JINSEI STORIES
退屈日記「男親弁当を今朝も作った」 Posted on 2022/02/22 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子のお弁当を今朝も早起きしてこしらえた。
今日は豆ごはんを炊いて、それでおにぎりにした。
普通のお弁当でもいいか、と寝る前に訊いたら、
「授業の合間が短いし、みんなサンドイッチだから、さっと食べられるものがいい」
という返答だった。
冷蔵庫を覗くと、なんにも入ってないので、夕食で食べた豆ごはんにカツオデンブを詰めて、塩握りにしてやった。
食べやすいものがいいだろうと、卵焼きと、有頭海老が少し残っていたので塩胡椒で炒めて、添えた。
「男親弁当」とでも呼びたくなるような大胆で豪快な弁当になった。
この子が小学生の頃は、子供が喜ぶような可愛いお弁当をこしらえていたけど、大学受験生に可愛いは意味がないので、まずは、空腹をきちんと満たせる父親の愛が詰まった弁当がよかろう、と思った。
今週いっぱいは、予備校の集中講義があるので、お弁当作家、久々の復活である。
デリバリーんどに使われているプラスティックケースね、父ちゃんはこれを捨てずに綺麗に洗い、集めるのが趣味なので、笑、豆にぎりを、たくさん保管してるケースの一つに詰めたのであーる。
お弁当の準備が終わると、三四郎には子羊のドッグフードを出してやった。
三四郎が食べていると、息子が起きてきた。眠そうな顔をしている。これから、登校なのだ。
ぼくはお弁当箱を紙袋にいれて、手渡した。
昨日は19時くらいに戻ってきた。
開口一番、疲れた、と漏らした。かなりお疲れの様子だったが、
「昔の中学の時の同級生が、クラスにいて、懐かしかった」
と言った。
「何人くらいの予備校なの?」
「ぼくのクラスは30人、全体で200人かな」
「少ないね。でも、少数精鋭なんだろうね」
「先生がとってもいいから、やる気が出る」
よかった・・・、と安心した父ちゃんであった。
「でも、みんなが冬休みだというのに、ぼくだけ学校に行かないとならないのは嫌だけど、仕方ないか・・・」
とも言った。あはは、受験生はつらいね。
今週は土曜日まで予備校の集中講義が続く。
父ちゃんもちょっとやる気になってきた。
今日はお弁当の材料を買いに行き、明日も「男親弁当」を頑張って作らなきゃ。
シングルファザーを始めた頃のことを思い出す。
お弁当を紙袋に包み込んで、息子に手渡す時の、なんというのか、あのくすぐったく懐かしい感動がうれしかった。
いってらっしゃい。