JINSEI STORIES
退屈日記「遺品を整理していたら、こんなものが出てきた」 Posted on 2021/12/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、弟の恒ちゃんが、東京の事務所から博多にもって帰ったものの中に、亡くなった秘書さん、菅間さんと一緒に作った絵本が入っていた。
これは、今から、1995年に、新書館という出版社からだしたもので、(もう絶版?)、たぶん、ぼくの最初の絵本ということになるのかもしれない。
実は秘書の菅間さんはもともと切り絵画家さんで、ぼくの叔父の童話作家、東君平さんのお仕事のお手伝いも最初はやっていたのだ。
小田急線なんかに貼られる広告なんかにも作品が使われていたのだけど、ぼくの会社のお手伝いをされたことで、切り絵の創作からは離れてしまった。
勿体ない、と思ったので、一冊一緒に作りませんか、とお話をして、絵本「ぼくいたくない」が生まれることになる。
ちょっとその絵本について話しをさせてもらいたい。
これは、子供への虐待ニュースが世の中で問題になっていた頃に、ぼくが思いついて書いた詩があり、それを絵本化したものなのである。
ぼく(殴られても)いたくない、という言葉と、ぼくは(この家には)いたくない、という二つの意味がかけられた内容だ。
暗い絵本なのだけど、発売したころ、教育関係者の方々が購入され、全国の保育士や先生方を前に、朗読会と勉強会をやらせていただいた。
小さなお子さんの教育現場に携わる方々の関心は高かったと思う。
菅間さんとの共著はこれ一冊しかないのだけど、逆を言えば、一冊あってよかったな、と思っている。
パリの自宅にはないので、郵送してもらうことにした。
お父さん、お母さんになぐられても「痛い」という感情を持たない子供たち、でも、この家には「いたくない」となんとなく思っている子供たち。
あれから、長い歳月が流れたのだけど、近年、ますます、子供を虐待する親のニュースが増えている。
お湯をかけて大やけどをおい、亡くなる子供、親になぐられ全身痣だらけで発見される子供遺体。
悲しいニュースが増えたのはなぜなのだろう。
この絵本は、もう、売られていないけれど、生まれてきた子供たちが、人間らしく生きられることへの願いを込めて作られた作品であった。(もしかしたら、図書館にはあるかも)
菅間さんの切り絵には、出来るだけ、表情を入れないようにしてもらった・・・。
でも、その表情が親御さんにだけは届くように、と工夫が凝らされている