某月某日、フランスはどこのカフェも犬連れOKなのである。
散歩に出ると必ず、行きつけのモジャ男のカフェかジャン・フランソワのカフェかケヴィンのカフェかポールのカフェに顔を出すのが父ちゃんとサンシーの日課だ。
なぜか、三四郎はカフェが大好き、とくにそこに行ったからといって何もないのだけど、習慣化は犬にとって大事なのだろう、自分からカフェにぼくを引っ張って行く。
どの店でも人気者で、
「やあ、サンシー、ご機嫌いかがかな」
などとギャルソンやお客さんらがあいさつに集まって来る。
日本人は犬の頭をさすろうとする人が多いが、フランスの人は利き手をぐーにして、犬の鼻先に近づける。すると犬たちは、ぺろり、と舐める。（時々、逃げる犬もいる）
ちいちゃかった頃は、床に落ちてるものを食べられると困るし、クロワッサンのパン屑で溢れているし、用心をしていたのだけど、毎回、膝に抱えておくのも過保護過ぎるし、犬には犬の世界の犬間関係が大事だから、最近はぼくの足元で伏せ（クッシェ）させる訓練に勤しんでいる。
で、三四郎なりにカフェにいる犬たちとの交流関係も出来てきて、クリーニング屋のところのアリや、下の階のオラジオなんかは三四郎を見かけると近寄って来て「犬式くんくん挨拶」に余念がない。
三四郎は、上を見上げているとたまに父ちゃんがサーモンのおやつとかをくれるので、笑、どうやらそれが楽しみなようで、いつもじっと父ちゃんを見て、待っている。きゃわいい。

大都会パリで暮らしだして、４か月以上が過ぎ、だんだん、都会にも慣れてきたサンシー。もう、車の音も怖がらなくなったし、人の間をすり抜けて歩くこともできるようになったし、後ろ脚をあげてちゃんとマーキング・ピッピ（おしっこ）も出来るようになったし、もちろん、ポッポ（うんち）も見事にやる。（困るのはとある大使館の前とか、フランス政府の重要施設前とかでやるのが好きで、守衛さんたちに、またかよ、と笑われている）
昨日は新しいカフェで休憩をして家路につこうとしていると、な、なんと脚のめっちゃ長い、ぷりケツなプードルちゃんが三四郎の前を過った。一瞬で、恋に落ちた三四郎、いきなりあとをおっかけはじめた。
「おいおい、サンシー、それはちょっと下品じゃないか？　君、ストーカーというのだよ、そういう行動のことを！」
と注意をしたが、聞いちゃいない。犬だもの。
どんどん、どんどん、まっすぐプードルちゃんのあとを追いかける。
それにしても、犬も人間と一緒で、セクシーなわんちゃんって、いるんだね。
脚がすらっと長く、お尻がぷりんと上を向いていて、すまして、トップモデルのように正面をむいて、スタスタと歩く姿は見事だ。
それに比べ、三四郎は、胴長短足探知犬ぶり、いっつも、下ばかり向いて、くんくんやりながら歩くのだけど、・・・この差はなーに？

※　こ、この直後に大変なことが起きた！！！

「おい、三四郎。待てよ。露骨な態度は嫌われるぞ！！！」
それでも、お構いなしで、どんどん、プードルちゃんをおいかけるサンシー。
あまりに一途な行動、思わず微笑みが誘われた。
ところがである。
とある宮殿の前で、不意にプードルちゃんが立ち止まった。
慌てた、さんちゃん、リードが引き千切れるかの勢いで、突進したのだけど、な、なんと、プードルちゃんが腰をしずめてポッポのポーズをとったから、焦ったのは父ちゃんであったァ。
「待て、サンシー、待つんだ！！！！」
これはまずい。
そういうところで、くんくん挨拶をさせるわけにはいかないではないかァ。
体当たりする勢いで突進するさんちゃん。
腰を沈め今にもポッポをしようと力む、マドモアゼル・ぷー。
父ちゃん、慌ててリードを引っ張ったが、三四郎の決意は固く、すんでのところで激突しそうになった。
プードルちゃんの飼い主がぶつかりそうな三四郎に気が付き、
「ソーリー」
と英語で言ったので、
「ノープロブレム」
と鼻から抜ける英語で返してしまった、父ちゃんである。がはは。
とっさに、三四郎を背後から抱きかかえ、ポッポをするプードルちゃんのギリギリ横を通過し、そのまま、振り返らず、一目散、家へと帰ったのだった。
三四郎は、ずっとぼくの腕の中で、後ろを気にしていたが、・・・やれやれ、間一髪であった。
ここにも、小さな子犬のしかし立派な世界が広がっているのである。
生き物はみんなこうやって生きている、愛おしいではないか。
ぼくは三四郎を抱きしめ、さ、帰ろうね、と耳元でささやくのだった。

つづく。

※　こうやって、寝ちゃうこともあるんだよねー。きゃわいいね。