JINSEI STORIES

滞仏日記「2021年から2022年へ、そして、いきなり息子が消えた」 Posted on 2022/01/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は恒例のおせちづくりに精を出した一日なのであったー。
元旦と2日はフランスも休みなので、(3日から通常営業に)、その2日間のんびりと過ごすために、日本のしきたり通り、おせちづくりに奮闘した、父ちゃんであった。
とくにシングルファザーになってから、当時、小学生だった息子に、知らない祖国の味、(博多のお雑煮など)を毎年食べて知ってもらいたくて、親戚や知人や友人らの力も借り、昆布とかわかめとか鰹節とか数の子などなど、おせちに欠かせない長寿健康を祈願する食材を日本からわざわざ取り寄せ、しかも、ないものはフランスの食材を工夫しておせちづくりに精を出してきたのであった。
今年は、とくに、息子にとって未成年最後の正月でもあり、受験後地方の大学に行くことになれば父ちゃんと二人きりの最後の正月になるかもしれず、そりゃあ、おせちにかける意気込みが例年とは違っている。
今年は、新鮮ないくらも手に入り、数の子はもちろん、昆布巻き、餅、明太子など、何処からやってきたのかわからないほど、日本の知人らからコロナ禍の中、航空便などで届けられ、今までにない最高のおせちづくりの環境が整っていたものだから、張り切らないわけがない。
単に、サンガニチ、楽するためのおせちではなく、日本の素晴らしい風習を息子に教えて、もっと日本を好きになってもらいたいから、頑張った父ちゃんなのであった。

滞仏日記「2021年から2022年へ、そして、いきなり息子が消えた」



今日も朝から、ローストビーフを仕込み、息子の好きなから揚げも拵え、毎年恒例の伊達巻だって、今年は最高級のはんぺんをちゃんと入手済みで、上手に巻き巻きも出来、数の子の塩抜きだって完璧にやり遂げ、それもこれも、いろいろと息子を喜ばせたいので、和洋折衷の辻家のおせちづくりに奮闘していたら、午後、息子がやってきて、
「でかけてくるね」
と言った。
「いってらっしゃい」
「あ、パパ、竹で出来た、ほら、お寿司とか巻くやつある?」
「あるよ。巻すね、どうするの?」
「ウイリアムがね、寿司を握るって、今日は張り切ってる。トマもなんか日本の料理を作るらしいから、手作りのお寿司を食べながら、カウンタダウンやるんだ」
「へー。いいね」
巻すか、ちょっと待ってね。と、探して、手渡した父ちゃん・・・。
「じゃあ、今日は遅くなるんだね? 夕ご飯は、チーズフォンデュにしようかなと思って用意してるんだけど、いい?」
「あ、前に言ったと思うけど、今日は帰らないよ。お泊り。毎年、31日はカウンタダウンでしょ? それが若者の楽しみだから、行ってきます」
な、な、な、・・・・ななななななななな、なぬァに~~~。
「巻す」をつかみ取ると、出ていった息子くん。
ぽつんとキッチンに取り残された哀れな父ちゃん・・・。
ということで、皆さん、正月早々、こういういつも通りの展開で、にやにやしていませんか? 笑ってるあなたが見えますよ。
人の不幸は密の味と申します・・・ってか、大量に作ったおせち、どうせいっちゅんじゃ~。ゴーレンジャー・・・。

滞仏日記「2021年から2022年へ、そして、いきなり息子が消えた」



実は、どうして例年よりも力を入れておせちづくりをしていたか、と申しますと、皆さん、すでにお気づきの通り、NHK・BSの「ボンジュール、パリの冬ごはん」の目玉カットとして、ぼくとLさん(制作会社社長)のイメージだと、いろいろとあった2021年だったが、辻家は正月早々、仲睦まじく、おせちを囲んで、(息子の映像はとらないまでも、声だけでも出演願い)、コロナ禍なのに、頑張って元気に前向きに生きるぞ的な姿を、そして、辻父ちゃんの姿を撮ろうと目論んでいたわけで・・・、( ノД`)シクシク…
2022年は新年早々にこのスタート、ぼくは大量に作った、近年では最高傑作のおせち、(イセエビとかカニまで買ってだな、準備してきたのに)、それが全部、水の泡とは言わないまでも、その行き場に困る・・・。
あやつが戻ってくるのは、元旦の夜に決まっており、たぶん、仲間たちと夕飯は食べてくる。そうなると、せっかく作った料理も中一日が過ぎ、から揚げとかローストビーフはもう、厳しい、ちょっとがっかりな味になってしまう。
2日の朝まで、重箱にいれたまま、キッチンに置いておくわけにもいかない。
カメラを二台も並べて、がんばって撮影をした、ローストビーフ。
・・・・ど、どうせいっちゅうねん。
っていうか、このコロナ禍の寂しい時期に、父ちゃん、一人で、2022年の元旦を過ごせっちゅうのか・・・。
読者の皆さんが、想定内だな、と思ってるその微笑みがイメージ出来てしまうのも、辛い。こういうこともあり得ることを想像できなかった、ぼくのミスである。
とはいえ、NHK的にはおせちの撮影だけはしてほしいだろうし、ぼくも完成している料理を、箱に詰めないで放置することもできない。
ニコラ君とか、上の姉妹さんのところとか、ピエールのところに差し入れに行ってもいいけど、正月早々、コロナ感染拡大中のパリで、おすそ分けとか、・・・さすがに、誰が喜ぶだろう。
あはは。どうしよう・・・。

滞仏日記「2021年から2022年へ、そして、いきなり息子が消えた」



ということで、おせちは中断し、ぼくは気分転換のために外の空気にあたるために出かけることにした。
30日の午前中に買い物に行き、そこから仕込みをはじめて、その模様をずっと撮影していたので、くたくたなのである。
ボンジュールのスタッフの皆さんは、タイタンの方々も、ご家族とさぞかし、楽しい夜を過ごされたことでしょうね? Lさん、お酒は美味しかったですかァ?
しかし、一日の感染者が20万人を超えるパリで、誰かと会って飲むとかできないし、実は、ママ友のジョゼフィーヌたちにパーティに誘われていたのだけど、別のママ友から入ってきた情報によると、ジョゼフィーヌが陽性になり、パーティは中止・・・、もちろん、行く予定などなかったけれど、オミクロンの感染力は、デルタどころではない。
おとなしく、おせちをつまみながら、日本から届いた日本酒で、酔って寝てしまおうと思っている父ちゃんであった。
大晦日からの、寝正月、滞仏日記らしい、スタートで始めることが出来て、個人的にはほくそ笑んでいる、そんな新年の始まりなのであーる。

喪中なので、読者の皆様には新年のご挨拶は控えさせていただきますが、幸せなお正月をぼくの分まで楽しんでくださいね。小生の一人ぼっちの正月について、明日、改めてレポートさせて、いただきまーす。えへへ・・・
2022年は、それなりの幸せをつかんでみたい、父ちゃんでした。

つづく。

滞仏日記「2021年から2022年へ、そして、いきなり息子が消えた」

新年早々のお知らせ。

来たる2022年1月16日、トリュフ産地の一つ、ドルドーニュ県まで父ちゃん一行は出向き、(パリから電車で6時間半・・・)地元のトリュフ栽培士さん、トリュフ犬とともに、黒トリュフを探す旅を行います。ご興味のある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。

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