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第六感日記「やはり、あれはオーブであった。第二回調査報告」 Posted on 2022/04/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨夜も、三四郎が寝た後に、監視カメラを起動させ、オーブがいるか、確認をした。
すると、最初はいなかったのだけど、5分くらいしたところで画面、右下に不意に出現したのだ。
昨日は小さな虫が飛んでいたので、(蚊ではない。かなり小さな羽根虫、コバエ?)それと混同しないように目を凝らした。
虫がカメラの前を過る時は、それが虫の羽ばたく羽根の形であることが分かるので、区別がついた。
出現したオーブは不意に画面中心部に現れると、様子をうかがうようにして、消えた。
それは丸く、はっきりした光の玉であった。玉ゆらというような揺れている感じもあるが、よくわからない。
もちろん、科学的に証明されている埃や水蒸気であろうということは頭で理解出来ているのだけど、そこは密室であり、今日は周囲の部屋のシャッターもおろし、Wi-Fiの光も遮蔽しているので、風も流れず、完全に封鎖された、光のない状態となっている。
三四郎の体から出た埃であるならば、次第に落ち着くはずだ。
出現したオーブが消えてさらに五分後、再び、オーブが出現をした。
出現し、消えるまでの時間が早いので、スマホでの撮影がおいつかない。数十ッ回とカメラを起動させたが、なんとか間に合った今日の二枚をご覧頂きたい。

第六感日記「やはり、あれはオーブであった。第二回調査報告」



しかし、この直後、画面に数十個のオーブが一斉に現れ、消えた。
これには、ぞぞぞ、とした。
出現の仕方なのだけど、虫の場合、画面の切れている側から飛んできて反対側へと消える。その間の光跡は途切れることがない一直線である。
オーブに似ているけれど、明らかに虫であることがわかる。
オーブは予測できない場所から出現し、予測できない動きをとる。
ぐるっと回るものもあれば、消えたり出現したりしながら飛ぶものもあるし、滞空してすっと薄れながら消えるものもあるし、弧を描き消えるものもある。
共通していることは見えるのは一瞬で、すぐに消えるということである。
数十個のオーブが出現した時は、さすがに、ぞくぞく、した。
何か、生き物のような姿(幽霊のような大きな何か)に見えた瞬間もあったが、これは目の錯覚かもしれない、と思って無視をすることにした。
そこで、思いついたことがあった。
田舎のアパルトマンにも監視カメラを仕掛けているので、比較してみようと思いついたのだ。(同じスマホで操作している)
田舎の監視カメラは360度、アパルトマン全域を見渡すことが出来る。
急いで確認をし、部屋中を見渡したが、全く出現する気配がない。
10分以上監視したが、虫さえ飛んでいないのである。
前回、訪れた時のまま、田舎の部屋は、時を止めていた。
そこは築160年の物件で、最初は19世紀の高名な心理学者、医学博士の屋敷であった。
十分、何かが出てもおかしくない雰囲気の建物だけれど、いないことが分かった。
わかるというのも不思議だけど、安定しているのである。
一方、パリのアパルトマンの三四郎の部屋は不思議な雰囲気(言葉が見つからないけれど、いるのが分かる気配)で包まれており、もうすぐ出るというのが予感出来る。
壁の工事をする前、今から三か月ほど前は湿度のある部屋だったが、工事後の最近の調査で、湿度がゼロで、むしろ乾燥していることが分かっている。
なので、水蒸気という説は薄いと思われる。
では、いったいこのオーブの正体はなんだろう。

第六感日記「やはり、あれはオーブであった。第二回調査報告」



明日は、三四郎が寝た直後、深夜3時、朝の5時という3回の調査をしてみたい。(ついでに、日中もシャッターを閉めて調査をする必要がある)
もしも、三四郎の身体から出た埃であるならば、時間の経過とともに、落ち着くはずだからである。
ぼくは、トイレに起きた時に、三四郎の部屋を食堂側から覗いたが、目視ではやはり確認することはできなかった。
仮に、これが霊的な光、あるいは霊魂のようなものであるならば、それが出現する意味を突き止めてみたい。
そこで、ふと思ったぼくの勝手な想像を書かせてもらうと、三四郎に関係する霊体ではないか、という仮説である。
それは単なる思い付きなので、何の根拠もないが、なんとなく、三四郎と関係しているような気がする。
怖いという気持ちにはならない。ようこそ、というイメージに近い。
とまれ、根気強く、オーブの正体を見極めていきたい。
続報を待て。

つづく。

第六感日記「やはり、あれはオーブであった。第二回調査報告」



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