JINSEI STORIES
滞仏日記「父親失格」 Posted on 2021/08/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくは父親失格であることがわかりました。
昨日、長い時間、ぼくと息子は話し(言い合い?)をしたのです。
息子も日記を読んでいますから、正直に言いますね。
彼が小さい頃から今日まで思っていたことを昨日は吐露されました。
そういう議論になったのは、ぼくの勘違いがちょっとあり、ぼくのせいです。
誰かがどっかで書いていたけど「あの仏語力でよくフランスで子供育てられるな」という意見、悔しいですが、フランスの教育システムの細かいところを言われると、返答できない。
息子は多くのストレスを抱えて、プレッシャーを抱えていると言いました。
ぼくは彼がそれを乗り越えられるように、シングルファザーとして頑張ってきたつもりですが、ぼくも人間だから、スーパーマンにはなれないし、限界もあるということです。
そうです、それだけのことです。
ぼくは父親として、ここで偉そうに子育てについて、書けるような人間ではないことが判明しました。
3時間くらい言い合ったけど、最後にぼくは息子にきちんと育てらずれにすまないと泣いて、謝りました。今は、少しの間、頭を抱えています。
息子の話しの中で、陰で助言のようなことをしている方がいるような感じでしたが、おめでとう、あなた方の勝利です。
ともかく、ぼくは自分がダメな父親だったとここに宣言します。
しかし、
それでも、親は親、死ぬまで親ですから、陰ながら親をやります。
でも、進学についても、そのほか、もろもろ、今、今までのようにはできない状況になりました。
子育ては本当に難しい。それはきっと理解してもらえると思います。本当に、百冊本を書くことよりもぼくには難しいです。
このことを日記に書くのは、いずれ、様子がおかしい、ということが皆さんに伝わるからです。
小説家というのは、書くことが仕事ですから、今後も書き続けます。
ぼくが生活の日々を書くことを批判する人もいます。
しかし、上手に状況を隠し、やってきたつもりです。それに、物書きですからね、書くことはやめないですよ。
でも、明日の日記から今までとはきっと違うものになるでしょう。
ぼくは父親を失格したので、もう偉そうなことは書きません。
今はただ、そのことで打ちひしがれています。
きっと息子も言いたいことを全部言ったのですっきりしたことでしょう。
ぼくは息子の味方のつもりでしたが、本当に、残念です。
ぼくの子育ての仕方が、独りよがりなものだったということですね。
それでも、親ですから、息子の幸せを心から願っています。
これは弱音ではありません。
息子がきちんと成長しているということでしょう。
カイザー髭さんから連絡があり、田舎のかもめの赤ちゃんたちは全員、無事に、巣立ったようです。
大空を自由に飛ぶ小さなかもめたちに、涙します。
おわり。