JINSEI STORIES
退屈日記「明日、中島君が我が家にやってくる。そのための諸準備におわれて」 Posted on 2021/10/22
某月某日、お手伝いさんがやってくる前に、ぼくは部屋の掃除というか、片付けをした。
本末転倒のようだけど、つまり、お手伝いさんも、じゃあ、お願いします、とはいかないだろうな、と思い、たとえば、息子の部屋とか、どこまでやってもらうか、息子と相談をしたのである。
「こんなに散らかっていて、君がこの部屋の掃除を頼まれたとする。じゃあ、どうやって、ここまで汚い部屋を片付けたらいいんだろうって、思わない?」
こういう言い方で、息子に、最低限の片付けを促した。
「そうだね。途方に暮れるよね」
「床に脱ぎ捨てられたこれらの服をどこに片付けるか、エリック(新しいお手伝いさんは男性なのである)が、困るだろ? これは、ここに、置いてください。これは、ここにしまってほしい、ときちんと伝えるのが君の役目でしょ? 勝手に、片付けられて困るのは君だから、パパの仕事部屋もそうだけど、ここは最初に、3人で話し合い、ちゃんとルールを決めておこうよ」
ぼくらは、子供部屋を見回した。酷すぎる。
これじゃあ、エリックに逃げられてしまう。そのくらい散らかっているのだ。
ほんとうなら、ぼくも手伝ってやりたいのだけど、仕事もあるし、ご飯をあるし、他の部屋で手一杯だから、手伝えない。
でも、息子も、受験生だから、今は勉強に集中させてやりたい。親心である。
「君も、綺麗な部屋で勉強に集中した方がいい」
「そうだね」
「ベッドのシーツも月に一度か二度、エリックに替えてもらう」
「うん」
「だけど、君の音楽の機材とか、エリックは触り方がわからないだろうから、君がちゃんとこうしてほしいんです、と頼まないとならない。それはできるね?」
「うん。わかった」
「じゃあ、これ」
ぼくはそう言って、ゴミ袋を二枚、手渡した。
「断捨離しよう」
「だんしゃり? なに?」
ぼくは、いらないものを思い切って捨てるのだ、と教えた。そうだね、と息子は言った。
「服とか、本とか、昔のおもちゃとか、いらないものはもう思い切って捨てようか。新しい人生を生きよう」
こうやって、ぼくらは明日、フィリピン人のエリックを迎える準備をした。
ぼくは掃除道具一式を新たに買いに行き、週一しか来れない彼に何を頼むかを考えた。
「やってもらいたいことリスト」というのを作ってみた。
キッチンのタイル壁に油が染みつくので、まずはそれが一番の重労働だから、そこを丁寧に掃除してもらいたい。
換気扇の周りにも油がこびりつくので、そこも拭き掃除をしてもらう。
キッチンの床も、手ごわい。
やっぱり、一番お願いしたいのは水回りである。
うちは小さなシャワー室とトイレがそれぞれぼくと息子用に分かれているので、とくに息子が使用するシャワー室が、スポーツジムのシャワー室並みで、そこの掃除は助かる。
ロックダウン以降、シャワー室の壁も掃除出来ていないからだ。
この辺を週に一度やってもらうだけで、ぼくの仕事が軽減される。
主婦の皆さんが普段やってることだけど、仕事もかなりあるので、62歳の父ちゃんにはちょっときつい。
家事との板挟みで、倒れそうな毎日なのだ。
エリックの戦力に期待したい。なんか、若い感じ、多分、30歳前半かな・・・。
男性に依頼するのはなんでか、抵抗があったけど、ぼくの知り合いの中島君にそっくりなので、もう30年くらい会ってないけど、エリックに優しい中島君を重ねて、安堵している父ちゃんであった。
ともかく、中島君が、いや、エリックが、どういう人なのか、どのくらい仕事が上手か、明日分かるので、まずはそこを確認しながら、今後のことを考えたい。
エリックが効率よく掃除出来るよう、今日は張り切って、片付けなど、諸準備をする父ちゃんなのであった。
「パパ、ひとこといい?」
「いいよ」
「そこまで片付けてると、エリックさんを雇う意味がなくならない?」