらいかかるかもしれないね」
と納得していた。
ともかく、いっぺんには教えられないので、夏休み、彼が一人で暮らすこの期間を利用して、自炊、買い物、掃除などの家事を覚えていけばいい、ということになったのだった。

滞仏日記「息子に買い物の仕方を伝授する。父ちゃんの家事と人生の極意」



パリ市内あちこち、日本食材を扱う食料品店が増え続けている。
中国系、韓国系、ベトナム系、日系、カンボジア系などがある。
どのアジア食料品店に行っても、日本食材は豊富に揃っている。
味噌、醤油、ビール、お酢、マヨネーズ、ソース、蕎麦、うどん、インスタントラーメン、ジュース類、スパイス類、冷凍食品、などなど、困らないくらいなんでも揃う。
20年前とは比較にならないくらいの充実ぶりである。
そういう優れた店が近所にあることを知らない息子をまずはそこに連れていき、店員の人たちを全員紹介し、何処に何があるか、などを教えるところからはじめたのであった。
「パパがいない間、何が食べたいの?」
「和食」
「和食の何?」
悩む息子、ええと、・・・。
「納豆、豆腐、餃子、シャウエッセン、ほうじ茶、とかかな」
ぼくは、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「それ全部そろいます!!!」
と言いながら、店内を案内したのだった。
「わ、水戸納豆じゃん」
「餃子もあるよ」
「ほんとだ。ほしい」
ということで、あっという間に買い物バッグがいっぱいになってしまった。あはは。

滞仏日記「息子に買い物の仕方を伝授する。父ちゃんの家事と人生の極意」



二人で並んで、家路についた。
途中、カフェのギャルソンや、イタリア惣菜店のお姉さんとか、肉屋の店員さんとか、お巡りさんまで、手を振ってくれたので、横にいる息子を指さし、
「ぼくの息子でーす」
と紹介し続けた父ちゃん。あはは。
息子は恥ずかしそうにしていた。
「パパ、顔広すぎる」
「お巡りさんまでみんな顔見知りなんだよ。怖い者知らずだろ? パパの息子だ、みんな君のことを助けてくれるぞ。世界ってのは、そうやって広げていけ」
「うん」
ともかく、何事も勉強なのである。そうやって、世界と自分との距離感を掴んでいけばいいということである。
家に帰ると二人で食料を冷蔵庫にしまった。
お肉も冷凍しとけば食べたい時に便利だから、と牛肉の薄切り肉と豚のひき肉を買い、小分けして、冷凍庫に仕舞った。

滞仏日記「息子に買い物の仕方を伝授する。父ちゃんの家事と人生の極意」

※ アイスコーヒーがなぜか、滅多にないフランス。なので、自分でつくっちゃう父ちゃんなのであった。あはは。



「肉は冷凍焼けするから出来るだけ早めに食べること」
「うん」
「冷凍納豆は一度水をくぐらせるとプラスティックケースから簡単に外せる」
「うん」
「餃子は冷凍のまま焼けば、皮パリになる」
「うん」
「冷凍シュウマイは蒸し器でやればふわふわになる」
「うん」
「冷凍の肉はチンしないで、料理する3時間前に外に出して自然解凍だ」
「うん」
「冷凍ソーセージは炒めないで、沸騰した湯にぶち込め」
「うん」
「残った炊飯器のごはんは温かいうちに冷凍をしなさい」
「うん。あ、でも、なんで?」
「湯気も一緒に凍って、解凍するとほどよく蒸されて、美味しくなるんだよ」
「へー」
息子は真剣に料理に向かいたいみたいであった。
大学に行く前にもうちょっと本格的に教えてあげることを約束した、辻父子であった。ちゃんちゃん。

つづく。

ということで今日も読んでくれてありがとう。
カフェのギャルソンに「息子だよ」と言ったら、「嘘―」と言われました。その近くに顔なじみの警官がいて、いつもこわもてなんだけど、その日は笑顔で、一緒に「嘘―」と言うとりました。あはは、フランス、平和です。
さて、父ちゃんからのお知らせは、
マガジンハウス刊「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」発売中。週明け、またまた増刷が決まりそうです、と大島さん、ほんとうだろうな!笑。
大和書房刊「息子のための料理教室」六刷が出そろい、現在、七刷の印刷中だとか、品切れで手に入らなかった皆さん、おまたせしました。
そして、そんな父ちゃんの小説教室の前哨戦、「小説を一度は書いてみたいあなた」のための小説道オンライン講演会を7月28日に行います。(40名を抽選で現地にご招待)
詳しくは下の地球カレッジバナーをクリックください。

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