JINSEI STORIES
滞仏日記「一人で生きる飯の基本、それは毎食に命をかけること。人生の醍醐味を食す」 Posted on 2022/06/19 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、熱波に襲われたフランス、昨日から今日にかけてパリは40度、ぼくがいる海沿いの田舎でも37度を超えた。
毛皮を着ている三四郎はずっと風呂場のタイルの上でぐったりぽん。犬はつらいのだ。
なにせ、浜辺に連れて行っても、砂が熱し切っており、火傷しそうな状態・・・、残念だが、日中は海には行けない。
だから、今日は朝の8時にお散歩をした。
「老後」という言葉、ぼくは嫌いだけれど、息子が大学生になった以上、ぼくにもいつかその問題が襲い掛かって来る。
在仏の40代日本のママさんたちが「日本人向けのフランスの老人ホームを作りたい」と言い出し、先日、相談にのったのだけど、なんか、話の流れで、「辻さんみたいな愉快な人が年老いて楽しく暮らせるようなそういう明るい介護老人ホームを作りたいんです~」とか言われ、
「ぬ、ぬ、ぬあにおおおおお!」
と、顔を赤らめた父ちゃん・・・。
笑ってごまかしながらも、がっかり落ち込んだ父ちゃんなのであった。62歳っていうのは、そういう年齢なのか・・・。いやだぁ。(´;ω;`)ウッ…
ともかく、悔しいからぼくは腹筋を昨日から600回に増やしてやったのであーる。
ぼくはここから三四郎を20年は育てないとならないのだから、老けるわけにはいかない。息子だって、大学院まで行くのだ、まだまだ、ぼくは働かないとならない。
ということで、やっぱり健康で元気で明るく生きるためには、「丁寧な食事」が大切だという結論にたどり着いた父ちゃんなのである。
帰り道、港の脇にマルシェが出ていたので、三四郎を連れて行った。(スーパーに犬は入れないが、マルシェは外なので、サンシーもOK!!!)
※ 父ちゃんの田舎の家、あはは、ここに三四郎がおりまーす。皆さん、お元気ですか???
この辺りの漁師たちが出している魚屋があったので、覗いたら、夏を代表するシャンシャー(アジ)が並んでいた。おお!
フランスだと、やはりこの時期が旬の魚で、他の季節に見かけることはない。日本のアジより大きく、ごつい感じ。
日本の魚とフランスの魚、お味は大体一緒だけど、弾力と見た目がちょっと違っている。
鯛とかも、なんか、ごついのだ。アジの隣に、天然もののスズキが売られていたので、思わず買った。衝動買いであーる。
とりあえず、土曜日と日曜日の二日間は魚三昧でいこう。
だいたい、つねに、二日分の食材を買うように心掛けている。
アジは一匹というわけにはいかないから、二匹買い、スズキは小ぶりだったから、一尾にした。
一部を刺身にし、一部は焼き物にするとか、揚げ物にすれば、3食か4食分にはなる。
こういうことで悩むことも「一人で生きる飯」の重要な要素。何を食べるか、というよりも、今日を慈しむことが大事なので、どうやってこれらを美味しく頂いてやろうか、ということに気持ちを注ぐのが基本中の基本となーる。
「一人で食べる飯の基本、それは毎食に命をかける。人生の醍醐味を食べ尽くすことに重きを置く人生そのものだ!」
ということで、父ちゃんの手元には、アジとスズキがある。
これをどう料理するか、それこそ、今日を豊かにするコツと言えるだろう。
感染症が広がろうと、戦争になっても、人間は喰わないわけにはいかないし、生きなければならない。
美味しく生きることで、不安や恐怖から自分を守ることが出来る。
朝はどんなに忙しくても、一杯のコーヒーで心を落ち着かせ、出陣する。
毎日毎日を大切に食するために、父ちゃんは丁寧に料理をする。それが楽しいし、美味しく出来た時の喜びはその日を偉大にさせる。
生を倍楽しくさせるためにも、人は男女問わず、料理を学ぶべきなのである。
ということで、悩んだ挙句、アジはエスカベッシュに、スズキは肉のしまり具合が絶妙だったので、カルパッチョにすることにした。
洋風に言えばかっこいいが、要は、南蛮漬けと刺身である。
ポルトガル辺りから日本に入ってきた南蛮漬けは、漬けた翌日食べる方が味が染みてうまい。今日は漬けるだけにし、明日、食すことに。
フランスは熱波で猛暑なので、酢漬けが最高である。美味しいワインビネガーがあるので、それで作ればいい。
ということはスズキは今日食べなければならない。昆布茶を振りかけ、とろみを出す。昆布茶を使うと、短い時間で十分しめることが出来る。辻家、昆布茶は常備品なのである。
ところが、凄いハプニングが起きた!!!!!
シャンシャーを捌いたら、中から、でっかい、こっこが出てきたのだ。
そこで、急遽、こっこは煮つけにし、今日、食べることに。
スズキの刺身、アジのこっこの煮つけ、それからマルシェで買った胡瓜で「胡瓜のきゅうちゃん」も作った。どうじゃ!!!! 老人ホームはまだ必要ない!!!
※ こっこの煮つけ、うまかった~。こういうのはご褒美だね。そして、昼間は冷凍の鰻。ま、海外で生きていると、有難いことです。
安価な材料で、次々にうまいものが出来ていく。これこそが、父ちゃん流の「一人で生きる飯」の醍醐味なのであーる。
ぜんぜん、寂しくない、ぜんぜん、美味いのである。
ご飯でもよかったが、昼間にうな丼を作って食べたので、夜は大根おろしの蕎麦とスズキの刺身、胡瓜のきゅうちゃん、アジのこっこの煮つけ、という布陣で行くことになった。
路線が決まると、そこへ向けて一日が動き出すから、嬉しいじゃないの~。
食べる前に、いただきます、と神様に感謝をしてから、生きていたものたちを頂き、今日を全うした62歳の父ちゃんであった。
老人ホーム、それは、とっても失礼な提案なのであった。ぷんぷん。
あはは、人生に浸る、それがぼくの辻道なのである。
悩まず、笑え。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうサマーです。
さて、父ちゃんのオンライン・エッセイ教室が近づいてきましたよ。こちらはまだまだ売り切れておりません。ぜひ、文章好きな皆さん、ご参加くだされ。
今回が今年度上半期のまとめ的なエッセイ教室になるかと思います。
ブロガーのみなさん、エッセイともっと楽しく向き合ってみたい皆さん、文章を読むのも書くのも好きな皆さん、どんどん、ご参加あれ!!!
6月26日の日曜日になります。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックください。
そして、今夜は、スズキの刺身とお蕎麦なのである。絶品であった~。
※ なんだって、作る。手作り、胡瓜のきゅうちゃん!!!