JINSEI STORIES
退屈日記「仏サッカー代表選手が日本人大差別の報道を分析。くそ野郎は誰だ!」 Posted on 2021/07/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ヤフーニュース開いたら、トップニュース欄に「フランス代表FW、日本人侮辱か」という見出しがあって、覗いてみたら、サッカーニュースサイト「ゲキサカ」に「デンべレとグリーズマンが日本人を侮辱か、・・・『醜い顔』『後進国の言葉』『技術的に進んでないのか』というタイトルが踊っていた。うわ、なんだこれ・・・。
ぼくもこれを読んだ後、「グリーズマン、応援していたのに、このくそ野郎、差別主義者メ、二度と日本の土を踏ませるものか」と思った。←大げさですね。えへへ。
多くの日本のサッカーファンがそう感じたはずだ。
でも、61才の父ちゃん、ちょっと待てよ、と冷静になってみた。
こういう差別発言って、ちゃんと本当に誰が何を言ったか調べてから、批判する必要があるのじゃないか。影響力のあるヤフーニュースでここまで拡散されると、もし、これが間違いなら、この二人がこの後、日本に来難くならないか?
多少、伝言ゲームみたいになっている時も多々あるので・・・。
ま、この二人の擁護は到底できないまでも、ゲキサカさんがどこのニュースネタからこの記事を転用したか、でも話が違ってくるし、グリーズマンはKONAMIで何かのアンバサダーもやっているようだから、KONAIMさんも真実を知りたいだろうし、・・・。
で、よく読んでみると、ゲキサカは、英国のデイリーメールで発信された記事をそのまま翻訳して掲載しているのだ。実際、そう、書いてある。
で、まずは、英語のデイリーメールの原文記事を読んでみた。それから、デンべレたちが撮影し流出した動画も探して、こちらも全部チェックしてみた。
まず、その時、どういう状況だったのか、分析、想像してみたい。
試合とか何かで2019年に来日した二人がホテルでPES(ウイニングイレブンの欧州版)というゲームをやろうとしたら、おそらく、言語設定の問題が起きた。
ホテルの人を呼んだのだけど、なかなか出来なかったみたいで、支配人さんのような偉い方までやってきて、テレビの前で三人が腕組みして、悩んでいる。
2人は、ま、若いしやんちゃなので、フランス人全員が使う言葉でやりとりしはじめた。
支配人は、技術スタッフさんに日本語で「英語に変換できないですかね」と丁寧な言葉で話していて、好感度高い。そこから、日本人の真面目さが伝わってきた。
さて、なかなか英語にならないので、ビデオを回しだしたのはデンべレのようだ。
もう一人、奥にスタッフがいるけど、グリーズマンはこの時、ベッドの上でニコニコしてそのデンべレを振り返っている。
グリーズマンはデンべレが動画撮影しだしたことを、面白がっているような感じで、彼はこの件に関しては一切発言していない。
ここで問題なのは、こういうビデオを撮影したら、それが流出するという懸念に対して、自覚がないデンべレやグリーズマンらの認識の甘さ、若さ、愚かさ・・・。
では、デイリーメールの翻訳を分析してみたい。
デイリーメールの翻訳と、父ちゃんが受けとった訳感を比較し、並べてみよう。
まず、デンべレはこう言っている。
Toutes ces sales gueules pour jouer à PES bordel!(7/8修正)
「たかがPESのためにこんな酷い顔しなきゃなんないのかよー。おい!」
これがデイリーメールになると、醜い(みにくい)顔して恥じゃないのか、となっている。げ・・・
この部分が話題になった。
で、ここは、ちゃんと翻訳する必要がある。
二つの一緒いしてはならない文節を、残念なことにデイリーメールは一つにまとめて、訳してしまっているようだ。
Ils n’ont pas honte?
「恥ずかしくないのか?」
これは、顔についてではなく、頼んでいる設定ができないことに対して言ってるものと思われる。
【T’as pas honte? ではないかという指摘。(Tu n’as pas honte グリーズマンよ、(たかがゲームのためにこごまで大ごとにして)恥ずかしくないのか?という意味合いになる)7/8修正】
ただ、上の二つの仏文を一つにしてはならない。
くっつけると、醜い顔が恥、になってしまう。
これは明らかに誤訳じゃないだろうか?
しかも、だ。
問題のサルギョルという言葉は確かに醜い顔と直訳出来るけど、フランス人はみんな使う。
サルギョルは醜い顔でもあるけど、ひでー面、とも、とれる。
ようは、スラングなのだ。
意味にはバリエーションがあり、ぼくは、なかなか調整が終わらない技術者らに、
「なんで、そんな悲痛なひでー面すんだよ」みたいなニュアンスで、言ったものと、聞こえた。
日本人的な顔の構造を醜いと指摘しているのではない・・・
さて。
その直後、真面目そうな支配人がこう言った。
「英語に変換することはできないんですかね?」
スタッフさんが小さな声で何か応じていた。聞き取れない。ごちゃごちゃ説明している。よくホテルである光景だった。
で、次の問題個所、デンべレが、
Putain, la langue!
