JINSEI STORIES
退屈日記「いきなりプレゼント問題が進展。今年のプレゼントは父ちゃんのお古」 Posted on 2021/12/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子へのプレゼント問題は急転直下、解決をみた。
昨日、夕飯の後、
「やっぱり、カメラが欲しい」
と言い出した息子君。
「カメラ、高額だから、18歳の誕生日にいいのを買ってあげるよ」
と言った父ちゃん。
「いや、友達と二人で映像を作りたいんだ。クリスマスにもらえないかな・・・。そういう作品作りも大学入試の評価の材料になる場合がある」
今、そんなことやる時間あるのかよ、と思ったけど、仲間たちと飲み歩いてるわけじゃないし、息抜きも必要だろうから、煩いことは言わないことにした。
「でも、高いだろ?」
「いくらくらいならいいの? パパが考えている予算的には・・・」
お、直球・・・。ええと、ここで金額を言ってもなァ・・・。
「高いのも困るけど、ある程度高くないと何もできないよ」
すると息子からこういう提案があった。
「うん、ちょっと見つけたのがある」
そう言って、彼がぼくに提示したのはキャノンの新型小型のEOSで、800ユーロだった。
10万円を超えている。ゲッと思った父ちゃん。
それはちょっと高いんじゃないの???
でも、確かに、作品作りをするなら、最低、このくらいのものが必要になるか・・・
そこで腕組みをして考えた父ちゃん。
久しぶりの会話が、プレゼント問題というのも釈然としないけど、呑み代とかで出ていくわけじゃなく、彼の進学のためにもなるなら、人肌脱がないとならない。
そこで代案を思いついた。
「あのさ、パパが映画撮ったカメラがある。ほら、昔、ParisTokyoPaysageって映画撮ったじゃん。あの時のカメラだよ。同じキャノンだけど、50万円くらいするいいカメラだよ。キャノン、5Dっていうんだ。三脚も、照明も、レンズは100万円くらいするのが装備されているし、CFカードもある。充電器など一式、全部、揃ってる。それを永久貸ししようか」
「え?」
そこでぼくは、機材室からそれを持ちだし、息子の前に並べた。
「ええ? すごい。いいのこれ?」
「あげないけど、もう使わないと思うから、一生、貸してあげる。クリスマスは、何か別のものを探してみるよ。それでいいんじゃないの? 最高級の機材を友達と勉強して映画でもMVでも作ればいい。ただし、壊さないこと、盗まれないように管理をすること。できる?」
「あ、うん」
ちょっとおっかなびっくりの「うん」だったけど、嬉しいみたいだ。
「言っとくけど、そうとう使い方、難しいよ。YouTubeとかで使い方を学ぶところからやる必要があるけれど・・・」
「わかった。やってみる」
息子は、そう言い残すと、珍しく笑顔で、嬉しそうに、カメラを専用バッグにしまい、抱えるようにして部屋に消えていった。
急転直下の出来事だったけど、自分はもう、あのカメラで映画を撮ることはないだろう。それに、時代は移り変わっている。
でも、息子にとって、あの旧式だけど最高級カメラはいい勉強の道具になるはずだ。
将来、進学した先の大学でも役立つからもしれない。
自分が大事に使っていてものを、息子が大事に使う、これはいいことだ。
永久に貸す、というのは親子関係の上でもいいような気がした。
「パパ、これ、どうすればいいの? この印、どういういう意味?」
いつか、必ず、頼ってくるはずだから、関係もつながっていられることが出来る。カメラのおかげで・・・
ともかく、プレゼント問題、これにて一件落着!
それなりに、つづく。
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