JINSEI STORIES
退屈日記「なんと、行きつけの八百屋のマーシャルの店員さんらがコロナで全滅に」 Posted on 2021/12/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、夜の高速道路って寂しかった。途中の休憩所、コーヒーを飲みながら、美しい月を見上げ、早く月に帰還したいと、呟く父ちゃん、であった。
パリに入り、まだご飯食べてないという息子に、田舎に置き忘れていたグーラッシュをキッチンで温め直してやった。
そこにに息子がやってきて、何か言いたい感じだから、なに、と訊いた。
「まだ、食べてなかったの? 22時じゃん」
「スパイーダーマン、観てきたんだ。すごく感動した」
「スパイダーマン?」
「それがね、今度、ソニーが作ったんだけど、二本目のスパイダーマンもソニーだったのか、その時のスパイダーマンが登場したんだよ」
「へー」
「で、ぼく、小さかった頃に、それを映画館で観たのを覚えている」
「なるほど」
「だから、昔の友達に会ったみたいで、懐かしくて、感動しちゃったんだ」
彼は、スパイダーマンを通して、昔を思い出している。
たしかに、彼の部屋にはたくさんのスパイダーマンのおもちゃがあった。
大人になっても、幼い頃の記憶というのは大切に保管されているということなのだ。
よかったね、とぼくは告げ、温まったグーラッシュ(牛頬肉のパプリカ煮込み)を皿に盛り、手渡した。
「大学は?」
昨日、急に田舎に帰らないとならなくなったので、途中で話が中断したままであった。
なんとなく、今日は機嫌がいい・・・。
「うん、一応、全部で20の大学に申し込みをするから」
「20も?」
「みんな、そうだよ。その中で成績とか、試験とかで選ばれる」
「そうなんだ。どこかには入れそうだね」
「いろいろと考えていることがあるから、また、決まったら相談をする」
「本当にパパは何もやらないでいいんだね?」
「大丈夫」
息子がいなくなったので、八百屋のマーシャルにSMSのメッセージを送った。
ニースで食べた冬野菜のニース風スープをNHKの番組用に撮影しないとならないので、近々、うかがいたい、と伝えたら、すごいメッセージが戻ってきた。
「それが、今、ぼく以外全員がコロナに罹って、店が機能できてないんだ」
「えええ? マジか? 大丈夫?」
「大変だよ。たとえば、年末とかでもいいかな? コロナが治ったら、すぐ再開するからさ」
「いいよ」
なんか、2020年の頃の深刻度がない。コロナが治ったら、再開って・・・。
そこに、アドリアンの奥さん、カリンヌからメッセージが入った。
「友達の皆さんへ。
土曜日の夜の忘年会なんだけど、全員、PCR検査をして、その証明書を持って集まることになりました。薬局か、正規の場所で検査をしてお越しください。皆さんと和気あいあい、ごはんを食べられること楽しみにしています。カリンヌ」
おっと、忘れていた。忘年会に誘われていたのだ。
でも、どうしよう。ぼくは明日(つまり、今日、これから)、三回目のワクチンの接種に行くのだけど、今回のオミクロンはまだよくわかってないし、・・・。
コロナに罹る気はしないけど、何が起こるかわからないし、でも、前に立ち話で「行く」と約束したし、どうしよう・・・。
とりあえず、ワクチンを打ってから、その時の体調次第にしようかな、・・・。
それにしても、日本でも、世界各国でも、どんどんオミクロン株が見つかっているし、ついにフランスはオミクロン感染爆発をしている英国からの入国に強い規制をかけてしまった。
フランスだって、相当すでにいるはずだし、この冬の間はまた、新たな波がこの世界を覆うことになるだろう。
一方で、人々がコロナのことを風邪と同じように扱いだしているのも事実で、それが本当にコロナの収束へとつながっていくのか、クリスマス頃には出るだろう、専門家の調査結果と発表を待つしかない・・・
息子は学校を通して、感染力の強いオミクロンを持ってくる可能性があり、しかも、無症状ということも十分ありうるので、若くない父ちゃんは、田舎に避難をしたり、接触を制限したりしながら、自分を管理するしかないな、と今のところ、思っている。
とりあえず、三回目のワクチン接種へと向かいます。
(`・ω・´)ゞ
つづく。