JINSEI STORIES
滞仏日記「父ちゃん、10月の日本帰国を断念、今は最大級の警戒を」 Posted on 2021/08/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、10月に日本でテレビ出演とか出版イベントなどが入っていたのだけど、ここ最近の日本の感染拡大を鑑み、この時期、フランスから日本に戻ると、多くの人が「何しに来たんですか」と思われるのも当然だろうから、残念だけれど、テレビなどは急ぐ必要もないので、10月の帰国は延期することに決め、タイタンのOさんにその旨お伝えした。
第五回新世代賞の選考会もやる予定だったので、それはぎりぎり後ろにずらし、それでも感染拡大が落ち着かなければ、オンラインでやるなどの方法にかえることを今日、運営の皆さんと確認しあった。
日本には個人的にも戻りたい。母さんにも会いたい。でも、今は少し、様子をみたほうがよさそうな状況だ。
ぼくはこの日記を読んでくださっている皆さんに、今は最大級の警戒をうながしたい。
日本の今は、パリがロックダウンに入った直後の感染拡大状況に似ている。
東京の感染者数が5000人台で推移しているが、これは検査数が追い付かず、天井にある、ということかもしれず、ピークアウトではいようにも、思う。
お盆もあったし、この後、新たな感染爆発が控えていてもおかしくないのじゃないか、と海外の専門家が話していた。
ついに、日本の一日の感染者数が2万5千人を超えた。フランスをぬかした格好だが、でも、拡大の仕方がちょっと違っている。
東京都の陽性率は24という、聞いたことのない数字で、パリの陽性率は2を切っている(1,8)。フランス全体でも3なのだ。
ただ、この24という数字も、検査数が少ない上で「感染しているかも」と思う人たちが検査をして、この陽性率ということなので、この数字がどこまで正確か、ちょっと分からない。
もっと検査をすれば減るかもしれないし、逆に無症状の人がたくさん出るかもしれないし、何が日本で起きているのか、検査数と感染者数からだけでは、わからない部分もあるかな、とは思う。
ただ、陽性率に関していえば、10を超えるとかなり危険だと言われ続けてきた。
欧米だったら、とっくに、ロックダウンをやっていても、おかしくないレベルだ。
追跡できないので、濃厚接触者の割り出しが難しい・・・。
しかも、デルタ株の、とくにエアロゾル感染(大気中に長くウイルスが残る)を甘くみてはいけない・・・。
すれ違っただけでも、感染したケースについて、前に「パリ最新情報」で記事を書いたので参照していただきたいが、必死で追跡をしてもいつどこで感染したか判明しづらかったりする。
その中にあっての希望は、ワクチン接種が50%を超えたということなので、もっと接種が増えれば落ち着くかもしれない。
しかし、最近のアメリカやイギリスではワクチン接種が進んでいながらも、デルタ株は感染拡大を続けている。こうなるともうお手上げだ。
ここにラムダ株、カッパ株、など未知の最強ウイルスが続々と登場しているので、現状のワクチンは、今のところ、万全ではないようにも見える。
前回も書いた通り、自衛しかない、ということだ。
2020年の3月に、ぼくが最初のロックダウンを経験した時に、心を病みながらも息子と必死でやり続けたことは、
1,ひたすら換気
2,人との接触をなくす
3,マスク、手洗い、あらゆるものへの殺菌(スーパーで買ったものなど、家に入れる前にすべて殺菌をする)
4,そして、4番目にとにかく一番神経を尖らせたことは、息子を介して、学校からウイルスを家に持ち込むのを防ぐ、ことであった。
子供から大人への感染は最も警戒をすべきことだし、子供間での感染も増えているし、若い人の重症化、死亡例が日本でも出てきているので、ここは本当に、警戒しなきゃならないのと、無症状でお子さんがウイルスを持っているのを知らず、感染していくこと・・・。
これは症状の出ない大人についても一緒で(自分がもしかしたらウイルスを持っているかもしれない、と考えることも感染拡大を防ぐ一つの方法だと思う)、この人は元気そうだから、大丈夫でしょう、という安心感は持っちゃいけない。
むしろ、感染はそこから広がっているのも事実で、疑って、まず人と最大限、距離をとること・・・。
人込みをみたら、必ず感染者がいる、と思って、そこを避けるくらいの神経質さが大事である。
調べたら日本でも「PCRキット」が売られているというので、家族間で検査をすることをおススメしたい。
辻家では検査キットが販売されてから、ワクチンを打ち終わるまで、毎週、家族間のPCR検査をやった。今もたまにやっている。
症状が出ていない元気な人が実はウイルスを運んでいる、と思った方がいいので、そうなると、外見や表情から感染者を見抜くのは難しい。
スーパーでさえも、注意をしないとならない。上の階に住んでいるジェロームさん一家は、奥さんが肺に持病があるので、ロックダウン中、買い物さえ控えていた。
配達サービスを使い、運搬された食料品が建物の一階の郵便受けの下にずらっと並んでいた。
しかも一晩放置された食材を彼らは消毒スプレーし後、自宅に運びこんでいたのだ。つまり、ウイルスが死滅すると当時言われていた24時間は食品の袋やケースにも触っていなかった。
それでも、彼らは去年一家で感染をしている。
従来株でもこれほど強いのだから、デルタはもっと警戒をする必要がある。
ぼくだって、こんなことを書きながらも、いつ感染してもおかしくない。
警戒に終わりはないと思ってびくびくしながら、毎日、生活をおくっている。
ワクチン接種が二回、終わった今も、刻々と状況は変化しており、決して安穏としてはいられないのだ。
基礎疾患もなく、ワクチンを接種していても感染し、亡くなる若い人が出ている。
お医者さんの友人たちも声を揃えて、怖い、と告げる。
病床には限りがあるので、一人でも多くの人の命を救うためには、まず、自分が罹らないという個人個人の努力こそが必要なのかもしれない。