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滞仏日記「閲覧注意! 父ちゃんのおしっこ、大失態の巻」 Posted on 2021/09/24 辻 仁成 作家 パリ

※ 今日の日記は、個人的には恥ずかしいので書きたくなかったのだけど、起きたことを率直に書いてきたのが「滞仏日記」なので、書きますが、閲覧に関してのご注意があります。おしっこの話しなので、そういうのが苦手は人は絶対に読まないでください。お願いします。

某月某日、なんだか、眠れなくて、ワイン飲んだり、小説の構想を練ったり、二階の老紳士のこれからのことや、昔の嫌な出来事を思い出して腹立てたりしていたら、思わず夜更かししてしまい、寝たのが丑三つ時で、尿意を催して起きたのが、明け方、といっても真っ暗なのだけど、5時とかそんな時間であった。
寝ぼけていたのは認めないとならない。
普段だったらこんなことはないので、ボケたとか、老化現象に違いない、とか思わないでいただきたい。

滞仏日記「閲覧注意! 父ちゃんのおしっこ、大失態の巻」



先日のライブの明け方、不意に「尿閉」というのに襲われ、原因は導眠剤だったが、導眠剤が切れたら「尿開」になり、あっという間に元通り。
しかし、ライブの前夜に尿閉のせいで眠れなかった苦い経験をしたばかりの、父ちゃん。
今は、嘘のようにおしっこがよく出る。
導眠剤を控えて、薬に頼らないで寝られるように、ワインなどの寝酒を軽く・・・、時間調整など頑張ったのだけど、昨夜は作戦失敗し、逆にワインのせいで、明け方今度は尿意をもよおしたのであった~っ。



で、暗い中、起きて、寝室の隣にある風呂場(トイレ兼)に行った。
いつも、だいたい電気を点けない。
感でわかるし、点けると、眩し過ぎるからだ。
薄暗がりの中、いつものように、突き当りの角にある、トイレにいき、パジャマのズボンを下ろして、用を足した。
そんなにパンパンな感じではなかったので、軽く、ちょろちょろと出たのだが、ん? 
いつもと音が違う。
いつもは水面に着水する音が響き渡るのに、なんか、トタン屋根に雨があたるような鈍い音が静かに響いている。
多分、的を外しているのだと思い、あれを掴みなおして、ホースのように、回してみた。
しかし、どんなに回しても、着水音がしない。おかしい。
ぼくはよく、息子に、「男子の皆さん、一歩前に、出て、便器の中心におしっこを着弾させてください」と言い続けてきた。
もしかすると、あれが、変な方を向いているのかもしれない。あれに寝違えがあるかどうか、知らないけど、寝ている間に、変な寝ぐせがついたのか・・・。
ま、寝ぼけていたし、これは、ちょっと変だと思った。



しかし、変だと気づくのがちょっと遅かった。
これは「変」から、これは「おかしいぞ」になり、もしかするとこれは「やばい」ことになっているかもしれない、と思い直すに至った。
あれを、どんなに回しても着水しないのは奇妙だ。
しかも、ぼくはフラダンスよろしく、腰まで振って、あれの放水範囲を拡大してしまっていたのである。
あれは、相当、放水しているはずだった。
そこで、この異常な事態に気が付いた父ちゃんは、そのまま、静かに、バックした。
マイケルジャクソンのムーンウォーク並みの、スリ足バックである。
パジャマのズボンを下ろしたまま、あれもそのまま、バックオーライ。
で、ドアのところにある電気のスイッチを押したのである。
おーーーーーーーーーーーーまいがっ!!!!!!!!!!!!!!!!!



それはそれは恐ろしい光景が広がっていたのだ。
つまり、ぼくは昨夜、風呂上りに、おしっこの後、トイレ掃除をしてから、風呂場をあとにした。
その時、いつもは閉めないトイレの蓋を閉めていたのであーる。
つまり、ぼくはトイレの蓋にむけて放尿をしていたことになる。
それじゃあ、いくらなんでも着水しない。
おかしい、と思ったので、ホースを回して、放水範囲を広げたことがこのカタストロフ(大惨事)に拍車をかけた。
トイレ周辺が水浸しになっているではないか!? 
佇むぼくをよそに、風呂場の大きなタイルの目地をつたって流れてくるぼくのおしっこの氾濫を、ぼくはひたすら傍観するしか手がなかった。
「どうしたらいいんだろう? こんな時・・・」
とぼくは一人ごちた。

滞仏日記「閲覧注意! 父ちゃんのおしっこ、大失態の巻」

※ これが、田舎の我が家のふろ場兼トイレである。えへへ。



我に返ったぼくは、迫って来る氾濫水を前に、まず、パジャマのズボンをあげて、トイレットペーパーでふき取り、それを、次々、トイレに放り込んでいったのであーる。
掃除シートがあったことを思い出し、それを持ってきて次に広範囲に掃除をし、さらに、消毒スプレーで風呂場のタイルを丁寧にスプレーし、清掃することになり、気が付くと、トイレに立ってから一時間ほどの時間を要していたのだった。
ぼくは手を洗い、明日の朝、もう一度、掃除をしよう、と自分に誓って、ベッドに戻るのだけど、これには、続きがあって、大量のトイレットペーパーは翌朝、おろし大根蕎麦の、おろしのような状態で、便器に詰まっており、起きてまず最初にしなければならなかったのは、ふやけた白いトイレットペーパーを、コロナ対策用に購入していたビニール手袋で掬って、ゴミ箱に捨てることであった。やれやれ。



ぼくは老齢化したわけではない。断じていうけれど、まだ、しっかりしている。
しっかりしているようなぼくでも、このようなミスはおかすので、皆さん、多少の失態をおかしても、どうかがっかりしないで今日を乗り越えて頂きたい。人生は長い、このようなこともたまには起きますよ、という恥ずかしいお話しでありました。
おあとがよろしいようで・・・。ちゃんちゃん。

つづく。

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