JINSEI STORIES
退屈日記「八百屋のマーシャルのおうちに招かれた、愛が溢れるフランス人家庭」 Posted on 2022/05/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、お祭り好きなフランス。一年中、お祭りをやっている。
6月には音楽祭があり、今はちょうどパン祭りが開催中なのに、今日は恒例のご近所さん祭り(Fête des voisins)の日。
だからかどうかは知らないのだけれど、父ちゃん、八百屋のマーシャルに招かれてしまった。
いつもNHKの「ボンジュール・パリごはん」に出演してもらっているので、本来ならばぼくが招かないといけないのだけど、招かれた。人徳である。えへへ。
ということでマーシャルは奥さんのステファニーと4歳のイジアちゃんと八百屋と同じ建物の上で暮らしている。
普段、人を招くのが大好きな父ちゃんだが、招かれることにはあまり慣れていない。ちょっとドキドキしながら、お菓子とワインを持って、お邪魔した・・・。
「どうも、ツジーです」
「ムッシュ、ようこそ」
ドアが開くと、身長2メートル近くあるマーシャルが顔を出し、なんと、その後ろにちっちゃなイジアちゃんが、し、しかも、ピンク色のドレスを着て、出迎えてくれたのである。きゃ、きゃわいいい!!!
「ああ、プリンセスちゃん、はじめまして~」
ちょっと恥ずかしがっているけれど、ぼくに興味がありそうな顔のお姫様・・・。
まずは、サロン(リビングルーム)で乾杯となった。マーシャルがシャンパンをあけてくれたのだ。大きなテレビがあって、大きなソファがあって、テーブルの上には大きな花が飾られ、その横にアペリティフ用のおつまみがずらりと並んでいる。
ぼくなんか、人を招く時は力をこめ過ぎてフルコース作っちゃうのだけれど、普通のフランス人の家庭は、ほんとうに美味しいものがさりげなく並んで、そこがまた、家族的で和むのだ。
そして、だいたい、お父さんが料理をするところが多いかな。(家庭によりますが、もてなすのが好きなムッシュも多いという意味)
今日もマーシャルが頑張って料理をしていたし、お酒も彼が注いでくれた。奥さんのステファニーは娘さんとぼくの傍で寛いでいた。笑。
テーブルに並んだおつまみはさすが八百屋さんだけあって、フルールとトマト。フルーツはメロンと、そして、初めて食べたのが、
「スイカとフェタチーズを一緒に食べたことある? これはギリシャスタイルなんだけど、なかなか美味しいんだよ」
ということで・・・。さっそく、爪楊枝で、フェタとスイカをピックして、一緒に口に入れたら、えええ、衝撃のうまさなのであーる。
知らなかった。日本人には思い付かない、衝撃のギリシャスタイル。
イジアという名前もギリシャ風の名前なのだそうだ。
「二人はギリシャ系なの?」
思わず聞いてしまった。
「いいや、ギリシャが大好きで、毎夏、旅をしてたんだ」
「へー、すごい。ぼくもサントリーニが好きで、あの島を舞台に小説(クロエとエンゾー)を書いたことがある」
「島はいいよね。ぼくらは北の方を旅する。観光客のいない、静かなギリシャを」
こういう話がえんえんと続く。
ギターが壁に飾ってあった。
マーシャル、憧れて買ったのだけど、自分は演奏出来ないのだそうで、父ちゃんのいきなりの出番となった。おお、フェンダーにギブソンだ。
ぼくが歌い始めると、ママの横にいたイジアの目がまんまるに、
「ええええ、ムッシュ、あなた歌手なの? 」
もう、その瞬間から、イジアはぼくに釘付け、笑。
そして、ついにぼくの演奏にあわせて、踊りだしてしまったのである。ギリシャ風ダンスか、かなり前衛的なダンスだ。床に寝転がって、パンツ丸見えだよ!!!?
あはは、めっちゃ可愛い。
「愛をください、愛をください♪」
「オマール海老、今から料理するけど、見る?」
「マジ? いいの?」
案内されて覗くと、内庭に面した可愛いキッチンにオマール海老が人数分用意されていた。日本だと伊勢海老にあたる高級海老である。
まな板に取り出したオマールの(まだ動いている)に包丁を突き刺し、二つに割って、塩コショウをして、そのまま、オーブンにぶち込んだ。ひゃああ、豪快!
