JINSEI STORIES

滞仏日記「ぼくは三四郎を海に連れて行った。興奮する三四郎に感動した!」 Posted on 2022/02/15 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日、ぼくは三四郎を、彼にとっては生まれてはじめての海、へと連れて行った。
ところが、三四郎は海を見た途端、興奮して暴れだし、今まで見たこともない感じで走り回り、リードを引っ張り、けれども遠くへは行けず、結局、ぼくの周りを何度も何度もぐるぐるぐるぐると回って、最後はでんぐり返り、ひっくり返り、起き上がってはまた転び、おいおい、どうしたんだよ~、砂だらけの顔になっちゃったじゃん、となった・・・。笑。
どんな反応になるか、全く、想像が出来なかったが、こんなに興奮するとは思わなかった。
犬は海が好きなんだ、と気が付いた父ちゃんであった。
というか、人間も動物もカモメもみんな海が好きなのであーる。
海はそれだけで、もう十分に偉大だ。
ぼくは三四郎と小一時間、浜辺を散歩し、水平線を眺め、打ち寄せる波の音を聞いて、三四郎を抱き寄せ、よしよし、と頭をさすってやるのだった。

滞仏日記「ぼくは三四郎を海に連れて行った。興奮する三四郎に感動した!」

滞仏日記「ぼくは三四郎を海に連れて行った。興奮する三四郎に感動した!」



でね、三四郎のとある性格がだんだん分かってきた。
それは他の犬とすれ違う時、特に大きな犬とすれ違う時、三四郎はちょっとビビっている。たぶん、昔、犬の園で噛まれたトラウマがあるからだろう。
大型犬が視界に入った途端、いきなり、その場にうずくまって、動かなくなる。
伏し目がちになって、遠くから近づいてくるわんこをじっと見ている。
で、大型犬たちが三四郎なんか相手にしないで堂々と通り過ぎると、三四郎はその犬を追いかけていく。
すれ違う時は逃げ回っているのに、遠ざかると、必死で追いかける。不思議なツンデレなのであーる。
一方、小型犬は三四郎に興味を持つ犬が多くて、近づいてくると、三四郎、最初は様子をみているが、不意に、噛みつこうとしたりする。困ったやつだ。
だから、先方の親も、困ったという顔をして、去っていく・・・。
で、自分で吠えておいて、三四郎は大型犬と同じように、小型犬たちの後も追いかけていくのであーる。
でも、向こうはもう戻ってこない。
その戻ってこない犬をいつまでも寂しそうに見つめている三四郎。
この子も、この子なりに、生きているんだな、と思うと胸が締め付けられる。がんばれ~。

滞仏日記「ぼくは三四郎を海に連れて行った。興奮する三四郎に感動した!」



帰り道、漁港に出る移動魚介店でホタテを買った。
「どうする? 処理する?」
とあんちゃんに聞かれたので、「そのままでいいよ。自分で処理するから」と言ってホタテをもって帰る父ちゃん。
フランス人はホタテのヒモとか肝とかを捨ててしまう。
日本人からすると勿体ない話しだ。
ホタテはほぼ全部(一部食べることが出来ない部位があります)食べられるので、ぼくは殻付きで買って、自分で処理をする。
今日は殻付きホタテを六個買って、800円という感じ・・・。
パリでは絶対考えられない値段なのだ。
ヒモと肝は甘辛煮にして、貝柱のところは刺身にした。(ついでに茹蛸を買って、蛸わさも作った)
Lさんが送ってくれた乱尺の四国うどんに生姜を載せて、ネギと白だしで、頂いたのであーる。
美味しかった。三四郎は子羊のドッグフード!
でも、二人だから(一人と一匹だけど、ぼくは三四郎を犬だと思ってない)寂しくないのである。
昼食後は一緒に昼寝をして、昼寝が終わったら、ボール投げをして汗をかき、楽しい時間を過ごした。

滞仏日記「ぼくは三四郎を海に連れて行った。興奮する三四郎に感動した!」



ぼくはきっと子育てとか動物とかの世話をするのが好きなのであろう。
人間のぼくと犬の三四郎とのあいだには、いったい何があるのだろう、と思う毎日である。
でも、一人だとつまらないのに、三四郎が一緒だと楽しいし寂しくない。
三四郎を抱えて歩いていると犬好きな人が次々に声をかけてくるので、また、新しい世界が広がった、という感じ。
こんなに世界には犬好きがいるんだ、と気づかされる。
漁港を歩いていた時、街のちょい悪連中とすれ違ったのだけど、ギャングっぽい連中(ほんとうはいい人たちなのだろうね)が、全員、笑顔になって、やべ~、トロミニヨ~ン(超かわいい)と呟きながら通過していったのである。
子犬は世界を救うな、と思った父ちゃんなのであった。

滞仏日記「ぼくは三四郎を海に連れて行った。興奮する三四郎に感動した!」



夕方、今度は三四郎に夕陽を見せてやりたくなって、海側ではなく山側へとのぼってみた。
高台から見下ろす世界はまた別世界の美しさであった。
「三四郎、見ておけ、これが夕陽だ。あれが太陽なんだ。海にも負けない偉大なものだ」
三四郎はぼくの腕の中でぼんやりと夕陽を眺めていた。
三四郎なりに夕陽を受け入れようとしているのである。
明日はもう一度、海に連れて行ってやろう、と思った父ちゃんであった。

つづく。

さて、父ちゃんからのお知らせが二つあります。

まずは、NHK・BSのドキュメンタリー、
『ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん』の放送日が迫っています。
【BSP】2月23日(水・祝)21時51分~22時50分

オンデマンドが何かいまだにぼくにはわかりませんが、
【オンデマンド】
2月24日(木)18時〜3月12日(土)23時59分(NODの“まるごと見放題パック”に加入されている利用者の方)
2月24日(木)18時〜3月9日(水)23時59分(加入されていない方)
だそうです。BSが自宅でご覧いただけない皆さんは、単品利用の場合:1本220円で視聴可能だと制作会社のLさんが言うております。
https://www.nhk-ondemand.jp/#/0/

そして、『ボンジュール!辻仁成の秋のパリごはん』の再放送がそれより前に。
【BSP】2月19日(土)8時45分〜9時44分
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/schedule/

そして、もう一つ、父ちゃんのオンライン・文章教室、今年第二回目の「エッセイ編」講座が3月13日に開催されます。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックください!!!

地球カレッジ

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