JINSEI STORIES
滞仏日記「やっと会えたね。ニュースウオッチ9のキャスターだった有馬さん」 Posted on 2021/12/22 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は「ニュースウオッチ9」のキャスターをやっていた有馬嘉男さんご夫妻と三人でお食事をした。
ずいぶん前のことになるけれど、コロナが流行しはじめた直後、一度、ニュースウオッチ9に遠隔出演をしたことがあり、その時、なんか面白い人だな、と印象に残ったのである。
というのは、テレビの司会者の人って、毎日多くの人に会うし、仕事だから放映中は仕事モードなんだけど、終わったら、すっと真顔に戻って、すっといなくなる人が、当然なんだけど、多いのだ・・・。
なのに、有馬さんは、放送終了後も嬉しそうにいろいろとお話しをしてくださり、そのやりとりが、いわゆる儀礼的じゃなく、心のある感じだった。
で、半年ほど前、有馬さんはフランスに赴任された。
ぼくは「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」の制作をやっているLさん経由で、ぜひ、歓迎会をしたいので、つないでください、とお伝えしていたのだけど、ぜんぜん、連絡がなかったら、10日くらい前に、SMSに突如、「有馬でーす」と連絡が来たのだ。
「すいません。番号を間違えて、知らないところに何度もSMS送ってましたー」
ということであった。
やはり、独特なリズム感のある方だった。
「じゃあ、奥さまと三人でご飯食べましょう」
と戻したら、
「え? 独禁法違反です」
とわけのわからないジョークを飛ばされ、やや、父ちゃん的には速度が違うな、と思ったのだけど、あはは、でも、無事、このように、お会いすることが出来たのであーる。
もちろん、対面した時に出てきた言葉は、
「やっと会えたね」
であった。笑。
奥さんがあまりに素敵で頭の回転が速いのにびっくりしたのは、父ちゃんだけなのだろうか?
有馬さんの会話を遮って、質問が飛んでくる。
しかし、有馬さんも、それに負けないくらい質問をしてきた。
このご夫婦、何に飢えているのだろう?
ぼくにはわからないのだけど、好奇心旺盛なのであった。
有馬さんは、NHK欧州総局の副総局長らしいが、えらい人なんだろうな、と思うのだけど、その一方で、気取らないし、気さくだし、飾らない物腰の柔らかい人で、いやァ、実に面白かった。
奥様との質問の交互感も、まるで二人を相手に卓球をしているような物凄いレベルで、右からも、左からも、すごいサーブが飛んでくるのだ。しかも、カーブサーブだったり、ミラクルサーブだったり、( ^ω^)・・・
話しは、フランスや欧州の政治事情みたいな硬いテーマが中心ではあったけど、父ちゃんは実は、そういう話しが大好きなので、持論をえんえんと展開し続けた。
普段、話し相手がいない(言葉の通じない野本氏みたいな連中ばかりな)こともあり、いい発散が出来た。
しかも、日記に書けないようなことも、含め、全部吐き出すことが出来たのだった。
どんな話しだったのか、簡単に説明をすると、経済や政治や様々なことは一つが原因ではなく、それらが関連しあって、コロナ禍も含め、今日の欧州や世界を形成しているのだ、という話しだった、とぼくは理解している。
お二人がそこから何を感じられたのかは、わからないけれど・・・。
ぼくが力説する都度、二人が、いいリアクション(ラリーとかリレーとか)をしてくれるので、これ、カメラ回したら、面白かったのになァ、と思った。
奥さま、すでに、キャスターできるじゃん、レベルで、愉快痛快であった。
しかも、その奥さんをめっちゃ立てている有馬さん、いやァ、実に素晴らしい夫だった。
このバランス感、独り身の父ちゃんにはとっても羨ましかった。ぼくには完全に無いものがこの二人にはあって、ハア、ため息・・・。
ともかく、この二人の天然感と知性がユニークでもあった。
もともと、1998年にフランクフルトに駐在をしていたのだそうだ。
そこで彼らが出会った人々、見つめた世界は、今日のこの世界ともつながっているね、という話しに回帰していった。
つまり、3時間半、ぼくが話しをしたのは、この世界が、一つの決め事では作られておらず、数えきれない事象の複雑な結合で生み出された世界であり、今、人類がこの危機的な状況から、もし仮に脱することが出来るのであれば、必要なのは、78億人もの人類を捌ける政治なのだという結論であった。
「じゃあ、それはどうやったら、出来るのでしょう?」
こういうサーブが戻ってきたので、ぼくはぼくが思う政治について語ったのだけど、残念なことに、この紙面では語り切れないし、語ることは難しい。
それは機会があれば、いつか、カメラを回して忌憚なく・・・。ふふふ。
つづく。
※ 撮影、有馬さんの奥さま・・・。この心を許している感、いいでしょ?