JINSEI STORIES
献立日記「辻飯!骨付き鳥もも肉を買って、そこからのつけ麺大魔王なのであった」 Posted on 2022/03/03 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、世界が「コロナだ、戦争だ」と大変だが、父ちゃんは主夫として家庭を守らないとならない。
まず、受験生に美味しいご飯を作らないとならない。
食費を出来るだけおさえながら、美味しいを追求する必要がある。
ということで、大手スーパーに行ったら、骨付き鳥もも肉が安売りしていた。4つ入りで200円くらい。おお、これは安い!
日本だったらこの骨が丁寧に外されて売られており、唐揚げなどによく利用されている。
フランスだと骨付きで売っているのが普通だ。
ぼくはこの骨が嬉しい。骨が大好き。まるでわんちゃんのように、骨付き鳥もも肉を見ると、身もだえするのであーる。
というのはこの骨は非常に良質の脂を含んでおり、これで作るスープはもう最高。
骨を利用しない手はない。そこで、献立おやじは考えた。
まず、皮目パリパリの鳥のグリル(我が家では焼き鳥と呼んでいる)にし、出た骨でスープをこしらえ、翌日、つまり今日の昼に、つけ麺をやるのは、どうだろう、と・・・。
いいねぇ。
骨に沿って、包丁を入れ、綺麗に肉部と骨とを分離させる。
塩胡椒と酒で数時間付け、皮目を下にフライパンでじっくりと火を入れる。(油はいれない。十分、皮から脂が出る)途中で脂をキッチンペーパーでふかないとならない。
結構、粘って、皮に焦げ目が出るまで焼き、そこでようやくひっくり返す。
ひっくり返したら3分程度で完成だ。
食べやすいサイズにカットし、息子は鳥焼き丼にしてやった。
父ちゃんは、ラディッシュの浅漬けと、ニラ玉を作り、焼き鳥はビールのアテに。
ぐびぐび、最高なのである。
で、食後、骨は鍋にいれ、玉ねぎやニンニク、生姜、と一緒に弱火でじっくりと煮る。
寝る前に、火を消し、翌日、料理する2時間くらい前から、再び弱火でコトコト。
味見をして、ダシ、醤油、酒、塩、味噌などで味付けをする。
今日はつけ麺大魔王なので、濃い目に。
この地で中華麺は手に入りにくいので、スパゲッティーニを重曹を入れて茹でる。
中華麺風にするには重曹を大さじ1程度いれて、通常より長めに茹でるのがコツ。
実は、日本のスーパーで売ってる市販の中華麺だとちょっとぼくには柔らかすぎる。
重曹で茹でたスパゲッティはつるんとしてコシもあり、美味しいので挑戦してみてほしい。気を付けないとならない点として、たまに、ふきこぼれることがある。
ふきこぼれそうになったら、慌てず火を弱めるか、一度消そう。
もやしを塩胡椒で炒め、麺の横に添え、鳥ハムとか半熟ゆで卵を載せて、完成だ。
息子も、受験を目前にして、ちょっと安定してきた。
高校生になった直後に始まったコロナ禍。
三度もロックダウンがあり、外出制限の中、大学受験へ向けて、親子喧嘩もしてきたが、本当に頑張ってきたと思う。
なのに、今、再び、ウクライナ危機が襲っているけれど、
「お前は余計なことを考えないでいい。父ちゃんが守ってやる。勉強に集中しなさい」
と言い続けている。
とにかく、不安定な世界で頑張る青年たちの一番の応援が「美味しい家飯」なのである。
「どうだ、うまいか?」
「うん」
言葉は少ないが、美味しいのであろう。
ペロッと150gものパスタを平らげてしまった。
今はひたすら勉強を、大学に合格することだけに集中してほしい。
そして、父ちゃんにできることは「美味しいご飯」を作ることだけだ。
いや、それにしても、焼き鳥からのつけ麺、最高であった。まずは、食べて英気を養い、日々を乗り越えていこう。えいえいおー。
つづく。