JINSEI STORIES
退屈日記「マノンちゃんの大スクープ。ノートルダム寺院で映画の撮影始まる」 Posted on 2021/08/11 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日、近所に住む少女、マノンちゃんからSMSにメッセージが入った。
「ムッシュ、今、ノートルダム寺院前にいるんですけど、映画の撮影をやっていて、私たち(同級生ら数人)、エキストラやっています。ムッシュ、これ、ムッシュのウェブサイトの情報にどうですか? 必要なら写真をおくります。特派員マノン」
実は、前に、おじさんはどんな仕事をしているのですか、と聞かれた時に、デザインストーリーズを見せたことがあって、パリの最新情報なども載せているんだ、と教えたことがあった。
マノンはジャーナリストか編集者を志望している。
目が輝いて、何か、どこかで、そういう事件のようなものに遭遇をしたら、写真とか撮って送りましょうか、という約束をしたことがあった。
彼女もこの9月から高校生になる。お姉ちゃんになり、うちには近寄らなくなったけど、でも、こうやってたまにメッセージをくれるのだ。
「あ、マジ? 見てみたい。送って」
と言ったところ、十数枚の写真、動画が3本おくられてきた。すごい!!!
※、どうやらこれらはすべて映画用の消防車やパトカーのようである。警察官も!!!
ぼくは慌てて電話をかけ直した。
「これ、いったいなんなの? ノートルダム寺院に消防車とか、警官が映ってるけど」
「だから、来年くらいに公開予定のノートルダム寺院の大火災をテーマにした映画らしいんです。遊んでたら、撮影がはじまって、エキストラやりませんかって、声かけられて」
「マジか」
フランス映画って、そんなイージーなんだ、と驚いた。いや、まさか・・・。
「君は今、どこにいるの?」
「火災を目撃している人たちの群衆の中にいます」
そう言って、届いたのがこの写真だった。
撮影者、マノン。
反対側のブロックで携帯で撮影している人たちは、普通に通りかかった人たちである。
たまたま、そこにいた、一般人らしい。
助監督さんに、
「携帯で撮影をしていいから、カメラで撮ってくれ」
と言われたのだそうだ。
「つまり、火災時、一般の人が、携帯でこの状況を同じように撮影していたじゃないですか。それを今、ここで再現している。ここに集まった人は映画の現場を興味持って撮影しているけど、その彼らを撮影することで、当時を自然に再現するんです」
「す、すごいね。それはすごい・・・」
「でも、カメラが回っている間は、マスクは外さないとならないの」
「なんで?」
「だって、2019年、4月の話しだから」
「ほえー」
つまり、エキストラを雇わず? というか、あえて通行人をそのままエキストラにして、自然な感じを演出し、撮影に利用しているってことみたいだ。面白い・・・。
「大規模な映画なんだね?」
「はい。消防車が数十台、パトカーも、今、ノートルダム寺院を取り囲んでいます。それに消防署の赤いテントが当時のまま歩道に並んで再現されているし、消防士の人たち、みんな顔に炭とか塗っていて、だから火災現場から出てくる疲れ切った演技をしているんですよ。今さっき、テントの中にいる監督さんから、カットーって声が飛んだ!」
「誰か有名な俳優さんとかいるの?」
「いると思うけど、聞いてきましょうか?」
「え?出来る?それはスクープじゃん!」
そこで、一度、電話が切れた。
「アロー(もしもし)?」
「はいはい。ムッシュです」
「聞いてきました」
「誰に?」
「たぶん、助監督さんのような・・・」
「ほえー、君凄いな。で、なんだって?」
「言えないって」
「えええええええええ!!!!!!!!!」
なんでも、それは秘密なのだそうだ。
映画の撮影をやっていることは公に発信してもいいのだけど、内容に関しては一切秘密、と言われたのだとか・・・・。作戦だ!!!!
「ハリウッド映画かな。それか、フランスの大手映画会社とか?」
「そうですね、すごくお金がかかる映画っぽいです。火災の燃えているところは全部CGで再現するそうですし」
「そうなんだ。そこまで取材したんだ。じゃあ、来年の春とかに大公開になる映画なんだね。これ、スクープだな。マノン君、やったね!」
「(嬉しそうに微笑んでいる)じゃあ、また、何かわかったら、連絡します」
そう言って、電話は切れた。
ノートルダム寺院の火災、確かに、そこにはドラマがあるだろうし、カトリックの信者の方にとってはパリのノートルダム寺院は聖地だし、カトリックの人に限らず、大勢の人が何があったのか知りたいと思うだろうから、大ヒットするのは間違いないだろう。
ということで、何か、情報が入り次第、また、お知らせしたいと思います。
まずは、マノンちゃんの大スクープでした。