「はぁ、なんて言葉(自分にとって意味不明)!」ともらしたのだ。
これをデーリーメールは、
「後進国の言葉」と訳しちゃってる。
ちょ、ちょっと、どうやったら、そういう訳になるんだ???
それをゲキサカはデイリーメールの誤訳をそのまま載せちゃったから、この2人は日本で厳しい立場に追い込まれている。(本国ではほとんど話題になってないのは、誤訳がないからだ・・・)
ま、今の時代、なんでも、差別になるから、気を付けないといけないので、この二人も立場ある人間なんだから、これからはマジ気を付けてほしい。
最初の、Putainは、くそ、みたいな言葉で、実は売春婦という意味がもともとの意味。
これがもはや超一般化していて、だれもが、ピュータンを使う。
日本語にもある、糞、とほぼ同じような・・・。英語ではファックかな・・。汚いね。父ちゃんはあまり使わない。←使うんかい!
マノンのお父さんもマノンに、絶対女の子は使うな、と怒っているようだけど、実際、マノンのようないい子でも、結構使う。
その辺の言葉事情というか、スラング事情みたいな、サルギョルもピュータンもきちんと認識しないと、戦争になっていまう。もしかしたら、英仏の百年戦争って、言葉の掛け違えから???
うちの子も、うちに出いりする、マノンも、二コラも、みんな使う。あ、ちなみに、この動画をマノンとうちの子にも送ってみた。息子からは返事なかったけど、マノンから、
「悪意あるなら、もっとひどい言葉を使うよね。っていうかこれ、普通ですよ」
だって・・・
ほらね、そっくりなサルがぼくを指さしている。←あ、ZOOも差別ソングになるのかな???
汚い言葉だけど、若者が使うと普通だったりする。バンド時代、みんな、くそ、最高じゃん、とか言ってた、あの、くそ感覚に近い。動画を見ている限り、クソガキならこのくらい言うわな、と61才は余裕で思ったのだった。
しかし、デンべレを少しだけ擁護したい。次の言葉を読んでもらいたい。
Vous êtes en avance ou vous n’êtes pas en avance dans ce pays?
「ねぇ、あなたたちは進んでるんですか?進んでないんですか?」
これがぼくが訳した彼らのニュアンスで、デイリーメールみたいな
「(日本は)技術的に進んでいないのか」という頭ごなしではない。
もし、差別しているのであれば、もっとひどい言い方が出来る。
そういう言葉をいっぱいぼくも知っている。彼らが言いたかったのか、以下のようなことだろう・・・
「おいおい、こんなに待たせて、たかが英語にセレクトするのに、三人もやってきて、そんなひでー顔して、いまだに出来ないんですか? 日本は世界第三位の経済大国でしょ? 先進国でしょ? ほんとうに進んでいるの?」
フランスのツイッターをチェックしてみたけど、以下の通り、「どこが、差別?」みたいな、マノンと同じ意見もあった。
それと、「今の時代、なんでも、差別になるから、気をつけなきゃね」という意見や、「結果を想像せずになんでもビデオを撮るのはやめろや」「恥だ、すぐに、謝ろう」みたいなまっとうな意見も多くあった。
想像するに、デンべレは撮った動画を誰かに送った後、すぐ消して、彼ら自身がこの動画のことを忘れ去ってたのじゃないか、もう彼らの携帯には残ってないだろう。ちょっと調子に乗りすぎたのは事実だ。大馬鹿者である。しかし、2019年のことだ。それを受け取っていたチームメイトとか仲間が、このタイミング(代表チーム内がかなりぎくしゃくしているらしい)で拡散させたのじゃないかな、と61才は想像している・・・。
ぼくがこの動画を見て、感じたことは以上だけど、他にちょっと関連することを付け足しておきたい。
ぼくも腹が立つ時、思わず日本語で毒づくことがある。
どうせ、日本語は誰にもわからない。
しかし、うちのスタッフの知り合いが、混雑するメトロで、ちょっと隣に立ったおじさんが嫌だったらしく、「このおっさん、暑苦しいなぁ」と呟いたら、その人が日本語で「悪かったな」と返したのだとか・・。←実話です。
その人は日本語が堪能だったのだ。
ぼくも時々、汚い日本語で、腹いせ紛れに毒づくのだけど、気をつけなきゃないね。
話しが、それたけど、・・・
グリーズマンとデンべレよ、君たちはこれを機会に世の中のことをもっと学ぼう。まず、誤解を与えたホテルの皆さんとかに、愚かな行動と言動をきちんと誤れば、きっと、日本人は寛大だから許してくれると思うよ。