JINSEI STORIES

滞仏日記「コロナ禍だから、ぼくはどんどん新しいことに首をつっこんでいる」 Posted on 2021/10/18 辻 仁成 作家 パリ

地球カレッジ

某月某日、前日から煮込んだミートソースがおいしく出来ていた。時短料理が流行る昨今だけど、ぼくは食い意地がはっているので、多少、面倒くさくても頑張ってしまう。
一晩、ぐつぐつと煮たミートソースはやっぱり、美味しい。
イタリアの生麺を硬めに茹で、その上に載せ、パセリとパルメジャーノを振りかけて頂いた。いやぁ、美味かったぁ。
生麺にはオリーブオイルを絡ませてあるので、これだけを食べても相当に美味しいのだけど、・・・。
ともかく、日曜日はそんな風に始まった。
それにしても、ちょっと二日酔い気味なのだ。
昨夜、NHKの「ボンジュール、パリの秋ごはん」の撮影チームとの打ち上げをやった。
コロナ禍なので、NHKの人も、制作会社の人も誰も参加しない、現地人だけの寂しい会だったが、「春ごはん」撮影時から応援をしてくれていたカメラマンたちなので、むげにはできない。
仲良しのおっさんずラブなシェフ、Oさんが切り盛りをする和食店のカウンターを囲んだ。

滞仏日記「コロナ禍だから、ぼくはどんどん新しいことに首をつっこんでいる」

滞仏日記「コロナ禍だから、ぼくはどんどん新しいことに首をつっこんでいる」



ぼくはたいして飲んでないのだけど、でも、酔った。
彼らは40代前半なので、年齢差もあり、ちょっとだけ、若さにはついていけない。
途中で、ぼくは退散し、家路についたのだけど、その直前に、小さな挑発があった。彼らにYouTubeライブを焚きつけられたのだ。
「辻さんは挑戦者だから、やるべきです。船やバスのライブも大規模で面白かったですけど、予算もかかるじゃないですか、でも、YouTubeだと、たとえば、こういう場所から、その端っこの席から、予告なしで、いきなり歌うみたいなことが出来るんです」
カメラマンのKさんが力説した。
そこにいた連中はYouTube配信の経験者で、Kさんはまさに今日、5時間のオンライン飲み会をやってきたばかり、・・・べろべろであった。
5時間のオンライン飲み会を、知り合いでもない人々、400人が眺めたというのだから、面白い。
「Kさん、人気だね、400人ってすごいな」
「それは無料だからだし、ぼくが無名でも、パリのカフェからですし、人は、テレビ的な決められたものじゃなく、予定調和がない、そういう配信を求めているんです。辻さんは、ミュージシャンだから、もっと、新しい手法にも挑戦してください」
「なるほど、わかった。そんなに炊きつけないで・・・。一度、持ち帰らせてもらうね」
そう言い残して、帰ることになるのだけど、なんでか、面白いかもな、という予感があった。
ぼくがやっている「2Gチャンネル」をフォローしてくださっている人には配信と同時に告知がいくみたいなので、何人見てもらえるかわからないけど、数は少なくても、シークレット感は出るし、やってる感も本気だし、それはそれで、バスツアーみたいなものと違って、両立できるかもな、と思った。そういう、見たい人が探して、たどり着くようなもの、いいなぁ、・・・

滞仏日記「コロナ禍だから、ぼくはどんどん新しいことに首をつっこんでいる」



コロナ禍になって、日本に戻ることが出来なくなり、日本との仕事の仕方も変わった。
しばらく、戻る予定もない。
友人の諭が、二週間の隔離期間の最後の日に心筋梗塞で他界したことは、ぼくには、相当なショックを持ち込んだ。
そんなことで命を落とさないとならないだなんて、やるせない。
ぼくは去年の秋、2週間の隔離を経験したけど、本当に苦しかった。
隔離をしなくていい時まで、出来るだけ、帰らないようにしないと、次は自分の番だ、と思った。諭には幼いお子さんがいたので、心が痛む。



日本に戻れなくなった分、かわりにぼくはこのコロナ禍、電子の世界へと潜り込んでいった。
ぼくはデザインストーリーズの発信に注力し、地球カレッジなどのオンラインスクールをはじめ、Amazonの電子書籍配信などにも力を入れてきた。
その結果、作品の発表の仕方も大きく変わった。
ただし、ぼくはユーチューバーになろうとは思わない。ぼくには不向きだとわかっている。でも、音楽の電子発信は世界中の人たちに自分の音楽を聴いてもらえるチャンスへと繋がった。「MATSURI」や「BORELO」のようなギター曲が増えたのも、自然な流れかもしれない。スピリチュアルなものへ、身体と魂が向かっている・・・。

滞仏日記「コロナ禍だから、ぼくはどんどん新しいことに首をつっこんでいる」



先のパリ文化会館で行われた「日本祭り」のようなものは、その中から、生まれた久しぶりの対面型ライブとなった。
62歳のぼくだけど、可能性は無限にある、と思った。
その中の一つの可能性として、ぼくはパリのカフェでのゲリラライブをまもなくスタートさせる。
これは、電子とは真逆で、むしろリアリティのある発信方法なのだ。
この生ライブと生配信ライブを組み合わせるということが出来るな、と、ふと、思いつくことになる・・・。
なるほど。
たとえ、5人しかお客さんがいなくても、それをYouTubeライブ配信出来れば、世界中の人に見てもらうことも可能なのだ。
まずは「2G」から、ぼくの世界をもっともっと発信していき、それがいつか、日本やフランスでの生ライブにつながればいいわけで、・・・それがK君からの挑発の真意なのかもしれない。

フランスの田舎をぐるぐると回りながら、ライブやっていくのも面白いし、今、ニースから話しが来ているので、気楽に、例えば、ニースの海岸のベンチからYouTubeライブ配信っていうのも、現実的なことになるかもしれない。
そういう時代に今、ぼくは、この年齢で、たどり着いてしまった、ということであろう。
「このオヤジ、おもしれーなぁ」
そう言ってもらえたら、嬉しいかもしれない・・・。
もしかすると、ある日、2Gから皆さんに、配信の連絡を差し上げる日がくるかもしれない・・・。
実に面白い世界である。
えへへ。

つづく。

滞仏日記「コロナ禍だから、ぼくはどんどん新しいことに首をつっこんでいる」

NHKBS
「辻仁成の春のパリごはん」再放送が決まりました。
10/22(金)22:00〜22:59<BSプレミアム>
10/23(土)21:00~21:59<BS4K>
また、
【NHKオンデマンド配信】
・10/23(土)18:00~11/5(金)の2週間となります。



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