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滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」 Posted on 2022/04/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、まず午前中はNHKBS「ボンジュール、パリの辻ごはん」の八百屋さんで野菜を買ってからの料理撮影という慌ただしい一日であった。
(買い物場面はカメラマンさんに撮影してもらった。さすがに自撮りじゃ無理、笑)
八百屋店主のマーシャルとは昨日、バーで遭遇したので、簡単な打ち合わせ済み。
ご近所なので、そういうところが便利だ。
マーシャルは昨夜、夜中の三時にランディスの市場(フランスの築地)までこの番組のために新鮮な食材を仕入れに行ってくれたのであーる。
っていうか週に3回は買い出しに行ってるのだそうだ。
なので、珍しい春野菜がずらりと並んでいた。
番組で使うかどうかは別に、思わず大量買いをした父ちゃん。
中でも嬉しかったのは、行者ニンニク、アーティチョーク、巨大なグリーンアスパラ、白アスパラ、薫り高いイチゴ、などなど、この季節だからこその野菜のオンパレード!
「マーシャル、この番組はもう4回目なんだよ。シーズンフォー!」
「いいですね、ムッシュ・ツジ、ガンガン行きましょう。フランスは日本の皆さんを待っていますよ~」
ということでナイスガイのマーシャル、映画俳優でもおかしくないくらいに背が高い(2メートルくらいある)し、ハンサムですでにファンも多い。
やっぱり、フランスは農業国だから、野菜のバリエーションは豊富で、ぼくも紹介し甲斐があるのだ。
買って帰り、さっそく、大好物のグリーンアスパラを茹でて、リゾットにして食べたら、うわ~、やべー。うますぎた。
マーシャル推薦のこの時期にしか出ないというオリーブオイルとフラードセルをかけただけなのに、うらら~、超ご馳走であった。御覧あれ!

滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」

※ でっかいグリーンアスパラ、歯ごたえ最高で、行者ニンニクのリゾット付きね・・・。えへへ。



午後は、少し仕事をしてから、三四郎を連れて散歩に出た。
ナポレオンのお墓があるデ・ザンヴァリッド陵まで遠出をしたのだァ。
理由がある。ここに、羊が放牧されているのである。
エコ羊と呼ばれている。よくは知らないのだが、伸びた草を刈って捨てるのは環境によくないから、羊たちに食べさせているのだとか。(詳しく調べますね。次回のパリ最新情報で)
とにかく、三匹の羊を三四郎に見せたくて、連れていったのだけど、これがほのぼの牧歌的な放牧状態で、うらやましい。
彼らがいる芝生には柵がとりつけられていて、犬とか人間が入れないようになっている。
ムートン天国なのだ。
三四郎、はじめてみる羊たちに興味津々なようで、パパしゃん、あの子たち、いいなァ、という目で見ていた。
すると、ぼくの横に、何か奇妙な帽子をかぶった紳士が立った。ムッシュは羊の写真を撮りながら、
「春だねぇ」
と言った。
振り返ったが、周りに人がいないので、ぼくに言ったのであった。
「そうですね。ウクライナで戦争が起きているとは思えないですね」
というと、ムッシュはぼくの顔をじっと見た。
「マダム、戦争はよくありません」
う、マダムじゃないんだけど、・・・。
また、間違えられた。
痩せていて小柄で、線が細いから、ちゃんと見ないこういう分厚い眼鏡をかけたおじいさんにはマダムに見えるようだ。
確かに、ぼくはおばさん化している。だんだん、テストロンも減少しているだろうし、無理してマッチョを気取るようなキャラでもないので、マダムで、通すか・・・。(通すんかい!!!!)
お爺さんはクロウドという名前だった。

滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」



滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」

ぼくは必ず、話しかけてきた人の名前を聞くようにしている。自分も名乗る。それが礼儀というものであーる。
クロウドはもうすぐ90歳なのだそうだ。ありゃあ、昨日のマダムといい、高齢のフランス人は元気だなァ。
背筋も伸びているし、補聴器も付けていない。何を食べているのであろう。
ぼくが作家だと名乗ると、フランスの文学の話しになった。また、長くなりそうな予感・・・。早く切り上げないと、三四郎がかわいそうだ。
フランスのお爺さん、お婆さんはとにかくおしゃべりが大好きなのである。
「ドゴール大統領は偉大だった」
お爺さんはそう言った。
「知ってるんですか?」
「知ってるよ。元大統領だもの」
「いや、お友達とか?」
あはは、とムッシュが笑った。
「会ったことはないが、知ってる。私は彼を尊敬していた」
これは、早く帰った方がよさそうだな、と思ったが、帰ろうとすると、おじさんが、手を伸ばしてきて、ちょんちょん、とぼくの肩を叩く。お婆さんと一緒や。
「マダム。ドゴールが、フランスを二度も救った。彼はドイツ軍に占領されたパリを取り戻した英雄なんですよ。ウクライナもきっと勝利する」
「(ひゃああああ、また。マダムかよ。どこがマダムじゃあ)」
「強い意志と精神があれば、負けることはない。自由フランス軍、万歳」
そう言い残して、ムッシュは手を振り上げながら颯爽と帰って行った・・・、と一度ぼくを振り返り、
「マダム、ぼんじょるねー(今日が良い一日でありますように!)」
と高らかに声を振り絞って去っていくのであった。で、なんで、仲良く、見知らぬじーじと、2ショットとってんねん!!!

滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」



見下ろすと、三四郎がぼくを見上げていた。
「あの、おじじ様は、なんですの?」
という顔をしていたが、ぼくは、両手を開いて、知らない、と返したのである。
羊たちに別れを告げ、ぼくらは家路についた。明日は息子の大学受験日なので、今日は「受験に勝つ丼」を作らなければならないのであった。
今世紀最高の勝つ丼を作ったる!
さ、行くぞ、三四郎、我らは自由フランス軍だ!!!!

つづく。

ということで、「ボンジュール!辻仁成の春のパリごはん」再放送が決定しましたので、少し早いですが、お知らせです。
【再放送日時】
<BSプレミアムのみ>2022/5/3 (火・祝) 10:30~11:29
ということなので、ゴールデンウイーク、ご家族で父ちゃんのそそっかしい人生を大笑いしてくださいませ。ちょうど、一年前のフランスが舞台であります。

地球カレッジ

滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」

※ そして、夕飯は、辻恭子の受験に勝つ丼、を再現した父ちゃんであった。美味かったー。

滞仏日記「受験に勝つ弁当を作った。ドゴール派最後の大物に、マダム、と呼びとめられた」

※ これが、明日の息子の大学受験に勝つサンド弁当だ!!! どうじゃああああ! 息子よ、勝ったれー-。



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