「20分で完成だよ」
「塩コショウだけなんだね」
「それが最高なんだ」
「うわ、楽しみ」
ということで、待っている間、イジアのリクエストで、みんなで、ぼくのユーチューブを見ることに・・・。笑。
大画面のテレビ画面の中に映った若かりし日の父ちゃん、1986年、ECHOESの渋谷公会堂でのコンサートに目が釘付けのイジアちゃん。
ぼくと若いぼくを見比べ、
「ええええ、ムッシュの若い頃なの~。こんなだったの?」
と大はしゃぎ。かわいい。
ぼくをちらちら見て、くすくす笑って、ひっくり返ったり、ジャンプしたりして、踊りだした。踊るのが大好きなのだ。娘だったら、人生がまた変わっていただろうな。
こんな子だったら心配で、学校の前に張り付いていたかもしれない・・・。えへへ。
「アッターブル(席について、ごはんですよ~)」
サロンの横が食堂で、みんなで並んでお食事に。
焼きあがったオマール海老がテーブルの真ん中にどーん。
あと、昨日、我が家でも食べたアスパラソバージュと黄色いクルージェットの塩炒めが添えられていて、マーシャルに海老の割り方、食べ方を教わりながら、一口、う、やば、〇△×◇$♪§◆△・・・うまーい。
あまりこういう高級海老は食べないから、思わず、うなった父ちゃんであった。(フランス人はミソを食べないのかなァ、マーシャルもステファニーも手を付けていなかったが、ぼくは日本人なので、ミソは残せない。バゲットに塗って食べたけど、うほうほ、とろけるようなおいしさであった)
父ちゃんが持ち込んだレストランESのパティシエ、真理子ちゃん作のほうじ茶のロールケーキを最後にみんなでパクついたのだけど、ううう、これがまた美味しかった。
ほうじ茶を知らない二人に偉そうに説明をする父ちゃん。
日仏文化交流の瞬間であーる。
お招きされると、人の家庭が覗けるので楽しいね。
イジアちゃんは23時くらいまで眠そうな目をこすりながら、ぼくの横に張り付いていたけれど、途中で、電源が落ちた・・・。おやすみなさい。
食堂の横に、お姫様の部屋が・・・。75平米くらいのアパルトマンなのだそうだ。
フランス人、自分の家を全部見せたがる人がけっこう多い。日本にはあまりない風習だけど、心を許している合図なのかもしれない。
ガイドはだいたい奥さんの役割で、お願いしてもいないのに、夫婦の寝室まで案内してくれた。このベッドで寝てるんだねェ、笑。
みんな必ず寝室を見せてくれるのだけど、どういう自慢なんだろう・・・、笑。
愛が溢れすぎていて、父ちゃん、「くわああああ、うらやまし~」となった。
気が付くと1時を回っていて、でも、近いから、気楽に帰れるのも最高。ご近所さん祭り、想い出に残る最高の一夜になったかな。
写真はあまりとれなかったけれど、映像はいろいろと撮影をさせてもらったので、NHKの「ボンジュール、パリの夏ごはん」でちらっとお見せできるかもしれません。あはは。
「ムッシュ、次回、ランディスの市場に二人で行ったら? 素晴らしいところですよ」
とステファニーがナイスな提案を。
「23時に行くと、業者さん向けのレストランで食べられるし、そこで業者さんらとみんなで食事をするの。そして、2時くらいにどさっと野菜を仕入れて、明け方パリに戻るのよ」
「うわあ、行きたい」
昔、築地市場を取材したことがあったけど、あんな感じなんだろうな。
「じゃあ、秋に連れて行きましょうか。ジビエの季節だし、きのこの季節だし、秋の魚も最高ですよ」
たまらない提案なのであった。
「ぜひ。今日はご馳走さまでしたァ」
ぼくらは(コロナ禍なかなかできなかった)久々のビズをしあって、お別れをした。びず~。
「這ってでも帰れるね」
マーシャルがウインク。たしかに・・・。
つづく。
ということでここに書ききれないくらい楽しい夜でした。
とくにイジアちゃんがめっちゃ、可愛かった。黒猫のポゴもいて、猫とか犬とか子供には本当に愛される父ちゃんなのでした。ちゃんちゃん。
さて、お知らせです。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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