JINSEI STORIES
リサイクル日記「八方美人は八方塞がり美人、ストレスフリーの生き方」 Posted on 2022/07/13 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、さまざまな病気を招く理由の一つにストレスがある。
ぼくらを苦しめるもののトップは間違いなく、このストレスであろう。
逆を言えば、ストレスがなくなれば人間は生きやすくなる。
ストレスの一番の原因は、周囲の人間とうまくいかないことから生まれる。
もう一つは世の中が自分の思い通りにならない場合に生じるのではないか・・・。
前者が他人で、後者が自分であろう。
他人とどう折り合うか、自分とどう折り合うかで、ストレスは消える。
まず、みんなに愛されようとするのを意識してやめてみる。
ぼくの知り合いに八方美人がいて、とにかくその人は表向き超優しい人間でいようとしているから、周囲の人すべてにいい顔をしている。
この人は敵を作りたくない人のようだが、見ていると、あらゆる人に情けをかけていて、みんなに好かれるようなことばかり言っている。
でも、結局、誰にも嫌われたくないから、敵を作りたくないから、その場その場で相手の理解者のふりをしているに過ぎない。
これじゃあ、ストレスになる。
ぼくの前で言うことと、ぼくが嫌いな人の前でいうことが正反対なのだから。
ある時、この人が破綻したことがあった。
突然、ぼくの前で人格が変わり、悪魔のような顔つきになって、ままならない他人に対して暴言を吐きだした。
我慢していた自分の気持ちが爆発してしまったのである。こういう人をぼくは八方塞がり美人と呼んでいる。
八方美人は本当の理解者を掴むことが出来ないし、自分がそもそもなくなってしまうので、大きなストレスを招く結果につながる。
第一、みんなに愛されることは無理なことだ。
この世界を眺めて見たらいい、21世紀にもなって、イデオロギーや信仰の違いから多くの人がいがみ合っている。
このいがみ合いはなくならないだろう。
人間である限り、人間の宿命なのである。
ものすごい人徳者でも偉大な聖職者でも犯罪をおかす。
自分を買いかぶり過ぎないことも大事だ。なので、嫌いな人、苦手な人はきちんと線引きをして、ぜったい無理して仲良くしない、と決めたらいい。
近づかない、と決めてしまうことは自分の意思を揺るがせない一番大事な方法だったりする。
自分はそんな立派な人間じゃない、静かに与えられた人生を全うしたいただ一人の人間に過ぎない、と思っておくのが大事である。
次に大事なことは、何度もここで書いてきたことだけれど、他人に期待しないという生き方である。
他人こそ、実は世界のことなので、とっても重要になる。
全く期待しないことは不可能だけれど、期待しても他人は他人なので期待が叶う可能性はあまりに低い、と強く自分に言い聞かせて挑むことが大事。
「じゃあ、それやっとくね」と人は軽々しく約束するのだけど、「それ」をちゃんとやってくれる人など滅多にいない。「やるっていったじゃん」とがっかりしてストレスが生まれる。
相手もやってないわけじゃないのだけど、約束通りに出来る人はほとんどいない。
逆に自分も「やっとくね」と言わないようにする。
「やってみるけど、期待しないで待ってて」と必ず付け足す。自分も楽になるし、相手に期待させないで済む。
ぼくはある時から全て自分でやるようになった。
他人に期待してストレスを抱えるくらいなら自分でやった方がましだからだ。
ここで大事なことは「自分」である。
世の中は思い通りにならない。
だから、自分でやれるだけのことはやろうと決めてしまうと、楽になる。
成功している人の多くは「人に任せる天才」だが、これはぼくのような小さな人間には不可能なこと。
だから最初から「人に任せない」と決めて自分でやればいい。大きな成功は得られないけれど、ストレスは確実に減る。
他人をあてにすると、それだけでストレスになる。
それは自分の考えが甘いからだ、とぼくはぼくに言い聞かせる。
実現できないものごとの多くは期待し過ぎた相手が、こちらが思ったことをできない時に生じる。
そもそも、他人を期待するから起きることで、その都度、その人の悪口を言っているちっぽけな自分に会いたくない。
我が道を行く、関わらない、自分で解決をする、でいいのだ。
結果、誰かから期待されたとしても、自分は自分の出来ることをやるだけだ、と言い返すことが出来る。
「頑張ります」と絶対に戻さない。「無理せずやれるだけのことを精一杯やらせてもらいます」でいい。
似ているようだけど、実はずいぶんと異なるのだ。
なんのために頑張るというのだ、と自分を嘲笑すればいい。
無理して頑張るからストレスになる。
他人と自分との間に、きちんと境界線を引くこと。
これがストレスをなくす最大の方法であり、他人ともめない防御策となる。