JINSEI STORIES
滞仏日記「星付きシェフ夫妻を招き、食材当てクイズでまかした父ちゃんの巻。えへへ」 Posted on 2022/05/25 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は大雨の予報だったのに、朝起きたら雨が上がり、快晴だった。マジか、と大喜びの三四郎、朝早くから、
「パパしゃん、晴れたよ。海に行こうよ」
と起こしに来たので、寝不足な一日の始まり・・・。
しかし、外に出ると本当に初夏の爽やかな陽射しで、鬱鬱としていた気分が晴れ渡った。
ところが、海の手前で、三四郎が不意にポッポをしたので、ビニール袋を手早く取り出し、ちゃちゃっと拾ったのはいいのだけど、そのビニール袋が破れていて、思いっきりうんちが手についてしまった~のであーる!
わわわ、それも今日に限って、柔らかいのだった。おーまいがっ。
まさに、運が付いた、父ちゃんであった。
けれども、三四郎のポッポなんか別に平気。濡れティッシュで拭いて、ちょっと気になったので、海の水で洗い、きれいさっぱり。
ところが、この「うん」が本当に「運」を運んできたから、2度、びっくり。
手を洗ったとたん、フランスのプロモーターから来年の大きな仕事が決まりそうだ、と連絡が・・・。マジか、と思っていると、日本からも幾つかグッドニュースが同時刻に舞い込んできた。三四郎のうんちによって、ご利益をあずかってしまったのであーる。
さらに、マガジンハウスさんからもエッセイ集の表紙が届いたのだけど、とっても可愛いデザインで、3度、びっくり。運が付いた直後、わずか十分ほどの出来事であった。
三四郎、お前は、ご利益犬なのか!!!!
ところで今日は、ぼくが田舎にいることを嗅ぎつけた友人夫妻から「会いたい」と連絡があったので、だったら、なんか作るからうちで食べないか、と誘うことに。
レストランでもよかったが、3時から編集会議が入っていたので、外で食べると落ち着かない。
家飯にした方がぼくにとっては、動きが楽、で済む。
なので、朝、散歩をしながら、ランチメニューを考えた父ちゃんなのだった。あはは。
昨日の退屈日記で予告した通り、サーディンの缶詰めが残っていたので、それを利用してメインのパスタを作ることに。缶詰めとバカにしてはならない、フランスのいわしの缶詰めのクオリティは半端ない。
サーディンを梅和えにし、和風オイルパスタに仕上げた。
前菜は、魚屋で見つけたマグロが美味しそうだったので、これをタタキにし、漬けた。
ワサビ、山椒、黒七味などを使ってクリームソースを作り、横に添え、一品にした(醤油は使わないスタイル)。
ムッシュの方がよく食べるので、巻きずしを前菜の二品目に考えたが、巻きずしは今やフランスでは珍しくない。そこで、「太巻き」にした。
魚屋で海老を買い、蒸し海老とアスパラと卵焼き・・・、切干大根があったのでこれをかんぴょう風にアレンジして、巻いてやった。いい感じである。
アミューズに鯖と行者にんにくのリエット(市販品)をゴマのバゲットに塗って出しておいた。ショートランチなので、これで十分であろう・・・どうじゃ。笑。
ご夫妻は12時ちょっと過ぎにやって来た。ムッシュはシェフ、奥さんはパティシエなのである。仲良しなので、家族みたいな付き合いが続いている・・・。
「ヒトナリ、美味しい。これ、何を使ってるの?」
料理を頬張るたびに、シェフが鋭い目つきでしつこく聞いてくる。ぼくが作る和風創作料理が気になるようだ。ということで今回も食材当てクイズの始まりとなった。笑。
前回のランチ会の時にも、余興で、食材当てクイズをやった。シェフも、真剣に挑んでくるので、楽しい・・・あはは。
前回、鱈子を使っていることを当てられなかったシェフ、今回もパスタを口に入れた途端、悩み出した。
「さあ、なんだ。どんな食材を使ってる? 星付きシェフの意地で当ててみて」
「うーん。とっても美味しいけど、難しい。複雑な質問だ」
「でも、ほとんど君が良く知っている食材で作ってるんだ。昨日の今日だから、ここにある食材で作ってる。確かに日本の食材が使われている」
シェフは日本が好きで奥さんと京都などで長期間滞在したことがあり、日本の料理に関しては他の仏人シェフよりもうんと詳しい。
「味噌? 白味噌とか使ってるでしょ?」
「ざーんねん、味噌は使ってないよ」
「マジか。うーん、なんかよく知ってる食材なんだけどな。なんか酸味があるんだ。なんだっけ、もしかして、レモン? 」
「違う。おしいけど、ちゃう」
「ボニート入ってない? 鰹節」
「おお、イエス。実はほんのちょっと入ってる。気づかれない程度に、すごい」
そこで気をよくしたシェフ、ぼくを睨みつけ、考え込んだ。よこで奥さんが笑っている。なんで、そんな真剣な目になるのか、わからない。意地なのであろう・・・。
※「うーん、ヒトナリ、なんだ、この味、酸味、良く知っている味なんだけど、ええと、出てこないなぁ」
あはは。
「レモンじゃないのか、なんだろう。なんかフルーツ使ってる?」とシェフ。
「いいや、あ、でも、プルーンはちょっと入ってるかな。一つ入れた」
「プルーン!?」
悩んだシェフ。可哀想だから、種明かしをした。
「梅干し、知ってる?」
「ああ、そうか、梅干しかぁ、なんだよ、そうかな、と思った」
「惜しかったね、酸味があって果物っていうところはあってる」
「ダシも使ってる?」
「いいや、そうくると思ってたからわざとダシは使ってない。ついでにオリーブオイルも一滴も使ってない。全部、ヒマワリ油なんだよ」
「なんで?」
「だって、なんでもかんでもオリーブオイルの味になっちゃうじゃないか。醤油に合わせるならサラダ油がぴったり」
ぼくらは笑いあった。でも、いい線、いってた。さすがである。
「あと、みょうがというフランスではあまり知られてない野菜を使ってる」
そこで、パソコンで検索し、みょうがを見せたが、二人とも知らなかった。
料理人がうちに食べに来る時は、必ず、こんな風に食材あてクイズをやる。ソムリエが来る時はワインの銘柄とかヴィンテージを当てるクイズをやって楽しむ。喰いつきがいいのだ。味覚で生きている人の生き甲斐なのであろう。世界を食べつくせ!
二人は3時ちょうどに帰って行った。
彼らの子供たちに太巻きをお土産で持たせた父ちゃんであった。
ああ、楽しかった。
つづく。
ということで、今日も読んでくれてありがとう。
先ほど、彼らのお子さんたちから、とっても美味しかったよー、と連絡があった。仲良しの子供たちだ。いつか、下の子にぼくは小型のギターを買ってあげたいと思っている。日本のおもろいおじちゃんからのビッグなプレゼントになることだろう!!!
さて、父ちゃんからのお知らせです。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
8/12(金)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜: 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
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発売日
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一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より