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滞仏日記「辻さんって、いつも周りの人にからまれますよね? からまれやすいんじゃないの?」 Posted on 2022/06/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「辻さんって、なんかよく絡まれますよね」
と知り合いからLINEが入った。
「え? そうですかね」
と返した。
「この間も、仕事関係の人にレストランで失礼なこと言われたって書いてませんでしたか?」
「そうなんですよ」
「その前には、ママ友が子育てについて文句言ったって書いてませんでしたか?」
「そーなんです」
「その前の日記に、誰だか知らないけど、辻さんってちゃらそうに見えるって言われたんでしょ?」
「そ、そーなんです」
「辻さん、日記読んでいると月に一度くらい失礼な人に絡まれてるんですけど、それって冷静に判断すると、辻さん、わきが甘いからじゃないの? 舐められてるんですよ」
「そ、そーなんです。そーなんです」
「なんかバカにされやすい体質なんじゃないでしょうか?」
「え?」
「顔とか、童顔だし、この人ならいいかなって、みんな思うんじゃないですかね?」
「あの、君こそ、からんでない? 喧嘩売ってるんか?」
「あ、いいえ、そうじゃなくて、でも、そうなりますよね。やっぱ、辻さん、威厳がないんですよ」
「威厳がない!!!!」
ということで、そいつはブロックした。笑。
ほっといてくれよ、俺の人生にかかわるな、と言いたい。

滞仏日記「辻さんって、いつも周りの人にからまれますよね? からまれやすいんじゃないの?」



別に、何言われても、息子が大学に受かったのだ、気にならないもーん。
ともかく、息子は今のところ合格した3校のどこかに行くことになるのだけど、フランスの国立大学は、学費がかからない。
しかも今のところ、(補欠の大学は地方なので、分からないけれど)、全部パリ市内の大学なので、家から通うことが出来る。
しかし、ぼくとしては当初からの計画通り、今住んでいるちょっと広い家は解約し、田舎に本格的に拠点を移すことになる。
息子には寮生活か、小さなアパルトマンを大学の傍に借りて貰う。
フランスは18歳になると、普通、家を出る。自立が始まるのだ。(もちろん、家にいる子もいるけど、ぼくの印象ではだいたい独立している)
フランス流でやってもらい、生活費以外は自分で働いて稼いでもらう。
学費がゼロだけど、最低限のアパルトマンに住んでもらい自炊生活をやってもらう。それがいずれ自立心を養うことになる。
補欠の大学(超難関校で、彼が実は一番行きたい大学)の結論は7月14日までに出るので、そこで最終的に行く大学が決定となる。
その後は、アパルトマン探し、アルバイト探しがスタートすることになる。
もちろん、幸いなことに、全部パリの大学なので、年内は今の状態でも構わないけれど、ぼくがパリに戻る予定の8月末から、一人暮らしの部屋探しを開始してもらう。
ぼくも、ここを解約し、一人+三四郎暮らしの小さなアパルトマンを探す。辻家の第二幕のスタートである。
パリは郵便物が届けばいいので、本拠地としては残すが、来年からは田舎がメインの生活地になるかな、と思っている。
コンサートなどの仕事がある時だけ、パリに出る、みたいな生活である。
ところで、昨日から三四郎はジュリアの家だ。



朝、起きたらいるべき場所にサンシーがいないので、めっちゃ変な朝の始まりとなった。ごはんの準備をしていると、息子がやって来て、
「パパ、今日、昼も夜もいらないよ」
と言った。
「ほー」
「仲間たちとお祝いというか、やっぱりね、付き合いがある」
にやにや嬉しそうに言った。
「いいね」
とは言ったものの、三四郎もいないので、独りぼっちなのだった。
もっとも、今夜はマレ地区のカフェで小さなライブがあるので、仲間たちと一緒だ。しかし、いるものがいないとなんか奇妙なのであーる。
「まずは行く大学を決めてからだけど、アパートとか、新しい生活について話し合わないとならないな」
出かけようとしている息子に、ぶつけてみた。
ふり返り、笑顔で、そうだね、そうなるよね、ちょっと調べてみるね、と告げて、未来のある若者は出かけて行った。

滞仏日記「辻さんって、いつも周りの人にからまれますよね? からまれやすいんじゃないの?」



静まり返った部屋の中心に立って、誰もいない部屋を見回していたら、不意に、ポンポン、と電子音が響き渡った。
ぼくは慌てて振り返った。
まもなく、隣の食堂から、全自動掃除ロボットの五郎がやってきた。
ヘッドライトが光っていて、障害物をよけながら、掃除をしている。五郎が寂しい父ちゃんの足元目掛けてやってきた。
「パパしゃーん。大丈夫だよ、ぼくがいるし、ぼくが父ちゃんの替わりに、部屋を掃除しとくから、ゆっくり休んで下さいね」
「ううう、ご、五郎、おまえがいたか・・・」
「うん、ぼくはロボットだからパパしゃんを裏切ることはありません。さ、ライブまでベッドでごろごろして休んでいてくださいな」
「ううう、五郎ォォォォ。ありがとう~」

つづく。

ということで、今日も読んでくれて、ありがとうございます。
えへへ、大げさな書き方ですが、ちっとも寂しくなんかありませんよ。
本当です。むしろ、せいせいしております。
少しずつ、片付いていく、いいことじゃありませんか。
さて、お知らせです。
父ちゃんの日本でのライブ、チケット発売は6月13日からになります。
8月8日、大阪ビルボード、12日、横浜ビルボードです。詳しくはビルボードにお問い合わせください。
そして、
父ちゃんの文章教室、エッセイ編の前期最終回は6月26日、日曜日になります。
ご興味のある皆さん、どしどし、ご参加ください。
課題は「素晴らしきおらが町自慢」となります。ご自分の街を世界中に届けましょう。
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