JINSEI STORIES

退屈日記「受験が近づく息子にお願いをされた。ダメパパも臨戦態勢に」 Posted on 2022/04/06 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、いよいよ息子の大学受験が近づいてきた。
10日後に一番大事な試験が行われる。フランス全土にある大学なので、試験会場も全土に点在している。
昨夜、大学から通知があり「パリ近郊の受験会場」で試験を受けることが判明をした。
つまり、自宅から試験に出かけて行けるということになるなので、ラッキーだ。
その一日の試験ですべてが決まるのだそうだ。相当に大変だ、と息子が力説していた。
息子の友人のポール君はリール市まで行かないとならないし、別の子は南仏まで行かないとならない。
息子は、地下鉄で会場まで行くことが出来るが、彼の友人たちは前日入り、ホテルに宿泊をして受けないとならないのだ。
大学受験時期に入ったので、毎日のようにこういうことが分かって来て、その都度、一喜一憂している。

退屈日記「受験が近づく息子にお願いをされた。ダメパパも臨戦態勢に」



23日が受験日なので、この10日間はぼくにとっても重要な時期となった。
すると、息子に、昨日の夕食の時間「パパ、お願いがある。力を貸してほしい」と珍しく相談を持ち掛けられた。
「もちろん、なんでもするよ。なに?」
「今、ぼくが使っているパソコンはフィックスの備え付け型なのだけど、受験勉強をするのに、小型の持ち運びができるものじゃないと不便なんだよ。安いのでいいから、お小遣いでは無理だから、一台買ってほしいんだ。毎回学校のパソコンを借りて授業をするのが実に厄介で、つまり、受験勉強のためなんだよ」
「・・・・」
10日後の受験勉強のために、今、パソコンがほしい、という息子の申し出に、ちょっと違和感を覚えた。
そんなに大事ならもっと早く言えばいいのに。10日後に受験が迫ってる今かよ、かっちー――ん、とは思ったが、仕方がない。受験のため、という言葉には確かに弱い。
言い出せずにここまで学校のパソコンで頑張って来たけど、やはり自分のでは挑み難い、ということなのだろう、といい風に解釈をした、父ちゃん。
どっちにしても情報系の大学に進む息子は、持ち運びできるパソコンを持ってないとならない。もしかすると、その先のバカロレアとかでも必要なのかもしれない。
「わかった。買うなら急いだほうがいい。どういうのが必要なの?」
「え? いいの? 安いのでいいんだ。学校に持っていくものだから」
「中途半端なものを買ってもダメだよ」



息子が携帯を操作し、5万円くらいの格安小型パソコンの写真をみせた。
でも、彼が将来進むことを希望している広告や情報の大学に行くなら、動画の編集は必須だろうから、これでは無理だな、とぼくは思った。
一緒にネットで探し、いいのがあったので、その場で購入することになった。
思わぬ出費だったが、これは仕方がない。近くの電気店に在庫があるので、ぼくが取りに行くことになった。(買ったのがぼくなので、ぼくが行かないとならないのである。息子とは去年、受験のことで大喧嘩をしたので、これまですべて彼は自分でやってきた。ぼくに出来ることはこのくらいなのである)
「夏前に、他に試験はいつあるの?」
「5月、12,13,14,15日当たりにバカロレアの試験が控えている。その後、6月に対面の試験があって、あとは結果待ちかな」
4月23日の大学は直接試験会場で筆記試験、彼が申請している他の大学(全10校ほど)は普段の成績やモチベーションレターやバカロレアの試験などの合算による総合判断で大学側が生徒を選ぶ。
コロナ禍の影響を受けた新しい受験システムのようだが、細かいことは息子に丸投げなので、ぼくにはわからない。
しかし、去年、志望校が決まらずギスギスして、つかみ合いの喧嘩をしたときが嘘のように、今、息子の精神状態は非常に安定している。
優しいし、落ち着いている。自分で日々のスケジュールを決めて、頑張っている。勉強につかれた時は部屋から出てきて、三四郎を抱っこしている。三四郎はここでも大活躍だ。
父ちゃんは、見守るしかない。
じゃあ、皆さん、ぼくはこれから息子のパソコンを買いに行ってまいりきます!

つづく。

追伸。小さな心配事。今朝、朝ごはんを食べない三四郎。ジュリアへの恋煩いか、体調が悪いのか、ごはんを食べないなんて、今まで一度もなかったので、ちょっと獣医さんにも行ってきます。

退屈日記「受験が近づく息子にお願いをされた。ダメパパも臨戦態勢に」



地球カレッジ
自分流×帝京大学