JINSEI STORIES
退屈日記「息子の受験おやつ&夜食、そして、お弁当を頼まれた」 Posted on 2022/04/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、いよいよ、明後日、息子の大事な受験日となった。お腹をすかせてはいけないので、栄養があって、サクッと食べられるものを用意している。ということで昨日のおやつはハンバーガーにした。いつもは自分の部屋で勉強をしているのだけど、ここ一週間は食堂のテーブルを占拠してノートやパソコンを広げている。(いつになく、本格的である)なので、
「お腹すいてないか? なんか作ろうか?」
と聞きやすい。
「うん、ありがとう」
ということで、夕食まで時間があるので、得意なハンバーガーにしたのである。
夜は少し遅い時間にして、夜食兼の夕飯、胃に優しい和食にした。
「どう? 順調?」
「ドキドキしてきたんだ」
「マジか、珍しいな」
「うん」
「でも、どうせ、合格率7%だと受からないから、緊張するな」
この言い方もどうか、と思ったけど、緊張して落ちるよりは、そうか、と思って挑んだらとんでもないパワーが出るかもしれないので、気を解す意味で言ったら、
「パパ、実は合格する可能性が37%まであがったから、緊張しているんだよ」
と言い出した。
「マジか、それは、万が一がありえるじゃないか?」
息子が白い目でぼくを見る。
「万が一よりはうんと確率は高いけど」
あはは、と笑いあう親子。最近、仲良しである。
受験を前に、打ち解けてきたのはよかった。
「パパ、そうだ、お願いがある」
「なんだ? 言うてみィ」
※息子が、おやつで一番人気は、小さな頃からこちら、シューケット。フランスの子供が大好きなおやつです。ミニシューみたいな感じだけど、中にクリームは入ってない。かわりに、ザラメが・・・・。美味いのだ。
「お弁当が必要なんだよ」
「言ってたね、たしか、そんなこと」
「でも、食べ過ぎると眠くなるから、ちょっとでいい」
「だね、了解。おにぎり系とサンド系はどっち?」
「サンドイッチが食べやすい。それから、朝もなんかちょっと食べた方がいいかも」
「朝はバナナがいいよ。普段食べないから、下手に食べると調子崩れる。バナナ」
「おっけー」
「弁当は任せとけ」
父ちゃん、やはりここは、「辻恭子のとん勝つ」だな、と思ったのだ。(恭子は我が母。ぼくが試合や受験の時はいつも願掛けでカツを作ってくれた。試合には負けたけど・・・。笑)
前日、つまり明日の夜に「辻恭子の勝つ丼」を作って、二人で食べ、その残りのカツを使って、「受験にとん勝つサンド」を作ってやればいいのじゃないか、と思った次第なのだった。
ということで、不意に気合いの入った父ちゃん。今日はこれから三四郎を連れて、ロジェの肉屋さんにカツを買いに行くのであーる。
皆さんの応援をお待ちしております。
つづく。