JINSEI STORIES
滞仏想い出日記「ニコラ君と作った、辻式幸せを運ぶピザ」 Posted on 2021/12/25 辻 仁成 作家 パリ
ニコラとマノンも、うちの息子が大きくなったように、彼らも成長し、もうマノンちゃんからは連絡も来なくなった。
幼かったニコラ君に何度も作ってあげたピザ。
古い日記を引っ張り出し、読んだら、じーんときた。←あいかわらず泣き上戸な父ちゃんなのであーる。
近所のお子さんたちに大好評で、上の娘さんらにあげたこともあるし、うちの息子もそのへなちょこピザで育ったのだ。
見栄えは超悪だけど、でもね、愛情たっぷりなのだ。
カップルさんは二人で作ってみたらいいし、ご年配のリタイア組のご夫婦もやってみて。
ぼくは一人ランチの時に自分のためにちゃちゃっと作ったりもする。一人でも楽しいよ。
辻家では「へなちょこピザ」と呼んでいる。
今日はそのレシピを含め、ちょっと古い日記(2020年1月の日記)だけど、今までのピザ日記を一つにまとめてわかりやすくしたので、もう一度読んでみてもらいたい。
レシピもわかりやすく、加えておきます!!!
某月某日、お馴染みのニコラ君はストの影響で学校はお休み。マノンちゃんは中学生なので学校に。ご両親は共働きなので、「ムッシュ、お願い。木曜の夜から金曜日の夕方まで預かってください」と、どうでもいいけどまたもやSOSが舞い込んだ。(この頃はまだ離婚されてなかったんだね・・・。ニコラ君家族をぼくに紹介してくれたのはお隣のジョッフルご夫妻だった。コロナ禍で田舎に引っ越された。かなり高齢だったから、どうしているのかなァ・・・)
ともかく、ぼくはすっかりシッターさんであった。
でも、ニコラ(当時)はフランスの法律上、一人ぼっちで家でお留守番が出来ない年齢なのだ。
その環境、シングルをやってきたぼくには痛いほどよくわかる。仕方ない。その上、ニコラのご両親の関係は相変わらず冷え込んでいる。ニコラも家にいたくない。いいよいいよ、おいで。三人で、ピザでも作ろうね。
ということで、子供と遊びながら一緒に作れるピザをご紹介したい。
これは自宅で、美味しい(しかし、かなり不細工な)イタリアピザを作る方法であり、子供との絆を深めるためのピザであり、何より世界一美味しいピザ(作ったという満足感において)なので、ぜひ、独身の人も、若者たちも、もう孫がいるご年配の皆さんにも試してもらいたい。
ただし、見た目はめっちゃかっこ悪い。
実はピザという食べ物は自分たちで作ってこそ、焼きたてこそ、そのおいしさが実感できる最高に娯楽性の高い食べ物なのである。
イタリアのママの味だ!
マンマミーーーーーーーヤァ!
ピザは生地をこねるのが一番骨の折れる行程だが、実はこの生地をこねる行程こそ、子供が一番面白がる場面でもある。
交代しながら、こねる。
「ニコラ、頑張れ」と応援しながらこねさせる。
子供には笑みが浮かぶ。それだけじゃない。
次に子供が大喜びするのは生地がイースト菌によって倍くらいにググっと膨らむ時だ。
「わー、すごい。魔法みたいだ」と必ず大騒ぎになる。
おっきくなった我が息子はもう、やらない。あはは、可愛くないけど、それが成長するということでもある。
生地がぷくーっと膨らむ時、子供たちの想像力も膨らむ。
トマトを煮込んでソースも手作りだ。
このトマトをフォークで潰すのもニコラの仕事になる。
昔は、うちの息子の仕事だった。今や、ぼくにかわって息子がニコラを指導している。(偉くなったものだ)。
しかも、最も盛り上がるのは生地を伸ばしていわゆるピザ状態にする段階。難しくて、面白いのである。
ピザ職人は指の先でピザを皿回しみたいにやって薄く平たいピザ生地を作る。
子供たちはアレを真似したがる。
みんな指の先で、ぐるぐる。床に落っこちるピザもある。
でも、構うものか!
気が付くと、男が三人、キッチンでピザ作りで盛り上がっている。
この姿に心が和むのである。
ぼくは自分の人生がこういう場面を通過するとは想像したこともなかった。
何十冊も小説を書いてきたというのに、思えば自分の人生だけは描けなかった。でも、こういう幸福もある。
ニコラは血が繋がっていないけど、関係ない。ぼくは子供と犬猫が大好きなので、いや、子供と犬猫には愛されるから、世界中に嫌われてもぜんぜん気にならない。
丸まった生地を叩いて伸ばして、ソースを塗り、最後にオーブンにぶち込んだら、おしまいだ。
生ハムや手作りドライトマト(プティトマトを120度の温度で一時間くらいローストする)など好きなものをトッピングして召し上がれ。
笑いしかおこらない幸福な食卓になること請け合いである。
自宅ピザはお金もかからない上に(ベースは小麦粉と塩と水だけだ)、家族で作ることのできるアトラクションとしても最高な料理である。
焼きあがったら、みんなでピザに手を伸ばし、パクパクやるのだから、笑顔しか起こらない。世界と子供たちの平和を希望します。
さて、最後に付録として完全レシピを再掲載しておく。
<ピザ生地>
材料:強力粉500g、ドライイースト2g、塩15g、水300cc
強力粉にイーストを混ぜ、水に塩を溶かして食塩水を作り、そこに半分の強力粉(イーストのまざった)を入れ、てんぷらの衣のようなものを作る。ダマにならないよう、指でよくかき混ぜる。そこに、残りの強力粉を入れ、こねていく。
よーくよーくこねることが大切。表面がなめらかになってきたら生地を6つに分け、大きめのタッパーに間隔をあけてならべ、蓋をして、暖かい場所で発酵させる。
生地が膨らんで2倍くらいになったら、一つずつ生地を丸め直し、伸ばしていく。
<ドライトマト>
材料:プチトマト1パック、オリーブオイル適宜
プチトマトを洗ってよく水気をとり、半分に切って切り口の水分もクッキングペーパーなどで拭いておく。オーブン板に、切り口を上にして並べ、120度に熱したオーブンで1時間くらい乾燥させる。オーブンから出したら器に移し、上から少しオリーブオイルをかけておく。
<トマトソース>
材料:トマト4個、白ワイン大さじ1、塩、オリーブオイル大1
トマトは湯むきして、小さくカットする。鍋にオリーブオイル(分量外)を少し入れ、トマトと白ワインを加えて煮詰めていく。水分がなくなってくるまで煮詰めたら塩で味付けして、仕上げにオリーブオイル大さじ1を加え、混ぜておく。
今日はサラダチキンや長ネギをグリルしたものもバリエーションで準備したが、やはり人気は王道、トマト味のピザだった。
オーブン板にクッキングシートを敷き、生地をのせ、それぞれ好きな具をのせて、250度に温めた熱々のオーブン上段で5分くらい焼けば完成。生地を伸ばしたり、具をのせたり、自分だけのピザが出来上がる。さあ、笑顔でボナペティ!