JINSEI STORIES
退屈日記「三四郎の落ち着く世界」 Posted on 2022/05/25 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、最近、自分でも驚くくらい、爆睡できるようになった。
長年、不眠症気味というか、もろ不眠症だった父ちゃんだけど、三四郎がやってきてから気が付くと、導眠剤を飲まなくても6時間ノンストップで寝られるようになり、とにかく、目覚めがいいのだ。
これは凄いことで、ベッドに入って目を閉じていると眠れる、という幸せに、毎朝、感動をしている次第である。
もう二か月くらい導眠剤を飲んでない。いったい何が起きたのだろう。三四郎はマジでご利益犬なのだろうか?
でも、他に生活の変化はないので、やはり三四郎との暮らしがぼくにある種の規則性を与え、仕事よりも犬を育てること中心の生活に移行したことで、睡眠のリズムが安定したのであろう。
三四郎を寝かせつけないとならないので、一緒に寝る、というのが板についてきた、ということかもしれない。
あるいは、田舎生活がスタートをして、少しずつ体内リズムに変化が起きたのかもしれない。
日に数回の三四郎との散歩の影響も大きいはずだ。
コンクリートしか意識していなかったこれまでが、三四郎のおかげで緑を探すようになった。
今は、海沿いを歩く毎日なので、地球から受け取る波動も変化した。
ともかく、アルコールに頼らないでも、眠れるようになった。夜はお酒を飲まなくなってきた。素晴らしいことだ。
三四郎とは息子よりも圧倒的に一緒にいる時間が長い。
ほぼ四六時中一緒なのだ。
海辺で一時間走り回った後は、お昼寝も一緒にしている。
もちろん、三四郎は暇があると悪戯ばっかりだけど、ぼくの横で幼い子供のように寝ている姿はめっちゃ、可愛い。
時々、古い日記を読み返したりしているが、一月初旬の日記に、彼は存在していなかった。先日、食事の時に息子が、
「この子、どこから来たんだろうね。この前まで存在していなかったのに」
と言った。
「それに、三四郎という名前以外、思いつかないよ。サンシーはサンシーしかありえない」
まさに、その通りで、この子はずっと三四郎なのである。
先日、パリ市内を歩いていたら、
「辻さーん」
と声をかけられた。20年ぶりくらいに再会した日本の方。息子の家庭教師のさちさんを紹介してくださった当時、ご近所に住んでいらした優しきマダム。
「三四郎君、かわいいですね~」
これが20年ぶりの会話の冒頭である。笑。
日記を読んでくださっている皆さんの中にも三四郎がいるというのも、不思議だ。
最近、暑いからか、三四郎が田舎の風呂場の洗面所の下の棚に登って居つくようになった。
自分のベッドはもふもふ過ぎて暑いのであろう。
そこは脱いだ服などを置く場所にしていたのだけど、飛び乗るようになって、気が付くとそこで寝ている。
二段ベッドの二段目、みたいな狭さがいいのかもしれない。
ぼくがお風呂に入っているとやってきて、そこで寝そべって遊んでいる。
落ち着く場所なのだ。
ぼくが用意した場所ではなく、彼が自分で見つけた場所なので、ちょっと片付け、尊重してあげることにした。
そこに毛布を敷いたら、ますます動かなくなった。
夜寝るとき以外はそこで寛いでいる。たまに、夜もそこで寝ている。
かわいいので、お風呂につかりながら、一枚写真を撮っておいた。
えへへ。
つづく。
今日も読んでくださり、ありがとう。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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