JINSEI STORIES
退屈日記「マスクをしないで春を喜ぶ連中を前に、今こそ気を付けろと説教した」 Posted on 2022/03/18 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくの知り合いのカーヴ(ワイン屋)のおやじは、マスク反対派の代表みたいな人で、いいやつなのだけど、大声で唾飛ばして話すし、規制中もマスクをしてなかったし、いわゆる頑固なフランスおやじなだ。
14日、フランスではマスクの屋内着用義務、ワクチンパスポートの提示義務が終了となった。
つまり、以前のように普通にカフェやレストランやブティックに行くことが出来るようになったのである。
この規制緩和で、世の中の人たちは日常が戻って来たと錯覚し、ノーマスクで浮かれている。
ところで、一日の感染者数は10万人を超えているのだ。
ぼくは、危険だな、と思っている。
というのは、フランスでもデルタとオミクロンの合体最強コロナが拡大中であり、これまで通りの感染拡大推移から判断すると、二か月後には再び、規制が強化されるのが目に見えているからだ。
それでも政府が緩和をしたのは、4月の大統領選挙を目前にして、人心を集めたいからであろう。
選挙でマクロン氏が当選をしたら、再び、規制を強めるとぼくは踏んでいるし、賢明なフランス人も分かっている。
現在、10万人も一日で感染者が出ているのに緩和すれば、カフェに人が溢れ、この陽気だし、マスクもないので、唾飛ばしあって春を喜びあうだろう、じゃあ、どうなる?
人間抑圧だけだと不平がでる。規制と緩和、これの繰り返しはもはや仕方がないのかもしれない。
ただ、ぼくは外でもマスクをして過ごしている。初心に戻って・・・。
行きつけのめっちゃ態度のでかいワイン屋おやじ、エルベ。
人の批判が得意で、日本人からすると我が強すぎる、いわゆるフランスを代表する小言おやじなのだけど、なぜか、この街で一番最初に親しくなった手前、恩義を感じ、そこで仕方なくワインを買っている。
昨日、散歩の帰りに顔を出したら、「ツジー、知らんのか。マスクの義務化なくなったんだぞ」と笑われた。
「俺は日本人だから、自分で判断をする。今、マスクをとるのは愚か者だ」
と伝えて、そこにいる昼間っから飲んだくれている客らの失笑を買った。
「2020年の3月から、ぼくはコロナの推移をきちんと研究してきた。今、毎日、十万人を超える感染者が出ている」
ぼくは陽性率、ICUのベッド専有数、そして日々の死者の数を伝えた。
その上で、デルタクロンという新種が猛威をふるうことを彼らに教えてやったのだ。みんな、それがどうした、という顔で吞み続けている。
そこで、英国の科学者が先日発表をした、コロナ後遺症の一つに脳の萎縮が見られる、というのを検索し、英語版記事を見せてやった。
その中には縮こまる脳の断面写真まで入っていた。
「コロナに罹ると、このように脳が委縮する後遺症が多く出ている。もとに戻る可能性もあるだろうが今のところまだ分かってない。脳はぼくの仕事道具だから、皆さんのようにノーマスクで生活できないんだよ。その上、心筋炎で不意になくなる人が増えていて、ぼくの周りで3人ほど命を落としてしまった。原因は不明だけど、ワクチンかもしれないし、後遺症かもしれない。コロナを風邪と思いたいフランス人のラテン気質は結構だが、日本人であるぼくは、日本人気質を信じ、石橋をたたいて渡る。あなたたちが、後遺症を軽視していると、あとで痛い目にあうかもしれないことを科学的にお伝えしておきます。エルベ、いつものワインを2本。消毒液はどこ?」
エルベが怖い顔で、消毒液を指さしたので、ぼくはみんなの前でこれ見よがしに手の消毒をしておいた。
※ 2020年3月、最初のロックダウンの時は、あのエルベでさえ、一応マスクをしていた!笑。
日本には素晴らしいことわざがある、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」である。
しかし、コロナへの恐怖心がなくなった人たちは、次に控えているコロナ後遺症の恐ろしさを見ようとしない。今の幸せにちゃちゃ入れられたくなのだ。
しかし、罹らないのに、越したことはない。
ぼくはこの三年間、人一倍気を付け、あの厳しいロックダウン制限かを乗り越え、結果、罹らずに今日に至っている。一番の防衛は気を緩めないことだ。
「エルベ、政府が規制を緩和した後も、マスクをしている人たちが少数いる。その人たちを笑うべからず。用心に越したことのない時代なんだよ」
つづく。
今日も読んでくれて、メルシー・ボク!!!
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