JINSEI STORIES
滞仏日記「息子の部屋があまりに汚な過ぎて、父ちゃん、呆然の巻」 Posted on 2021/07/20 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、相変わらず、鬱っぽいのだけど、家事はまったなしなので、仕方なく、ご飯をつくり、昼ごはんを息子と並んで食べた。
このご飯を作って食べるだけでも更年期っぽい父ちゃんにはきつい。
でも、生きるためだから、頑張るしかない。子育ては待ったなし。受験生ブルース・・・。
家政婦さん雇いたいけど、コロナの時期だから、今は無理だ。
今日は、冷やしそうめんとニラ玉炒飯を作った。我ながらよくできた。
「美味いか?」
「うん、美味い」
と機嫌のいい息子である。
「部屋の掃除とか、洗濯やってる。自分のトイレとシャワー室もな・・・」
「うん」
「部屋は綺麗なのか?」
「うん」
「うんしか言えないのか?」
「うん」
ということで食後、息子は外出した。
変異株に注意しろと言ってもきかないし、困ったものである。
毎日、PCR検査をやるしかない。PCR検査は薬局だと無料なのだ。今のところ・・・。
ということで、へろへろになりながら、一応、気になったので、息子の部屋の片付き具合を見に入ったら、ひっくり返った。
ぎょえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
なんじゃ、この汚さは・・・開いた顎がふさがらない、とはこのことである。
これはひどい。
ベッドの上は脱ぎ散らかした服が布団のように積み上げられている。こいつ、どこで寝てるんだ??
机の周辺には食べ終わった皿とかコップが山積みになっている。
最近、コップがない、と思ったら、ここにあった・・・。眩暈が・・・。
証拠写真をとり、息子に送り付けた。
「片付けろ!!!」
返事なし。
「ぜんぜん、片付いてないじゃん。何やってんだよ。コロナになる前に病気になるぞ」
ママ友のイザベルに電話をした。
なんとなく、こういう時、どうしたらいいのか分からない時、ぼくはずっとフランスのママ友仲間たちに頼ってきた。
フランスのママたちのアドバイスは役に立つ。
写真も送った。
「ひどいね、これ、汚すぎるわ」
「でも、ぼく、疲れて片付けてやれないんだ」
「自分でやらせなきゃ」
「フランスの子供たちはどうしてんの? お手伝いさんとかがやるのかな」
「うちは、自分でやらせてるよ。私より、うちの夫の方が厳しいから。だいたい、フランスは土足でしょ、床にものをおいちゃダメよ。日本はどうなの?」
「日本は、ええと、言っていいのかな。旦那さんたちはあまりやらないで、奥さんたちがやってるかな」
「それが間違いよね。うちは夫にやらせる。ってか、それぞれ、自分でやる、同じ人間なのに。掃除しろ、とか夫に言われたら、そく離婚してやる。私だけじゃないわよ、フランスの女はみんなそう言うでしょうよ。だから、ひとなりも、息子には自分でやらせないと」
「言ってんだけどね。やらないんだよ。どうしたらいいの?」
「掃除しないなら、お小遣いあげないってすればいいのよ。ルールつくんなきゃ」
「なるほど」
イザベルに「しっかりしなさい」と怒られ、電話を切ったあと、息子に、掃除しないなら、来月のお小遣いは無し、と言われたままのメッセージを送った。←すぐに人の影響を受ける父ちゃん・・・。
確かに、お金でやる、やらないというのはよくないけど、言ってもきかないし、ぼくも不愉快だから、そういうことにする。
決めた。彼のためだ、鬼になるぞ。
しかし、それにしても、家事は本当に大変で、ご飯を作れば片付けないとならないし、トイレやふろ場の掃除もあるし、終わりがない・・・。やれやれ、手に負えない。
一番ストレスなのは、これらをこなしていると、大事な自分の創作や仕事が出来ないのだ。日記はまぁ、日々のことだから書けるけど、小説というのは、時間区切って書けるようなものじゃなく、七転八倒しながら、絞り出すものなので、本当に前進しない・・・。
洗濯機から乾燥したシーツや洗濯ものを取り出し、寝室のベッドの上に放り投げたところで、電源が切れてしまった。
倒れこんだら、布団カヴァーが心地よかった。昨日、カバーもシーツも替えたところだから、ふかふか・・・。ああ、天国・・・そのうち、うとうとと眠ってしまった。
目が覚めると、夕方であった。3時間も爆睡したことになる。
でも、寝たことで少しは気分がよくなっていた。
携帯を探して覗いたら、息子からメッセージが入っている。写真じゃないか・・・。なんだ、これ、と思って、目を凝らしたら(最近、老眼っぽい。笑)
ぎょえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
これ、ぼくじゃん。寝ているところをいつの間に。
起き上がって、息子の部屋に顔を出したら、部屋が少しだけ綺麗になっていた。
「掃除してんだ」
「だってさ、お小遣い、ちょっとしかもらってないのに、ゼロになったら困るからさ」
かっちーーーん。ちょっと、かい・・・
相変わらず、減らず口をたたく野郎であった。