JINSEI STORIES

退屈日記「父ちゃんは、苦しい時にこそ、人を励ますのだ」 Posted on 2022/03/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、コロナ禍がやっと落ち着きを見せだしたところで、ウクライナとロシアの戦争がはじまり、その影響が全世界に飛び火している。
ウクライナから届く悲惨な映像やニュースを見て、気が重くなる毎日である。人間はどうしてこうも愚かなのか、と悲しくなるが、それでも世界中で日常は繰り広げられていく。
毎日、世界は更新され続けていくのである。
無常なのだ。この世は。

シングルファザーになった時、決意したことがある。
どんなに絶望的になっても、それは自分の責任なのだ。
生きることだけは諦めてはいけない。投げ出してはいけない。
自分のことばかり考えないで子供や周囲の世界のことを考えてひたむきに、生きていこう。
そうすれば、きっと、自分も生きることが出来る、と。

退屈日記「父ちゃんは、苦しい時にこそ、人を励ますのだ」



その決意がきっかけで、ぼくは生まれ変わることができた。
生きるのは過酷だけど、どの場面でも、生き抜く次の手を考え続けるようになった。
息子を育てないとならないので、親としても頑張らないとならなかった。
ずっと、「今ココ」という精一杯の現状を綱渡りしてきた。
ツイッターの返信でフォロワーの皆さんから「辻さん、いつもありがとう」と言われるたび、ぼくは不思議な気持ちになった。
誰かを励ますことは、実は厳しい今の自分を励ますことに繋がっているのだ、と気づかされたからである。
人間は持ちつ持たれつなのである。
人間は人間に傷つけられ罵倒されどん底に突き落とされるのだけど、人間は同時に人間によって手を差し伸べられ引っ張りあげられ再生できる生き物でもある。
ぼくはいま、誰かの背中を押し、苦しい場所から引きあげながら、同時に、自分も一緒に上がろうとしているのである。
励ます、ということはそういう運動だ。
誰かを励ますこと、それはそこに鏡があって、自分に跳ね返ってくる、もっとも人間らしい行動なのである。
自分ひとりだけ幸せになれる人間なんていない。そんな人間はいない。
一番大切な幸福とは周囲の、関わった仲間たち全員で幸せになることなのである。

退屈日記「父ちゃんは、苦しい時にこそ、人を励ますのだ」



まだまだこの世界は過酷が続くだろう。
日本も今が踏ん張り時なんだと思う。そういう中でこそ、やさしさや思いやりを失わず、人間らしく、精一杯生きられるように生きなければならない、とぼくは思っている。
厳しい状況下なので、どう転べばいいのか、判断が出来ない場面も多くあるとは思うが、ぼくは家族や友人のために行動が出来ること、そして、何より、自分自身を大切に生きることが大事だと思っている。
この日記を通してしか、皆さんとは接することが出来ないけれど、ぼくはここで毎日何千字かの文字量で発信し、その葛藤や苦悩や希望や現実を皆さんに伝えることで、みんな一緒なんだから、頑張ろうという共有的希望を提案している。
ぼくの日記で皆さんが笑ったり、泣いたり、考えてもらえることが、同時に、ぼくにも励みとなっているのだ。
同等の希望のリフレクション(反射)がそこに生じる。
人間は持ちつ持たれつなのだから、同じ地球という船にのったもの同士、この航海が続く限り、励ましあいたい。
励ましあいましょう。
ありがとう。
今日も生きてくれてありがとう。

つづく。

退屈日記「父ちゃんは、苦しい時にこそ、人を励ますのだ」



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