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滞仏日記「三四郎を前にオンステージした父ちゃん、うんざりなさんちゃん」 Posted on 2022/06/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「いや、辻さん、絶対に売り切れることはありませんから、関係者のチケットとか慌てなくても大丈夫」とイベンターの中原氏が豪語していたことを思い出した。
3年半ぶりの日本でのライブだけど期待されてないのがよくわかった中原氏の一言、笑。それでも、日本でライブが出来るだけでも、嬉しい父ちゃん62歳なのだった。
ということで、ついに今日、6月13日、日本時間の月曜日、正午から父ちゃんのビルボード4公演(8/8大阪、8/12横浜)のチケットが一般販売される。めでたし。
売り切れないにしても、前の方で観劇してもらいたいので、皆さま、よろしくお願いいたします、なのだった。笑。
「別に、62歳のおやじなんか見たくないわよ、辻さん!」
そ、そりゃあ、そうですね。すんません。えへへ。ま、閑話休題。

滞仏日記「三四郎を前にオンステージした父ちゃん、うんざりなさんちゃん」



しかし、ロッカーとしてはチケット発売日を目前に、ここは奮起しなければならない。
曲順を決めなければならないので、とりあえずイメージしている曲順で通し稽古をすることにした。
今回はアコースティック・セレナーデというタイトルなのだ。
「オーチャードホールの中止になった回と全く同じタイトルじゃないですか」というご批判を受けつつも、この「セレナーデ」には父ちゃんなりの特別な思いが込められている。
通常、セレナーデとは「夜、恋人の家の窓辺の下で、恋人に届けるために歌う愛の歌」という意味があるのだ。
コロナ禍だし、激しいロックは出来ないので、父ちゃんの愛の歌を集めて、歌い上げるラブ・バラードのコンサートにしたい。
コロナや戦争で傷ついた皆さんの心に寄り添いたいし、安全にライブをやりたいという願いがそこに込められているのであーる。

滞仏日記「三四郎を前にオンステージした父ちゃん、うんざりなさんちゃん」

※ 今日の昼ご飯は、生ハムメロン~!!! 



しかし、観客がいないと調子が出ないので、今日は三四郎の部屋にマイクを持ち込み、肘掛け椅子の上に寝そべる三四郎に向けて、通し稽古を行った。(いい迷惑)
三四郎の後ろに大勢の観客がいることをイメージしながら歌う62歳、まだまだ若い者には負けません! 笑。
最初はおもしろがって観ていた三四郎だったが、そのうち、視線をそらし、顎を投げ出し、遠くの方をじっと見つめるようになった。
それでも、誰もいない部屋で、白壁に向かって演奏をするのもつまらない。顎を突き出し、時々、黒目だけが父ちゃんをしら~っと見上げるサンシーがそこに、つまり、客席にいてくれるだけでも、心の支えになるのであーる。
「愛しているよ~、♪、死ぬまで~君を~、パリの空の下で、生きてきた~♪」
しーん、拍手なし~。
すると、三四郎がおもむろに椅子から飛び降り、オ、と思わせる行動を。父ちゃんは歌いながら、三四郎を目で追った~。すると、おしっこシートの真ん中で、しゃ~~。
ひらぱ~。(ひらかたパークのテーマ曲です)

滞仏日記「三四郎を前にオンステージした父ちゃん、うんざりなさんちゃん」

※ 62歳、がんばる。写真はイメージです。この写真は前に、息子くんに撮影してもらったもの。でも、だいたいこんな感じでした。笑。



やれやれ。
小一時間で歌の練習を終えて、ぼくは三四郎と散歩に出た。
すると、三四郎の仲良し、エルメスがいた。
三四郎、不意にはしゃぎだした。
父ちゃんのコンサートの時はあんなにつまらなさそうだったのにイ~。
二匹は広場をぐるぐると走り回ったのである。
ところで、エルメスのご両親とは顔見知りだったけど、特に話したことはなかった。
ムッシュは仏人俳優のジャン・レノに似ているし、マダムの方はスカーレット・ヨハンソンにくりそつの、美男美女。気になる、その素性・・・。あはは。
じろじろと見たわけじゃないのだけれど、今日はなんとなく、目が合ったので、エルメスのパパさんの方に、
「やあ、エルメスはいつも、可愛いね」
と声をかけてしまった。
二人は英語がネイティブだったから、フランス人じゃないだろうな、と思っていた。
そこから、なんとなく、犬ご縁を通して会話に発展し、ぼくが日本人だと告げると、屋久島と礼文島に行ったことがあるとジャン・レノが言い出したので、話が加速した。
ムッシュの方はフランス人だけど、エストニアを拠点にしているITの起業家さんで、マダムの方はキーウからやって来たウクライナ人とのこと、びっくり。世界は広い。
「わ、大変ですね、今、キーウの皆さんのことを思うと胸が・・・」
英語だったので、言語の切り替えが一瞬出来ず、伝えたかったことが言い切れず、ちょっと尻切れトンボになった父ちゃん。でも、マダムはずっと笑顔でいてくれた。
実は、エストニアはITビジネスが欧州でも抜きんでて盛んで、小さな国なのに、面白い。ずっと興味のある国であった。
アメリカ、フランス、エストニアを結んで事業展開をしているのだそうだ。
今日は、はじめてのやりとりだったので、そこまで深い話にはならなかったけれど、なんとなく、仲良くなりそうな予感・・・。誰とでもすぐに仲良くなるこの性格、えへへ・・・。
「あなたの名前は? ここに書いてもらえますか?」
ぼくが作家だと告げると、名前を知りたい、本を探したい、とムッシュが言い出したので、TsujiHitonariと彼の携帯に打ってみた。ネットで検索をしていたから、次回、会う時はもしかしたら、もう少し深い話になっているかも・・・。
三四郎がご縁で、また、新しい登場人物たちの出現である。ジャンとスカーレット夫妻・・・。うっとりするようなナイスカップ!

滞仏日記「三四郎を前にオンステージした父ちゃん、うんざりなさんちゃん」



「ぼくは作家だけど、ミュージシャンもやっているんです」
「へーそれは興味深いですね。どんなジャンル? ぼくら音楽大好きだから」
「来年、パリで大きなコンサートを計画しているから、お誘いしたいなァ」
「ぜひ!」
ということで、もっとウクライナのことやエストニアのことを知りたかったのだけど、あんまり根ほり葉ほりも聞けないので、今日は、退散をすることにしたのだった。

つづく。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。
そして、いよいよ、今日、ビルボードのチケットが発売になります。がらがらかもしれませんが、一人でもいてくださるなら、めっちゃ本気で頑張るので、お時間が許せば、ぜひ、ぜひ、来てくださいね。
コロナや戦争がまだまだ深く影を落とすこの世界ですが、今こそ、音楽が人間に寄り添う時だと思うので、最高のメンバーと最高のパフォーマンスを目指したいと思います。
そして、6月26日はぼくの作家力が本領発揮する、オンライン・エッセイ教室となります。
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