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退屈日記「3月12日の雑感。ロシアはどうなるのか」 Posted on 2022/03/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ウクライナ・ロシア戦争の終わり方について、考えてみた。
ずっと考えていることだ。ロシア軍が現在、キーウ(キエフ)を包囲しつつあるというが、どうやら兵士の士気もかなり弱いし、情報機関は都合のいい情報しかクレムリンにあげていないし、シリア辺りから雇兵をかき集めて投じないとならないくらいの気力不足(この傭兵はどのような秩序で動く?)、統率も弱く、規模はバカでかいけど、軍隊としてのレベルはウクライナ人の気骨には到底及ばないのじゃないか、と想像する。
けれども、圧倒的なロシアの軍事力でキーウをなんとか攻略したとして、あるいは、ゼレンスキー大統領やその幹部らを捕まえるか、もしくは殺害したとして、その後に親露政権を樹立しても(しかし、真のウクライナ人になり手はいないだろう)、果たしてこのようなプーチン独裁政権に、あの勇猛果敢なウクライナ人、4000万人を統治、支配する能力があるとは思えないのだ。じゃあ、どうなる?



答えは明白で、ウクライナ人は最後の最後まで抵抗を続けるだろう。それはアフガニスタンよりもっと激しい抵抗運動になるのじゃないか。なぜならウクライナはロシアに隣接し、キエフ大公国からのロシアに負けない長い歴史を持ち、かつては核兵器を保有し、原子力施設を動かし、強い軍隊も持っていた。子供を含む大勢の同胞がロシアの近代兵器の犠牲になった。美しかった国土が荒廃した・・・。そのことが彼らのロシアへ対する憎悪と敵意を倍増させている。じゃあ、ロシアはどうするのか、ということが次の問題になってくる。
思い通りに駒を進めることが出来ないロシア軍にNATO加盟国、ポーランドなどを攻撃するだけの戦闘余力は残らないだろう。あるのは6000発を超える核兵器だけだが、これを使えば、世界が終わる。ならば、彼らは傀儡政権にウクライナを預けるかもしれない。首都制圧された途端に逃げたアフガニスタンのガニ大統領のように傀儡政権の行く末はお粗末なものだろう。ゼレンスキー大統領は死んでも名を残す。強い亡霊になってウクライナの人々の中で生き続けるに違いない。ロシアにはそのような大義がない。ただ、ロシアは核兵器を持っているので、その落としどころだけが分からない。米欧がウクライナに派兵出来ない一番の問題はプーチンの頭の中の深いところで燻ぶっている闇のせいだ。



自由主義圏からの制裁が重くのしかかるロシアのデフォルトは近い。仮にロシアの友好国がロシアとの経済を支援したとしても、貧困はみえている。ひとたび自由を享受したロシア人が貧困の中で生きていけるとは思えないので、国内で、戦士した兵士の母親たちが起爆剤となり、激しい抵抗運動がおこる可能性がある。ロシアがここで北朝鮮のような政治体制に移行するとも考えにくい。そこをプーチン氏は見極め切れていないのじゃないか。プーチンが居座る限り続く経済制裁のせいで、元の世界に戻れないロシアの行く末は相当に悲惨なものになるだろう。プーチンはゼレンスキーの首を取ることはできるかもしれないが、その亡霊によって、生涯苦しめられることになるだろう。彼の支持者、とくに彼を支えた富裕経済人らの離反が静かに始まっているという。時がたてば一層孤独なものになるだろう。最終的には、核兵器を使って自分の名誉のためにこの世界を道連れにする可能性も否定できないが、その最終着地点だけは想像することが出来ない。

退屈日記「3月12日の雑感。ロシアはどうなるのか」



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