JINSEI STORIES
滞仏日記「ニコラではなくナトン、マノンではなくクロエ! なにィ?」 Posted on 2022/04/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくは子供が好きだし、犬猫が大好きなのだけど、その反面、正直、大人の人間が苦手でなのであーる。
大人は、やはり、ぼくもそうだけど、損得で繋がって来る人がほとんどだし、嘘もつくし、悪気がないにしても、利用もされることもあるし、あまりうまく向き合えないことが最近、だんだんと分かって来た。(今か・・・)
「パパは本当にすぐ人を信じて、あの人はいい人とか言うけど、ちょっと疑ってもいいんじゃないの。心配だよ」
息子にいつもこう言われる。その上、
「パパはすぐ、だから、もめるし、喧嘩するでしょ。信じすぎるからだよ」
と窘められる。思い当たることはある。
「パパ、それは結局、自分が悪いんだよ。端からいい人と決めつけるその癖を直さないと、いつかもっと痛い目にあうからね」
あはは、なんていい息子なんだろう・・・。
忠告は守りますね。
辻家には昔から、アシュバル君(2年前に同じ建物にいた子)とかローズマリーちゃん(上の階の子)とかルイーズちゃん(ピエールの子)とか、本当によく、近所の子供たちが出入りしてきた。
最近、頻繁に出入りしているのはご存じのように、ニコラ君とマノンちゃん。
いや、日記には書けないけど、他にも、いろんなお子さん(スタッフのお子さんとか)が我が家にはやってくる。
やなさんの娘さんはエマちゃん。有馬さんところのわんちゃんはめーちゃん。笑。
今日は、田舎で知り合ったお子さん、ナトン君とクロエちゃんがパリにやって来たので、これまたお馴染み呑もちゃんこと野本のうどん屋にご招待したのだった。
年齢はたまたまだけど、ナトンはニコラと一緒、クロエはマノンよりも1歳年下なのであーる。
まだまだ子供の二人だけど、だからこそ、めっちゃ可愛い。
子供はみんなどの子もそれぞれ個性的であり、それぞれの可愛いらしさがある。
マノンは、会った時、どうしようもなく、野性的で我が道を行く、超生意気で勝気な子どもだったが、(ニコラの方がずっと純情だった)でも、あれから数年、今は(親が離婚したこともあり)ニコラを育てるお母さんのような女の子に成長した。
子供はこのように、短い時間の中で急成長を成し遂げるのである。
ナトンは音楽が大好きで、ピアノを習っている。でも、ギターに物凄く興味があり、前回、ちょっとだけギターを教えてあげたら、それから、ぼくを見つめが変わった。まるで先生を見るような眼差し・・・。あはは。
子供のいいところは、叩けば輝く、みんな「打ち出の小槌」なのである。
どの子にも、その子なりのいい部分がある。
ぼくが教師ならば、子供の才能を発掘する錬金術師になっていたはずであろー、笑。
どんどん吸収して、成長をして遂げていく生き物・・・。
クロエは漫画が上手なので、元漫画研究会だった父ちゃんは絵心を教えてあげた。
クロエは静かに世界を凝視し、自分の中でイメージを積み上げていくタイプなのである。
ぼくが彼女らのご両親と夢中で話し合っている間、二人はカウンター席に座って、絵を描いていた。
食事が終わった時に、クロエに見せられた伝票裏に書かれたメッセージに感動をした。
もちろん、一番感動したのは野本であった。
若い店員さんたちが集まって来て、へー、かわいい、となった。子供はよくできた時に、しっかりと言葉で、何処が素晴らしいいのかをちゃんと教えてあげることが大切だ。
褒めて伸ばす、それは子育ての基本なのである。
「ムッシュ、日本語で、最高に美味しかったってどう書けばいいの?」
いきなり、こう聞かれたので、ぼくが紙に日本語で、とってもおいしい店、と日本語で書いて渡したら、この通り、それを見事にうつし書きしたのであった。
戦争でこういう子供が殺されていくのは、本当に許しがたい。
戦争だけじゃなく、実の親が子供を殺すことが多くなった時代・・・。これも本当に理解出来ない。
とにかく、子供心というものを人間は失ってはダメだ。
それは人間性の一番根底にあるものだと思う。
犬と比較してはならないけれど、ぼくが三四郎を育てる日々の中でいつも思うのは、生き物は自分の心を写す鏡でもある、ということ。
無垢なものと接していると心が穏やかになる。
ぼくはなぜか、大人が苦手なので、子供や犬猫に救われている。
ナトンはてんぷらうどんを注文し、クロエはかつ丼を頼んだ。
二人とも見事に完食した。
呑もちゃん、ありがたいねぇ。
ここまで残さず食べてくれると、料理人冥利に尽きるでしょ?
きっと、ナトンともクロエとも長い付き合いになることであろう。
パリにはニコラとマノンがいて、田舎に行くと、ナトンとクロエがぼくを待っている。
実は、もうちょっと、大人にも好かれたいのだけれど、えへへ。
つづく。
※ 見事に完食!!! 野本もにんまり。