JINSEI STORIES
退屈日記「なきやまない子犬。三四郎、田舎生活の苦難いきなり」 Posted on 2022/02/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、一つ、三四郎に成長があった。
それは車に乗ったら必ず吐いていたのだけど、今回、田舎までの4時間近い旅の最中、一度も吐かなかったのである。
獣医さんが「慣れるしかないわね」と言っていたので、気の長い道のりかな、と思っていたが、4時間も高速を走ったにもかかわらず、大丈夫だった。
助手席におしっこーシートを敷き詰め、げー袋も用意し、挑んだのだが、・・・。
よっしゃ、と到着時に思わずガッツポーズの父ちゃんであった♪
パリの家で買った柵がとってもよかったので、田舎のために同じものを購入し、運び込んだ。かなり重いので、荷物、柵、三四郎を抱えて、4階まで、ううう、試練の道。
田舎の家には階段があるし、区切る必要があった。
全部をいきなり開放してしまうと、新しい床がダメになるのも、いやで、外でポッポとピッピ(うんちとおしっこ)が出来るようになるまで、もうしばらく、柵で、仕切って、三四郎の居住空間と父ちゃんの場所を区分けしなければならなかった・・・。
ところが、その夜(昨夜)、大変なことが起きたのであーる。
※ おんなじ顔やん、髪型も。この黒い帽子は、高速のマクドナルドでもらった!!!
長旅だったし、この地方が大雨だったので、夜の散歩が出来なかったのだ。ありゃ。
それと、毎度のことだが、海の嵐(タンペット)が酷く、ごおー--、ごおー--、と一晩中うるさかった。
食事の回数を減らしなさい、とドクターに言われたので、普段よりちょっと多めの夜ごはんを与えたら、不意に満腹になったこともあり、すぐに寝てしまい、案の定、夜中に目覚めやがった。
ぼくは三田文学さんに原稿を送ってから寝たので、三四郎とちょうど入れ替わりだったのだ。これは、皆さんの想像通り、最悪のタイミングであーる。
寝室とお風呂場は三四郎の敷地内にある。だから、ドアを閉めて寝たのだけど、夜中に目覚めた三四郎、知らない家だし、嵐で窓がガタガタ、風がごおー--、ごおー--怪獣だし、寂しいのは当たり前で、寝室のドアの前で、くーん、くーん、と鳴きだした。
起きて、寝かせつけようと寄り添ったのだけど、父ちゃんも眠い。それで、ほったらかすことにしたら、今度は、わんわん、吠えだした。
「な、なんでだよー、パパしゃー-ん、こんな怖い家やだよー、寂しいよー、遊んでよー」
けれども、ここでしつけないと毎晩、夜に吠える癖がついてしまう。
ぼくは悩んだ。
夜中の3時だったが、ぼくは灯りを消して(三四郎の部屋は半分だけ灯している)寝た。
幸いなことに、田舎の建物には人がいない。
一番近い隣の建物まで100メートルくらい離れている。
うちは最上階なので、いくら鳴いても大丈夫。
10分も吠えたら、鳴きやむだろうと思ったのだけど、1時間以上、吠え続けやがったぁ・・・・・・・。
これはさすがにいけない。
でも、ここでノコノコ出て行けば、「この人、吠えれば来てくれる」と思うだろう。
猛烈に悩んで、鳴き声に心を痛めた父ちゃんであった。
ネットみたり、ツイートしたりしながら気分を変え続けたけど、朝5時を過ぎたので、さすがに、ここで決着をつけることにして、前回、一度やって、効力のあった「フライパン大作戦」をやることにした。
一度、顔を出し「吠えちゃダメ」と叱り、キッチンのフライパンとオタマをもって、何食わぬ顔で寝室に戻る父ちゃん。
ピッピはシートの上でちゃんと出来ていた。ポッポはしていない。
当然、しばらくすると、わんわん、がはじまったので、5分ほど待ってから、ドアをあけて、出た~。
「うわっはっはっは、辻鬼大魔神じゃあああああ」
と心の中でいきおいをつけてみた。
それから、フライパンを三四郎の方にむけ、中腰になると、オタマで
カンカンカンカンカン、
とフライパンを叩いてやったら、三四郎、目を丸くして、自分のベッドに逃げ帰り、そこから大魔神を見あげたのだ。
大魔神は仁王立ちになり、フライパンとオタマを天高くかざし、数秒動かず、三四郎を睨んでやった。
それから、何事もなかったのような後ずさりで、寝室に戻り、ドアを閉めたら、しー---ん。効いた。
朝の9時まで、二人は静かに眠れたのであった、あはは。
今朝、お腹いっぱいご飯を食べた、三四郎。
いよいよ、これから海まで散歩に行くのである。
2人は仲良しだ。もう、寂しくない。
いってきまーす。
わん♪
つづく。