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退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」 Posted on 2021/07/28 辻 仁成 作家 パリ

退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」

某月某日、隣県の長閑な田舎町で暮らす古くからの友人ご夫妻が、こっちにいるなら「息子さんと2人でご飯たべにおいでよ」と誘ってくれた。
息子に言った。
「えー、やだよ。1人で行きなよ。ぼくはカップ麺食べるから」
「なんで、そんなこと言うのかな」
「あのさ、17才の男の子が、親の食事会に、のこのこいくと思う?」
「バカンスだよ、いかないの?」
「日本でもフランスでも、完全に嫌がるレベルの話しだよ。そんな、パパよりも年配の人たちとぼくはなんの話しをすればいいのさ」
「でも、お前にとってはフランスのお爺ちゃんとお婆ちゃんみたいな存在なんだぞ。小さい頃から、面倒みてくれて、いつも進学のこととか相談にのってくれてたじゃん。ブリュノが会いたいって・・・」
「知っているけど、今日、行ったら、どうせ、また、進学のことを3人にがみがみ言われるのでしょ? 見え見えだよ」
「そうか、美味しい牡蠣とか用意してくれていたんだけど」
「ぼく、牡蠣苦手だから行きたくない」
「残念だな。彼らの家のすぐ横にVANSとかの専門店があるからTシャツとかジーパンとかスニーカーとか買ってあげようと思ってたのに・・・、諦めるよ」
「行く」

退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」



退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」

もので釣るのはよくないのだけど、でも、ぼくひとりでは行きたくないし、フランスの年配の人たちの交流、息子はうちの母(85才)が大好きだから、きっと彼らとも何かいいご縁が出来ると思って、まず、服屋で好きなものを買ってあげるところから、スタートした。
お小遣いが少ないので、着たい服がない息子、デートで着る服とかスニーカーとか、必要みたいで、のこのこついてきた・・・。えへへ。
彼の気分をあげるために、まずは、ブティックに行き、服を選ばせた。
一緒に買い物をするのは楽しい。これは、マジで楽しい。
悩んでいるので、
「遠慮するな。一年に一度しかないよ、こういう機会はパパがついてる。セール商品なら何でも買ってやるぞ」
と言った。
「セール商品?」
「見ろ、これ、マイナス60%だ」
「いいけど、セールかぁ」
「この新着のスニーカー、悪くないけど、似たようなの持ってるよな」
「・・・・」
最終的に彼が選んだのはブルージーンズとTシャツだった。
たまには、もので釣る、大事である。
パパと買い物に行くとなんか買ってもらえる。子供にとってはいくつになっても、楽しい行事かもしれない。あはは。

退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」

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退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」



退屈日記「嫌がる息子を知り合いのご年配夫婦の家に連れていくための作戦」

「大きくなったね。何年ぶりだろね」
とブリュノが言った。
「去年、会いましたよ」
「そうだったわね。ブルターニュで」
「はい、そうです」
「でも、身長高くなったじゃないか」
とブリュノ。
「身長1ミリも変わってないんです」
くそ、ぼくは息子の足を蹴とばした。
それでも、老夫婦は息子の参加を心から喜んでくれた。
近くのレストランからわざわざ仕入れた牡蠣や蟹や巻貝の入ったプレートがどんとテーブルの中央に置かれていた。
中庭での昼食会なのである。
そして、極めつけはブリュノが作ってくれたセップ茸クリームが入ったラビオリ、おいしかった。
息子は早く帰って、恋人と電話をしたいに違いない。食べてはいるけど、ずっと、上の空だった。
「学校はどう?」
「ええ、なんとか」
「音楽の方はどうだい?」
「はい、やってます」
「退屈よね、歳よりに質問されると」
「いいえ、そんなことはないです。祖母のこと思い出してました」
「あ、ぼくの母さん、85才なんですね。日本の南の方に住んでるんだけど、この子、ばあちゃんには懐いて・・・」
「なるほど。おばあちゃんっ子なのね」
「はい」
息子がそこだけ、はっきりと答えた。
「私にも孫がいるのよ。イスラエルにいるんだけど、遠くでしょ? でも、遠くだけど元気に生きている家族がいると思うだけど、長生きしなきゃって思う。会えるのが楽しみなの。あなたもでしょ?」
「はい」
息子が携帯を取り出し、母さんとの2ショットの写真を二人に見せた。びっくりした。
慌てて、ぼくも覗き込んだ。ぼくが知らない日の、博多の路地を歩く二人の写真だった。
弟の恒ちゃんが撮影したものかもしれない。サニーというスーパーが背後に映っていた。めっちゃ、懐かしかった。いい写真だ、またまた、ググっときた・・・。
「素敵な写真だね。おばあちゃん、笑顔がいいなぁ」
ブリュノが言った。
「はい」
息子がいつものごとく、俯き、はにかんでいた。
やっぱり、連れてきてよかった。

つづく。

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※ブリュノさんが息子のために作ってくれた、セップとトリュフのラヴィオリ!!! 美味しかった。



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