JINSEI STORIES
滞仏日記「こらっ、三四郎!!!!!!!!!!!!!!!」 Posted on 2022/02/01 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、エリック・ムーケさんとのコラボはちょっと面白い展開になってきた。
MVもついに完成したし、この世界観をディープ・フォレストの音楽ファンがどう思ってくれるのか、それはちょっと分からないが、ぼくの音楽をずっと応援してくれた人には、きっと届くと思うな。楽しみでならない。
そして、なんと、名義は「ディープ・フォレスト&Hitonari TSUJI Jinsei」でやることになった。あはは、いいのかなぁ。
ところで、最近、「My Funny Valintine」を練習している。ジャズギターなのでちょっと歌いながらだと伴奏が難しいが、横で、三四郎が頭を傾げながら、聞いている。
垂れ下がってる長い耳がロン毛のミュージシャンみたいで、可愛い。似てるかも・・、昔のぼくに。
午前中、雨だったけど、午後晴れたので、窓辺で歌った。
力を抜いてささやくように歌う。
足元に三四郎、まったりとした時間が流れていく。
こういうのは映画のワンシーンみたいで、悪くない。
無心になってギターを弾いていたら、いつのまにか、三四郎が寝てしまった。
この子はこうやって、ずっとぼくの横にいるんだろうなぁ、と思った。
差し出した愛を疑うことなく受け止めているところがなんとも愛らしいじゃないか。
「まいふぁにーばれんたいーん、すいーとこみっく、ばれんたいーん ♪」
YouTubeで検索するならおススメはチェット・ベーカー版のMy Funny Valintineかな。ぼくね、こういう感じのおやじになりたいんだ。老けても絵になるクール・ロックな老境を目指して。えへへ。
息子が昼食後、部屋の模様替えをはじめた。
机の位置を動かし、音楽の環境と勉強する場所を分離させるような試み・・・。
で、息子が掃除機をかけだしたら、三四郎が反応をして、目を見開き、・・・掃除機がちょっと怖いみたい。
その模様を撮影したのが、こちら・・・。
「パパ、ちょっと見て」
息子に呼ばれて、模様替えが終わった息子の部屋を見に行ったら、本格的にリニューアルされていた。おお、かっけ~。
真ん中にユーチューバーが使うような椅子があって、前後にシンセとかレコーディング機器があり、その奥に勉強机が・・・。
って、今まではどこで勉強してたの?、と思った父ちゃん。笑。
そこはあまり追求しないでおこうか。
今時の子はYouTubeの動画観ながら、勉強するのが普通らしいので、へー、そうですか、と聞き流している。
もう、じたばたしても、大学受験は目の前に迫っているし、ぼくがここで騒いでどうなるものでもないからね。時の流れに身を任せ~~・・・
「いいね。なんか、パパの仕事場よりかっこいいじゃん」
「あはは」
「環境を整えることは物事を動かす時の基本だから、いいんじゃないかな」
息子は大変そうだけど、去年末の大喧嘩の修羅場は潜り抜けた気がする。
成人したことで、彼も大人になった気もする。多分、フランスだけに限らず、いろいろな国で仕事をしていくことになるのだろう・・・。
地球なんて狭いんだから、どんどん、出ていけばいいのだ。(必ず感染症は終わる)
その最初のプラットホームがここなのだろうな、と思った。
振り返ると、息子の部屋の入口に三四郎がいて、中を覗き込んでいた。
この子はずっとぼくの横にいればいいのだ、ずっと・・・。
歌い終わり、部屋の掃除から片付けとかしていると、どこまでも付いてくる三四郎。
今、この日記を書いているぼくの足の上がじわっと温かくなったので、パソコンをずらすと、ご覧頂きたい。今日の三四郎の寝方・・・。笑。
つまり、ぼくは育児をしながらこうやって日記を書いたり、動画の編集とかしているのだ。今は育児休暇中なのである。毎日、犬の話ばっかり、とフォロワーの皆さんも呆れているとは思うけれど、パリでコロナ禍で育児休暇中なのだから仕方がない。
ところで、三四郎も辻家の環境にすっかり慣れたからか、悪戯がとてつもなく進化している。
いろいろなものを食いちぎるし、引っ張りだすし、思いつく限りの悪さ(本人は悪意はない)をやらかし、「こらっ、三四郎!」とパパさんに叱られている。
それでも、散歩に出ると怖がっていた車やオートバイや自転車にもだんだん慣れてきて、普通に歩いたり、走ったりするようになった。(まだ外でうんちとおしっこは出来ない)
一つ、憶測だけど、分かったことがある。
この子は小さいのに、近づいてきた犬たちに牙をむく。
家ではとっても大人しいのに、大きな犬に噛みつこうとする。(吠えずにいきなり噛もうとするので、慌ててリードを引っ張っている)
でも、自分と同族のダックスフンドには噛みつこうとしない。彼の鼻には噛まれた牙の痕が二つある。
ブリーダーのシルヴァンに今度確認してみようと思うのだけど、やられて大怪我をしたことがあるのじゃないか。
それがトラウマみたいになっているのかな、と思った。
ブルドックやラブラドールに噛みつきに行く、三四郎、・・・サムライ過ぎるやろ・・・。
わずか4か月しか生きていない三四郎の犬生にも、いろいろとあるのだ。
ぼくのように長く生きている人間にもいろいろとあって当然であろう。
18歳になった息子にも、ある時期、いろいろとあった。
ぼくは、みんなが、草むらで倒れないように、少し離れた場所から、門番のように、ギターをつまびきながら、見守っていてあげられる存在でありたい・・・。
つづく。