JINSEI STORIES

滞仏日記「息子が受験について語り、三四郎と遊んだ。父ちゃんは試験にとん勝つを作る」 Posted on 2022/04/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝、起きたら、dancyuの植野編集長から、
「辻さーん。ポスターが出来たんですが、どっちがいいですか?」
というメッセージが飛び込んできた。なんのポスター? 
拙著「パリの食べるスープ」のポスターかな、でも、今頃? と首をかしげていると、
「4月23日(土)、24日(日)に開催するdancyu祭の「豚汁ブース」に添付のパネルを展示させていただきますが、どっちがいいかな、と思って」
と続きが舞い込んできた。
えええ、パネル作るの?
で、慌てて、dancyu祭りのHPをみたら、ゾーンがAからEまであって、そのEゾーンの一番最後、44番目に「豚汁」というブースがあったのだ。
おお、すげー、こんなにブースがあるのか、ぼくは44番、ラストか、・・・と驚きつつも、その下に書いてあった注釈でさらに腰を抜かした。
『あの人の豚汁が食べられる!? 詳細はイベント当日までお楽しみ』
となっている。
当日までぼくの豚汁であることは伏せられているのか。で、いきなりパネルで集客するということか、植野さんは何を考えているのか、大丈夫かぁ!!!

滞仏日記「息子が受験について語り、三四郎と遊んだ。父ちゃんは試験にとん勝つを作る」



ぼくはもちろん行けないので、ぼくのディナーライブとかで毎回料理を手伝ってくれている料理研究家の尾身さんチーム(渋ちゃん、梶原ちゃん、全8名)が料理を担当する、というのだから、大がかりで、凄すぎる。
なんと、一日、250食(合計500食?)も出すのだとか・・・、誰がそんなもの食べんねん!!!と突っ込みたくなるが、植野編集長の一押しスープなので、許してやろう。あはは。
※ 新宿住友ビル、三角広場だそうです。ご興味のある食いしん坊の皆様、詳しくは「dancyu祭り」でご検索ください。
「で、辻さん、パネル、どっち?」と植野さん。
「どっちでもええです。あんまり、大げさにせんでください。恥ずかしか」と辻ちゃん、皆さん、どう思います? どうでもいいですよね?
と、心にもないことを呟く父ちゃんであった。辻家名物、とんじーる、お楽しみに。

滞仏日記「息子が受験について語り、三四郎と遊んだ。父ちゃんは試験にとん勝つを作る」



さて、フランスはイースターの三連休だから、人が少ない。
人が少ないのに、三四郎を連れてパリ・新事務所に顔を出したら、その近くでシェフのHさん、ぼくのライブに来てくれたことで仲良くなったTさんとY君カップル、下の階のビーグルのオラジオとそのご両親、ライターのMさん、などなど、普段、日本人に会うこともないのに、バンバン日本人とすれ違った奇妙な一日なのであった。
同じ日、福岡でも、新事務所の契約の手続きが、はじまったのだ。
こちらは弟君が活動拠点とする事務所兼書庫となる。
写真で見る限りは居心地の良さそうな住宅地のマンションの一室である。
ちなみに個人事務所の本社は大阪の知り合いのところに間借り予定で、パリ、大阪、福岡、と三都市を結ぶ。
東京がなくなったのは残念だけど、タイタンがあるので、ま、いいね。
要は、今の時代は大きなオフィスがなくとも、ライターさんやスタッフさん、あるいは編集者やプロモーターさんとはパソコンで繋がることが可能・・・。
その点は便利である。
ともかく、秘書の菅間さんの急逝から半年、ようやく、新たなスタートの日を迎えることが出来たのであった。
父ちゃんの、新たな船出であーる。

滞仏日記「息子が受験について語り、三四郎と遊んだ。父ちゃんは試験にとん勝つを作る」

※ どう思います? この自然体すぎる甘え方・・・。



事務所の片付けの後、ともかく、息子がまもなく(あと5日)大学受験なので、今日は、辻恭子(母です)直伝の願掛け料理でもある「受験に勝つ、とんかつ」を作ることにした。
とんかつに衣をつけるとき、
『がんばれ、合格、がんばれ、じゅーべー、ふぁいと、一発』
と口ずさんだ父ちゃんであった。えへへ。
ぼくらが食堂で食事をしていると、いつものごとく、三四郎が柵の向こう側で、わんわん、と吠えだした。
「寂しいよー」という訴えである。
息子は珍しく、大学受験について、熱く語った。
かなり専門的な受験についての話であった。ぼくの知らない、フランスの教育システムの話でもある。なるほど~。
この23日の試験以外、他の大学に関しては、すでに泣いても騒いでもこれまでの成績とモチベーションレターで決まるとのこと・・・。
バカロレア(高校卒業試験)がその後、控えているが、彼はすでに合格ラインはクリアしているのだという。マジか。
ということで、胸をなでおろす父ちゃん。
ようは、23日の一番難しい大学入学試験を終えれば、あとは国や大学側がすべて決めることになる・・・。
彼なりに勝算があるのだろう、目が輝いていた。
どこでもいいから、入ってくれ!
「わんわん」と三四郎が吠え続けた。
すると、語り終わった息子が立ち上がり、柵のところまで椅子を持っていき、そこに座って三四郎と遊び始めた。
「なんで、椅子?」
「あのね、噛むんだよね。甘噛みのつもりなんだろうけど、結構、痛んだ」
「まじか?」
息子が、噛まれたところを見せてくれたが、足のすねのところが赤い。
ありゃ。あかんな、サンシー。
やっぱり、息子のことを自分の下と見なしている節がある。ぼくは噛まれたことがないからだ・・・。
でも、三四郎と遊ぶ息子の絵はなかなかグっとくるものがあったので、写真撮影をしておいた。
ご覧頂きたい。
※ この写真は、本人の許可をとりました。少しずつ、彼にも余裕が出てきた、ということだろう。
お兄ちゃんになったでしょ? ふふふ。
今日は、新事務所がスタートした日でもあり、息子の試験の先行きもちょっと分かったし、相変わらず三四郎は甘えん坊であったが、間違いなく、言わせてもらう。
「辻家は幸せなのだ!!!!!!!」

つづく。

滞仏日記「息子が受験について語り、三四郎と遊んだ。父ちゃんは試験にとん勝つを作る」

ということで、今日も日記を読んでくださって、ありがとう。


NHK「冬ごはん」の再放送ですが、
NHKBSプレミアム 「ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん」
【再放送日時】 2022/4/19 (火) 14:44~15:43
まだご覧になってない皆さま、ぜひ。

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