JINSEI STORIES
滞仏日記「つ、ついにあのカイザー髭が戻ってきた。ハウルの魔女も!!!」 Posted on 2021/12/13 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日、買ったココットを使いたい。
だったら、ついでに、NHKの「ボンジュール、辻仁成の冬ごはん」の料理撮影もしてしまえ、と思い立った父ちゃん。
お肉は買っておいたし、カメラは忘れたけど携帯で4K撮影が可能なので、問題ない。
探したら、小型マイクも出てきた。よーし。
ということで、昼から撮影を開始したのだけど、毎回、これが大変なのである。
右手で自撮り棒を掴んで、ココットを撮影しながら、左手でスパイスを入れたり、箆でかき混ぜたり、箆の方に集中をすると、カメラがぶれて、うまくとれないけど、後戻りもできない。
四苦八苦しながら、なんとか肉を放り込むことが出来たちょうどその時、しかもカメラが回っていたその瞬間、ぴんぽーーーーーん、とドアベルが鳴った。へ?
「誰か来た」
とカメラに向かって呟く父ちゃん・・・
「あ、下のカイザー髭さんだと思う。奥さんはハウルの魔女にそっくりな・・・」
一度、録画を消そうとしたのだけど、ドキュメンタリーだし、回しとくことにして、下の玄関まで降りていくと、ドアを開けた瞬間、ぬわわわーーーっと、顔を出すカイザー髭! 飛びつかれ、噛みつかれるのか、と思った。
久しぶりに見たけど、相変わらずの迫力であーる。
「いたね。いると思った。なんか、いい匂いが建物中にしていたから。いいにおいだね」
「グーラッシュ、作ってんでし。あれ? 髭、少し、剃ったんですか」
カ、カイザー髭じゃ無くなっている!!!
ちょび髭に、・・・。びっくりぽん。
「おお、いいね。あとで、お茶しに来なさい。屋根の件で話したいことがあるし」
「はい、わかりました。のちほど」
屋根の件というのは、台風で屋根が飛んだので、その修理の件だと察した。ドアを閉めた途端、カメラを回していたことを思い出したのだった。
「やっぱり、カイザー髭さんでした。お茶においでって」
とぼくはそう告げ、そこで一度、カメラを切ったのだが、次の手順の撮影の準備をしていると、がーーーーーーん、じゃじゃじゃじゃじゃあーーーーーん、とシンセサイザーの激しい演奏が始まってしまったのであーる。
エマーソン・レイク・アンド・パーマーの「展覧会の絵」じゃないか。
凄すぎるし、古すぎる!!!
それに、この大音量、床が抜けそうな勢いだ。いつもよりもでかい音なので、明らかに、ぼくに聞かせようということのようであった。わかったっつーの。
いや、嫌いじゃないですけど、EL&P(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)が聞けて嬉しいのだけど、うるさすぎて、撮影は難しそうである。
ちょっと小さくしてもらえますか、と言いに行くのも気が引けるので、とりあえず、撮影はここでで中断することにした。
やれやれ。
75歳くらいだと思うけど、フランスのおっさん(お爺さん?)はパワフルだ。
もちろん、ぼくも負けずに歌えるから、ある意味、気楽な隣人なのだけど、撮影ができないのはちょっと厳しかった。
天気も悪いので、一時間後では、光もつながらなくなるから、Lさん、今日はここまで・・・。
えへへ。
※ まわした動画より、・・・。
ちなみに、カイザー髭さんとの出会いの日記はこちら、👇
https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-1825/
その翌日の日記はこちら、笑、👇
https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-1827/
今回の「ボンジュール、辻仁成のパリの冬ごはん」は4品から、5品を作ろうかな、と思っている。
Lさんからのリクエストは、「クリスマスケーキ」と「辻家のおせち料理」なのだ。
おせちは毎年、作っているので、別に負担じゃないし、ケーキはすでに二コラに教えた時にカメラを回したので、それでいいかな、と思っている。
あと、個人的には、冬の煮込み料理は欠かせないので、フランスのブフ・ブルギニヨンとハンガリーのグーラッシュを足して2で割ったような辻家定番の牛頬肉の煮込み料理を一つ作り、あと、ニースで食べた冬野菜のニース風食べるスープが絶品だったので、知り合いのマーシャルの八百屋に行き、彼が推薦する冬ならではの野菜をいろいろと買って、それで作ろうと思っている。
それから、冬といえばトリュフの季節なので、時間があれば、フランス最大のトリュフの産地、ドルドーニュ地方まで行って、知り合いの旦那さんに、トリュフの卵料理(これがマジ美味いんですね)でも習ってこようと計画している。
と、そうこうしているうちに、夜になり、ぼくはお茶の約束を破ってしまったのだった。
理由は、元カイザー髭だけでもあの迫力で、あの大音響のシンセ感はぼくが来るのを手ぐすね引いて待ってるぞ感が半端ないので、行くと間違いなく長くなる。
でも、今日はdancyuのエッセイ(2本)の締め切り日だから、数時間は原稿と向かい合わないとならない。
その上、カイザー髭よりも迫力のあるハウルの魔女さまもいるだろうし、2人に囲まれて、お茶って、想像してみてほしいのだけど、やばすぎる。
屋根問題は明日、午前中とかに、廊下で、さくさくっと話しをしてしまえば解決するだろうし、なので、ぼくは中学生がずる休みしたい時に先生にする言い訳のような、SMSメッセージを送ったのであーる。
「すいません。急な腹痛で、今日はうかがえそうにありません。明日、午前中、屋根の話しはしましょう!」
明日に、つづく。