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滞仏日記「今日、ぼくは一人で生きていくためのアパルトマンの内見をした」 Posted on 2022/06/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は三四郎を連れて、新しいアパルトマンの内見に行ってきた。ふー。
息子が大学に合格したので、計画通り、息子はとりあえず家を出る、そして、ぼくは当初からの計画通り、田舎に拠点を移し、パリのアパルトマンは規模を小さくし、引っ越す、ことに・・・。
イメージとしては「息子の家賃&生活費+新しいアパルトマンの家賃」=「今住んでいるパリのアパルトマンの家賃」、みたいな・・・。
日本に仕事で戻る前に、この6月中に新しいアパルトマンを決めて、帰仏後、いよいよ引っ越し、という段取りなのであった。
計画通りに事が進むとは思っていないけれど、とりあえず、ぼくの元には物件サイトからちょこちょこ情報が寄せられてくる。
そしたら、一週間ほど前のこと、なかなかに素晴らしい物件が出てきた。
これが、ちょっと信じられないくらい好なの物件なのだ。

滞仏日記「今日、ぼくは一人で生きていくためのアパルトマンの内見をした」



どこが好物件かというと、今の家賃よりも、ちょうど(日本円で)10万円くらい安いのである。
なのに、平米数で比較すると、(3割弱狭い感じだが)一人なら十分過ぎる広さがある。
もっと狭いところを探していたのだけど、広い分には問題がないよね~。
それだけじゃなく、そこには中庭に面して、小さなベランダがついている。
1930年代、アールデコ調の建築物なのがうれしい。
それだけじゃなく、なんと駐車場付きである。
パリは駐車場が足りなく、借りたくても今のカルチエ(地区)には見つけられなかった~。
なので、この4年間は路駐だったのだ。
みんな路駐だし、路駐の方がうんと安いのだけど、ぶつけられたり、悪戯されたりするので、出来れば駐車場が欲しかった。
それだけじゃなく、なんと建物の最上階にシャンブル・ド・ボンヌという、昔、お手伝いさんらが寝泊りしていた小さな小さな屋根裏部屋が付帯している。
古いアパルトマンには屋根裏部屋が付いてるところが多い。
このアパルトマンには、その可愛い部屋がついていたのである。
最上階からのパリの景色は素晴らしいので、いつかここに小さな仕事場を置きたい、と思っていた。
「小説の部屋」もしくは「ギタリストの部屋」にうってつけではないだろうか。

滞仏日記「今日、ぼくは一人で生きていくためのアパルトマンの内見をした」



それだけじゃなく、光熱費と管理費が家賃に含まれているのである。信じられないことに!!! 
管理費、光熱費、駐車場代、屋根裏部屋代を別途換算するとしたら、15万円ほど余分にかかってしまうのじゃないか、え? 
今の家賃より、10万円安い物件で、そこから15万円引くと、もはや、驚き、えええええ!!!
いやいやいや・・・。笑。
そんなことはないだろうが、と、ともかく、安いし、しかも、それだけじゃない、閑静な住宅街の真ん中にこのアパルトマンはあるのだ。
周囲には活気ある商店街あり、カフェが連なる人気の通りもあり、マルシェも近くに立つ。なのに、建物の中に入ると、騒音はゼロ、中世風の中庭に出られるというのだから、素晴らしい。
見た瞬間、躊躇いはなかった。
しかも、管理人さんが常駐なので、安心して暮らすことが出来るのだ。(今は管理人さん無し)



間取りは、大き目のサロン(日本でいうリビングルーム)、仕事場、寝室というシンプルな構成であった。
子供部屋はなくなるし、風呂も一つ、トイレも一つだけれど、ぼくには、十分過ぎる・・・。
三四郎の部屋はどこにしよう? おっとそれは考えてなかった。
ま、おいおい考えることにしようか。

とりあえず、審査があるので、まだ借りれるかどうか分からないし・・・。(審査は、今住んでいるアパルトマンの三か月分の家賃領収書、納税証明書、銀行保証書などで通過するので、問題はない。20年間、やってきたことなので・・・)
寝室には暖炉があり、小さなベランダがあり、中庭が見えるので、そこにもちょっと寛げる空間を作ることが出来る。小説家の家らしくなる・・・。
息子がごはんを食べに来た時に、泊まりたいと言ったら、屋根裏部屋に寝ればいいし、サロンのソファでゴロンして、朝帰ることも可能だ。
二コラ君たちの家からは遠くなるけれど、ま、来れない距離ではない。
やっぱり、三四郎の部屋が問題になりそうだけど、ま、なんとかなるでしょう。うんち(ポッポ)が出来るようになれば、放し飼いも、ありだしね~。あはは。
光がたくさん入る部屋なので、ぼくの新生活に新しい創造のヒントを与えてくれるかもしれない。
とりあえず、はじめての内見だったが、今すぐに暮らしたいと思えたパリらしい素晴らしい物件であった。



「サンシー、どう思う?」
「わん。(いいね)」
こんなに「おいしい話」は怪しいと思った方がいい? 
たしかに・・・。ちょっと、話が良すぎるのが、不安もある・・・。幽霊とか出るのかもしれないね・・・ありえる。
借りたい、と思ったが、いつも焦って失敗する父ちゃんなので、ここは一晩よーく考えてから申込書に記入をすることにしたい。えへへ。
よかったよかった・・・。

つづく。

今日も読んでくれて、ありがとうございます。
お知らせです。
ビルボードライブのチケットは少なくとも3公演は売り切れているようだけど、まだ、調査中だから言わないで、とイベンターの中原さんから連絡がありました。
大阪のセカンドステージのチケットはS席は売り切れているけど、他はまだ購入できます、と言っておりましたので、ほんとうか、大至急、分かり次第、ご報告します。
それから、6月17日にNHK・BSの新作「ボンジュール、辻仁成のパリの春ごはん、2022年版」が放映されます。
6月30日には、「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」も発売されます!
そして、6月26日は、おまちかね? 父ちゃんのオンライン・文章教室ですよ!!!
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