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退屈日記「パリの田舎カフェで、少し落ち着いた時間を過ごす」 Posted on 2021/09/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、この田舎も、バカンスの時期は大いに賑わっていたが、9月も後半に差し掛かろうかという今は、ゴーストタウンかと思うくらいに人がいない。
近くの町まで小一時間歩いて、散歩に出かけた。
特に日中は人っ子一人いないのである。
誰ともすれ違わない小さな田舎町の、しかも、裏通りに、一軒だけカフェがあいていたので、中に入った。
しかし、店員さんもいない。笑。
ぼくは壁際のソファ席に腰を下ろし、待つことにした。

退屈日記「パリの田舎カフェで、少し落ち着いた時間を過ごす」

退屈日記「パリの田舎カフェで、少し落ち着いた時間を過ごす」



五分ほどして、若い女性が段ボール箱を抱えて戻ってきて、ぼくを発見・・・。
「ボンジュール」
「ボンジュール」
笑顔が戻ってきた。ゴーストタウンじゃなかった。
「ちょっと待っててください。すぐ、伺いに戻ります」
「いいえ、どうぞ、ごゆっくり。ぼくは急いでいませんから」
ぼくは立ち上がり、店内を散策した。
ここは、どうやらカフェであり、雑貨屋なのだ。コップや、バック、骨董品、世界のお茶、世界のコーヒー、チョコレートなど、きっと自分が好きなものを売っている。
「へー、かわいい」

退屈日記「パリの田舎カフェで、少し落ち着いた時間を過ごす」

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すると、本当にゆっくりと、さらに5分ほどの時間がかかって、奥から先ほどの女性が戻ってきた。
「お待たせしました。何を飲まれますか?」
「あ、じゃあ、カプチーノください」
「はい。メルシー」
そして、再び奥に消えた。
お客さんもゼロ。静かな午後の風が流れていく。店員さんが戻ってきて、ぼくの前にカプチーノを置いた。
カプチーノ。今更だけど、カフェオレは泡立てない牛乳、カプチーノは泡立てた牛乳の差だろうか? ま、いい。
泡の奥から流れてくるコーヒーが熱すぎる場合があるので、気を付けながら飲むのがカプチーノ、とぼくは思っている。

退屈日記「パリの田舎カフェで、少し落ち着いた時間を過ごす」

※ 小さなチョコボール付きだったけれど、それがとっても美味しかった。ラッキー。

退屈日記「パリの田舎カフェで、少し落ち着いた時間を過ごす」



店に入ってから、30分くらい椅子に座って、置いてあった本を眺めたりしていたけど、本当に誰もやってこなかった。
ソファが古いアンティークな椅子なので、背中を預けていたら、うとうとしてしまった。
起きたら、朝は必ずコーヒーを飲み、午後も必ず一杯のコーヒーをこうして飲むけれど、夕方以降はどちらかというと心を安定させるためにハーブティにしている。
お茶の時間、ぼくは自分を小さくリセットした。
田舎の裏路地の小さなカフェでぼくはやっと落ち着いた自分を取り戻すことが出来たのだった。

帰りに田舎のパン屋さんがあいていたので、チーズがけの小さなフィッセルをおやつに一つ買った。

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