JINSEI STORIES

リサイクル食日記「界隈一美味しいコロッケを作ってみたい皆さん、朗報です!!!」 Posted on 2022/07/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、あまり若い人に嫌われたくないから、小言は言わないようにしているけど、つい、出てしまうのは、間違いなく年のせい・・・。
息子よ、すまん・・・、あはは。
で、今日は余計な迷いを排除したシンプルで世界一美味しいコロッケを大量に作ることになった。
なんで大量かというと、数日前に、近所のスーパーで3キロものポテトの大袋が、6ユーロくらいで売っていて、状態もよかったので、思わず買ったのはいいけど、息子と二人で3キロのポテトは大量過ぎて、食べきれない。

リサイクル食日記「界隈一美味しいコロッケを作ってみたい皆さん、朗報です!!!」



そこで、明日の昼もコロッケにして、揚げたものを二コラ君の家に届けることにしたのだ。彼らは日本好きだから、きっと大喜びすることは間違いないので、「明日の昼に揚げたて日本のコロッケを届けます」と二コラのお母さんに、SMSを送っておいた。
ちなみに、フランスにはいわゆる日本のコロッケのようなものはなくて、似たようなもの(croquette)があるけれど、どちらかといえば付け合わせのような扱いで、ぜんぜん、メイン料理ではない。
「コロッケがメイン?」
とよくフランス人に笑われたものだけど、漫画の普及のおかげか、日本のコロッケは最近、一部の日本ファンの中で認知されつつある・・・。
オペラにあるパン屋にはコロッケパンも登場し、若者に大人気だ。
柔らかいパンズに挟まれたコロッケにトンカツソースとちょこっとキャベツの千切り、これは美味い。受けないわけがない!!! 

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うちの息子も日本コロッケの大ファンで、なんで、フランスには、コロッケがないんだろう、と昔は不思議がっていた。
そもそも、フランス人は日本人がコロッケを白ご飯とあわせて食べることにもかなり驚く・・・。
最近は、日本風のカツカレーが大人気になってきたので、そろそろ、次はコロッケが大ヒットしてもおかしくない、と父ちゃんは目論んでいる。ふふふ。
ということで、今日、ぼくはわざわざ、オペラの食材店に日本製のパン粉ととんかうソースを買いに行ったのだ。本格的なポテコロを作るために、であーる。
父ちゃんのコロッケはフランス一美味しいのだけど、その美味しいコロッケにたどり着くまでには、実に、長い長い人生のストーリーがあった。涙。

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ぼくがコロッケという食べ物に感動をしたのは、忘れもしない、高校生の頃のことで、一家は、函館の宝来町、函館山のふもと、旧市街西部地区に暮らしていたのである。
その宝来町の電停の前に、(今もある)、「阿さ利本店」というすき焼き屋さんがある。
もともと、角が肉屋さんで、その横で高級すき焼き店をやられていた。
そこの肉屋のコロッケが死ぬほど美味いのである。
グーグルマップで調べたら、「一階で売ってるコロッケも美味いですよー」というコメントがあった。
当時(45年くらい前)から、昼前には売り切れる函館の名物で、これをわざわざ食べるために東京からくる人がいる、という噂もあった。
その頃から、一つの疑問に気付くことになる。
なぜ、コロッケは肉屋で売っているのか、という大問題だ。
これを真剣に考えると、世界一美味しいコロッケを作る秘訣にたどり着くことが出来る。

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東京に上京した後も、ぼくはポテコロは肉屋でしか買わなかった。
圧倒的に、肉屋のコロッケがうまいからである。
なんでか、わからないけど、デパ地下のお惣菜コーナーで買う高級コロッケもおいしいけど、話題の肉屋で出てくる揚げたてコロッケは圧倒的にうまいのだった。
ちなみに、阿さ利本店のコロッケはやはりジャガイモが北海道産だから美味いというのは一理あるかもしれない。
ジャガイモが美味しいのは大きなポイントだが、研究の結果、そこじゃなかった。
ぼくは30年ほど前、東京の肉屋の大将に、思い切って、質問をぶつけたことがあった。なんでこんなに肉屋さんのコロッケはうまいんですかね?
これは、実に、革命的な質問で、なぜ、みんな肉屋のコロッケがこんなにうまいことをそのまま放置して生きているのだろうとは、思いませんか? 
思わないですか? 
肉屋だから、美味い、というのはおかしいと思ったことはないでしょうか? 
ぼくは15歳の時から、この謎に迫って生きてきたのであーる。
『辻さーーーん、早く、結論言えよ!!!』
はい、お待たせしました。



肉屋の大将は笑いながら、こう言ったのである。
「お客さん、凄くいい質問ですね。そのことを質問されたことは今までありませんでした」
前置きが長い。これはつまり、衝撃的な結論が隠されている証拠でもある。
「大将、それはなんですか?」
「ふふふ」
大将はもったいぶった。はよ、言え!!!
肉屋の大将は小太りで、頬が真っ赤だった。薄茶色のエプロンをしていて、お腹もぽっこりだった。大きな包丁をぼくにかざして、
「あのね、お肉とジャガイモを半々にするんですよ。それだけです」
と言ったのであーる。
「えええええ???」
衝撃的だった。

リサイクル食日記「界隈一美味しいコロッケを作ってみたい皆さん、朗報です!!!」



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なるほど、肉はケチっちゃいけないんだ。
だから肉屋のコロッケは美味しいのか、と45歳くらいのぼくは卒倒しそうになったものである。
そこで、ぼくは牛ひき肉を多めに買って帰り、ジャガイモと肉の比率を半々にして、作ってみた。半々だと結構お金がかかるので、ひき肉多めで・・・。
「美味い!!!! おお、これは確かに美味い!!!!」
それだけかい、とか言わないで。
ここにたどり着くまでに30年ほどの歳月を要した、作家、辻仁成の執念を買って頂きたいものである。
そして、今夜、作った伝家の宝刀がこちら、辻家の涙のパリ・コロッケだ。じゃじゃじゃじゃじゃーーーーん。
辻家のコロッケは、玉ねぎと肉を酒とみりんと醤油と砂糖で甘めのしっかりした味付けの肉じゃが風の具を作り、サッと高温で揚げて、サクっと頂く、えへへ・・・
どうでしょう? 美味そうでしょ? ぜひ、お試しあれ!

つづく。

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