JINSEI STORIES
滞仏日記「受験生の息子も、三四郎に癒され、マッタリ。父ちゃん、ニンマリ」 Posted on 2022/02/11 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、三四郎の学習能力はかなり高いし、悪戯度も半端ない。
ぼくが忙しくて遊んでやることが出来ないと、いつもはちゃんとシートの上にポッポ(カカ改め、赤ちゃん用語でうんちのこと)が出来るくせに、柵の出口の下に、どかっとやりやがって、何食わぬ顔してる~。
ドアをあけて、びっくりした。
危なく、踏んづけそうだった。踏む手前で、ぐわ~っと踏ん張ったから、腰を痛めたじゃないか~。
「こらー、三四郎!」
と怒るのだけど、しらんぷり。
ピッピ(おしっこ)もいつもシートで出来ているくせに、遠くの息子のドアの前でしゃー、とやらかしておーる。
な、ぬあに~。
おしっこシートからかなり離れたところで、これは明らかに、彼の意志に根付いた行為、つまりやるぞと決意した悪戯なのであーる。
く、く、小生意気な・・・。
しかし、相手は赤ちゃん犬なのだ。むしろ、こういう悪さが出来るその賢さには、ちょっと感心してしまう、父ちゃんであった。←親ばか?
三四郎の「二ヒヒ」が今日も聞こえてきそうだ。あんにゃろめ、ぐやじ~。
受験が迫る息子君は、眼鏡をかけて、髪ぼさぼさで(一時期はBTSっぽくてカッコよかったが、今はまじめな受験生)、珍しく、というか、もう後がないので、切羽詰まって勉強をやりはじめたようで、疲れ切っているのか、三四郎の相手もできない余裕のなさ・・・。
朝は早くから、学校に出かけ、夕食間際に戻ってくる。
ぼくらは夕飯時に、テーブルを挟んで向かい合う。
三四郎はドアの向こうで、入れて貰えず、くーん、くーん、と唸っている。それでも、最近は吠えなくなってきた。
諦めが早いというか、自分を納得させることを学んでいるようだ。
しかしであーる。
静かな時は、気を付けないといけない。何かやらかしている可能性がある・・・。
こっそりと様子を見に行く。
「おや」
珍しい。三四郎は自分のベッドの中で眠っているじゃないか。
こりゃあ、吠えてもしょうがない、と悟ったのかもしれない。
日々、成長しているなぁ。かわいいなぁ。
食事が終わると、
「サンシー、お待たせ。ご飯にしようか」
不貞腐れた三四郎、ご飯作戦にも反応なし。
仕方ないので、ドッグフードにちょっと水を加えて食べやすくした三四郎定食を、彼の鼻先へ近づけてやるのだ。くんくん。
むくっと起き上がり、食べる気をやっと示した三四郎。
そのまま、ハウスの中へとおびき寄せた。
「お手」
サンシーの左手がぼくの掌に載る。
「待て」
待っている。目が合う。
「よし!」
三四郎が食事をはじめた。優しいまなざしで見守る父ちゃんであった。
食べ終わると、三四郎は父ちゃんを目指して飛んでくる。ロッキングチェアで寛いでいた父ちゃんの股の間が彼の定位置だ。
やっと遊んでもらえる。嬉しいのかな、おおお、尻尾を振っている。
「よしよし」
頭を撫でてやる。癒される。
ぼくが仕事場で文章教室の準備をしていると、
「パパ、ゴミ箱ないの?」
と息子が言った。
「え? ない? あ、臭いから玄関の外に出してるけど、どうした?」
「おしっこしてる」
覗きに行くと、息子君、三四郎のおしっこシートを持って佇んでいる。
「玄関の外にビニール袋あるから、そこに入れといて」
ぼくは仕事に戻った。
30分ほどして、三四郎の部屋に顔を出すと、ロッキングチェアに座った息子。その膝の上でベターっと寝そべっている三四郎。(この子はどこからやってきたの?)
あはは・・・。和む。
息子も受験の現実からちょっと逃避出来るのであろう。
三四郎、大活躍だな。
小学生だった息子と2人で暮らしはじめた頃の写真がたまたま今日、古いパソコンから出てきたのだ。
当時の息子君、ころころ太っていたけど、今は、がっちりとした青年に成長している。
その膝の上で寝そべる三四郎・・・。
いやぁ、実に、不思議な光景であーる。
2人をそっとしておきたいので、ぼくは机に戻って、文章教室の準備の続きに戻った。
今週はやらなければならない仕事が山盛りである。
三田文学で始まる新連載小説の推敲、dancyuのエッセイ、ディープフォレストとコラボした「荒城の月」のメイキングビデオの編集、13日のオンライン文章教室の準備、etc・・・
息子がちょっとでも三四郎の相手をしてくれると、こちらも助かる・・・。
そういえばweb・dancyuでやってるサラダレシピ連載の締め切りも過ぎている。明日にはやらないと植野編集長に叱られる。
(なんでも、前回のハリネズミ・サラダはPVがずっと一位なんだとか、・・・嬉しいねぇ。皆さん、ダンチュー・サンキュー・サンシー)
※ 友人のブリュノーに抱っこされた三四郎だぁ!!!
ところで、夜の散歩の後、三四郎はぐっすりと眠ってくれるようになった。
でも、深夜3時に一度、起こされる。ドアの近くで、くんくん、鳴くのだ。
これはピッピをした合図、・・・片付けて、よしよししてあげると再び寝てくれる。
そして、朝の7時半くらいに、再び、くんくん、と鳴きはじめる。こちらはポッポ。笑。
明日は、獣医さんのところに行き、初検診を行う。
父ちゃんの仏語は通じるのか!!!
つづく。
※ 朝、三四郎に起こされ、寝起きの自撮り。ああ、いい歳こいて、・・・こんな寝ぐせの写真、出すなって? ですよね。
オンライン・文章教室で会いましょう!