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退屈日記「ちょっと方向を変えてみる」 Posted on 2022/03/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくは30年以上、小説家として生きてきた。しかし、いつも、一番苦心するのが、タイトル、なのである。
書きだす前に決定しているものもあれば、編集者さんと一緒に悩んでひねり出すものもあるし、いつまでも決まらずに印刷所に入るぎりぎりで滑り込みセーフというきわどいケースも・・・、実にさまざまなのである。
しかし、エッセイ集とかの場合だと、編集部から提案が来る場合が多い。
もちろん、最終判断は作家にあるのだが、・・・。
タイトルはその作品の看板なので、毎回、苦しんでいる。
時代と寄り添えるものが必要になるので、昔は、よくタイトルを決める飲み会と称して、編集者さんと朝まで飲んだものだった。笑。



今回、文春さんから、新書の新刊が出る。
タイトルをどうしようということになり、「ちょっと方向を変えてみる」という言葉を提案していた。
不思議な話だと思われるだろうが、こういうタイトルは編集部に決定権がある場合が多く、もちろん、作家が最初に言い張れば通るとは思うが、出版というのは共同作業なので、出来るだけ一緒に考えるよう努めている。
で、いくつかのタイトルが集まると、最後は、上の方の了承を取らないとならない。
といっても、小説の場合は、作者が決めるのが普通かなァ。出版社と作家の力関係もあるかもしれないけれど・・・。
エッセイ集とか新書などは、ぼくの経験からすると、編集者さんがかなり口出しをしてくる。
編集という仕事のもっとも大事な部分でもあり、最初のぼくの編集者だった集英社の片柳治氏も、タイトルに関しては話し合いたい、といつもぎりぎりまで二人で悩むことが多かった。←それを口実に集英社のご馳走で、飲んでいた、笑。いい時代であった。

今回は、ぼくが提出した「ちょっと方向を変えてみる」が採用され、文春新書編集部がサブタイトルを考えた。
ちなみに、サブタイトルは「七転び八起きのぼくから154のエール」である。
いいサブタイトルだと思うけど、やっぱり、「ちょっと方向を変えてみる」はここ最近の自分の心境を表しているので、ぼく的には採用されて満足しておる。あはは。編集部の皆さん、ありがとう。

退屈日記「ちょっと方向を変えてみる」

※、岡さんと一緒に作った本がフランスで出版された。



基本、ここ数年のツイートから、割と素直な言葉たちが選ばれている。
石塚さんはお会いしたことがないのだけど、女性の方で、(最初は文体から男性だと思っていた)ぼくの日記やツイートを実際励みに生きてこられたと、丁寧なメールを頂いたのがお仕事のはじまりであった。
出版というものは、編集者さんとの出会いがすべてである。
一つの出版社さんと継続的に仕事をするというより、作家というのは編集者について行く傾向がある。
ぼくはもう30年選手になったので、この人としか仕事をしないという編集者さんはいなくなった。
皆さん、亡くなられた。
文芸春秋社の岡みどりさん、集英社の片柳治さん、新潮社の坂本忠雄さん。
ぼく、辻仁成を作った人たちである。
岡さんとは「永遠者」、片柳さんとは「ピアニッシモ」、坂本さんは「海峡の光」かな。
皆さん、厳しいけど優しい昭和の編集者さんであった。
坂本さんは三島由紀夫さんの担当編集者でもあり、ぼくが傾倒していたこともあり、よく、三島さんのことを話してくれた。
片柳さんは先輩作家の皆さんをいろいろと紹介してくださった。文壇というのを教えてくれた人でもあった。
岡さんはぼくにとってお母さんみたいな人だった。あはは。
素晴らしい方々と出会えたことは一生の財産である。生きている間に仕事をしたい編集者さんがいるけど、小説界も変わってしまったので、昭和のような感じで本が出せなくなってきたのはちょっと残念。でも、時代は変わるのが仕事・・・。
ぼくはその寂しさからデザインストーリーズをスタートさせ、そこが発信のプラットホームになった。
こういう作家は珍しいのじゃないか、と思うが、ぼくが海外在住ということもあり、電子への移行は仕方ない。
これも、ぼくにおける「ちょっと方向を変えてみる」なのであろう。

退屈日記「ちょっと方向を変えてみる」



この世は無常なものだから、世界はつねに変化を繰り返す。
人がにっちもさっちもいかない時に、ぼくはちょっと方向を変えてみることをおススメしている。
ちょっとでいいので、軌道修正をすると、生き易くなる。
自分が変われば出会う人が変わる、という一節がぼくの歌「コトノハナ」の中にある。
これも、ちょっと方向を変えてみる、という提案だ。
今、生きている場所が生き難いと思われている人たちにぜひ手に取って頂きたい一冊なのである。

ということで、四日後、3月18日に、新刊が出るのだ。笑。
文芸春秋社の石塚さんが「辻さんの言葉を新書で出したい」と申し出てくれたのが去年だったか、・・・・。
今日、石塚さんから昨日の地球カレッジの授業が面白かったというメールをいただき、その最後に、発売日が近し、と添えられてあり焦った父ちゃん。
なんにも宣伝してなかった。あはは。四日後です!!!

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退屈日記「ちょっと方向を変えてみる」

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