某月某日、今日は快晴で、心地の良い一日であった。
息子にごはんをあたえ、ぼくはマガジンハウスのエッセイ集の校正作業をしていたのだけど、光りがあまりに心地よいので、足元でごろごろしている三四郎を相手に、ギターを持ち出し、歌った。
三四郎はノイズ音には苦手反応を示すが、ぼくのギターと歌は大丈夫のようだ。
一度、仕事関係でメタルを聞かないとならなくてかけたら、わんわん、と不快に吠え出した。メタルは気に入らないみたいである。
パリは暫く春空が続くようだ。
ぼくは三四郎を相手によくプライベート・コンサートをやる。
三四郎は「ふーん」という感じで寝ているのだが、時々、尻尾がライブのペンライトみたいに揺れていたりする。
（　＾ω＾）・・・

今日は、三四郎に父ちゃんの代表曲である「ZOO」を歌ってあげた。犬だけに！笑。
ちょっと思うことがあり、ぼくは最近、音楽が足りない、と世界に訴えている。
昨日も、テレビ制作会社社長のLさんに、音楽が足りない、とメッセージを送ったら、スタンプで「なるほど」と返って来た。笑。
「なるほど」じゃなく、このコロナや戦争の時代、人を繋ぐのはやっぱり音楽しかないのだと思いませんか？　
あのプーチンさんの冷たい顔はもう見たくない。
泣いているウクライナの人たちの姿が辛いのだ。
ドアベルが鳴ったので、出ると、カーチャさんであった。ウクライナ避難民の方で、先週から、うちの仕事を週一でやって頂いている。※うちに来るようになった経緯は先週号に譲る。
「カーチャ、ごめん、ぼくね、今日は歌いたいんだ。掃除の邪魔かなァ？」
「ムッシュ、何を言ってるの？　大歓迎よ。私、音楽が必要なの！！！」
ほら！！！！！　聞いたかい、Lさん、音楽が足りないんですよ！！！ （Lさんはとんだとばっちりを受けているだけなので、可哀想だから、置いておいて）
ぼくはカーチャがキッチンを掃除してくれているあいだ、光と空気が抜ける家の中で、大声で歌ったのだった。
三四郎とカーチャが今日のオーディエンスなのである、素晴らしいじゃないか！　※ちなみに、カーチャはキッチンの壁が汚いので今日は壁を磨くと頑張ってくれている。
ぼくはノリノリであった。
世界中の人を励ましたい気持ちではちきれそうだったのだ。そこに、カーチャがいる！

とにかく、「ZOO」を熱唱し始めたら、三四郎が珍しく、ぼくを見上げてじっと耳を澄ませている。動物の歌だとわかったのだろうか？　（わかるわけないやろ！）
カーチャはキッチンで踊ってくれているだろうか？　
すべてのドアが開いているので（息子の部屋以外）、聞こえているはずである。
ぼくはいっそのこと窓も全開にして、歌おうと思った。歌いたいんだ。
コロナの時代があまりに長かった。戦争も長引きそうだ。
ぼくらは人間なのだ。悲しい時は泣くけれど、楽しい時には笑いたいし、歌いたいのである。窓を大きく開けて、通りを挟んだ向かい側の建物目掛けて歌ってみた。
すると、4階でリフォームをしていた、業者の人たちが、窓辺に集まって、手を振り出した。や、これは撮影しなきゃと思って、スマホを本棚に立て、スイッチオンした父ちゃん。
気分をとりなおし、頭から歌ったのだ。
すると、業者の人たち（たぶん、東欧の人たち）が作業をしながら踊りだした。おお、マジか。その上の階の老婆が、カーテンの隙間から、じっと、ぼくを見ていた。
「愛をください。OH！　OH！」
遠慮することはない。
というのは、今、パリはバカンス真っ盛りなのである。
下の階のわんちゃん、オラジオのご両親（一度、歌がちょっとうるさいですね、と乗り込んできたムッシュも）上の階の家族も、みんなパリを離れている。
実は、この建物の住人、全員、うちに鍵を置いていった。どんだけ、ぼくは信頼されているというのか。ぼくが管理人みたいなことをやってあげているのであーる！どうだ、驚いたか。どこまでお人よしなんだ、父ちゃん！
だから、今、この建物には辻家以外誰もいないのであーる。
憚ることなく、歌えるということなのだ。
「ほーらね、そっくりな犬がぼくを指さしている、愛をください」
三四郎がぼくを怪訝な目で見ている。
「ほら、ごらん、吠えてばかりいる、君を。愛をください、わん、わん！」
すると、前の建物の工事人たちが踊りだした。
ぼくは手をふりあげて、応じた！

踊りながら、壁を塗っているのである。
一人、パリに残っているおばあちゃんも今や窓を開けて、こちらを見ている。しかも、笑顔だ！！！
そして、地上階を覗くと、歩いている人たちが、こちらを見上げている。中には手を振ってくれている人もいた。おお、ビートルズの屋上ライブみたいになってきたやんけ。
ぼくは、ジョン・レノンだァ！！！
「サンシャインデイズ、サンシャインデイズ！」
晴れているので、アドリブで、サンシャインデイ～ズ、という言葉が飛び出した。
いいぞ、いいなァ、音楽は素晴らしい。

スマホで、撮影した動画より。結構、綺麗にとれてる。さすが、自撮りの名人・・・・。あはは。

ということで、カーチャも笑顔で、帰って行った。
え？　歌のこと？　あ、いや、なんにも言わないで帰って行ったかなァ、そういえば・・・。
13歳の小さなお子さんと一緒に住んでいるというので、ちょっとした食事を持たせたので、そのことで大喜びしてくれて、歌のことは、なーんにも、言わなかった・・・
あはは。言わなかった。ま、いいね。
でも、音楽は大事なのだ。
そのことだけは世界中にお伝えしておきたい。

つづく。

※　どや顔の父ちゃん。武道館で歌いきったみたいな、充実感。自撮りカメラに持ち替えて、音楽が大事だ、と力説しているところ・・・。Lさんに、不採用にされないことを祈ります。

さて、今日も、読んでくださり、ありがとうさまです。
そして、父ちゃんからのお知らせ。

マガジンハウス刊、（仮）「パリ、息子とぼくの3000日」は6月30日に満を持して発売予定です。

そして、ちょうど一年前、去年の連休中に放送された、あの
「ボンジュール！辻仁成の春のパリごはん」
が再放送されます！！！！
しかも、またしても連休中に。
【再放送日時】
＜BSプレミアムのみ＞2022/5/3 (火・祝) 10:30～11:29
＜BS４Kのみ＞2022/5/29(日) 16:30～17:29

辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】（1日2回公演）
8/8（月）1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪： 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】（1日2回公演）
8/12（金）1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜： 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK＆WHITE 1F
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発売日
Club BBL会員、法人会員先行＝6/6（月）12:00正午より
一般予約受付開始＝6/13（月）12:00正午より