JINSEI STORIES
あの日の日記「父ちゃんの番組に出演してくれた二コラくんの小さな夢」 Posted on 2021/12/21 辻 仁成 作家 パリ
※ 現在、絶賛撮影中の「ボンジュール辻仁成の冬ごはん」にあのニコラ君がちらっと出演してくれました。放送日は知りませんが、冬の間には・・・。笑。乞うご期待!
それを記念して(?)、ニコラ君が「春ごはん」に出演してくれた直後の懐かしい日記を、あの日の日記として、再掲載させていただきます。前宣伝ですかね?
苦笑。
某月某日、今日は「ボンジュール、辻仁成の春ごはん」に出て、豆ごはんのおにぎりを一緒に握ってくれた近所に住む二コラ君とそのお姉さんのマノンちゃんが「フランボーズと黒ゴマのタルト・ケーキ」というかなり渋い「差し入れ」を持ってきてくれた。
いつも、ぼくにご馳走になるから、とお母さんに持たされたようだ。
フランボワーズと黒ゴマという組み合わせがよくわからなかったけど、美味しかった。はじめて食べた味だった。どこのケーキか分からない。
で、何をしに来たかというと自分が出演した場面を見たい、というのである。なるほど、そりゃあ、そうだよね。まだ、見せていなかった。
日本のテレビに出たことが嬉しいみたいで学校で自慢をしたら、みんなも観たいというので、マノンちゃんの携帯でその部分を複写?、パソコンに映っているのを携帯で撮るという荒業でコピーし、学校の友達たちに見せるのだ、という。笑。
ま、自分のところだけだし、ま、いいかな。ギャラ払ってないし・・・。
ということで試写会となった。二コラとマノンが並んでソファに座り、その前にパソコンをどんと、置いた。
「最初から観たい。日本語がわからなくてもいい」と言うので、一番最初のところから再生スタート!
ほったらかし、ぼくは昼ごはんの準備に・・・。
もちろん、2人も食べていくに決まっているので、4人分の焼肉弁当を作った。
お弁当にした方が可愛いし、美味しく見えるし、日本っぽいので・・・。
準備が出来、テーブルにお弁当を並べていると、隣の部屋から「ラビアンローズ、バラ色の人生」が聞こえてきた。
お、ラスト場面である。
覗くと2人はソファに並んでじっとパソコンを覗き込んでいる。
身動きしていない。見入っている。日本語、わからなくても、面白かったのかなぁ?
恐る恐る、近づくと、まず、二コラが、驚いた顔をして、ぼくを見た。マノンも、ぼくをじっと見ている。
「どったの?」
「ムッシュ、有名人なの?」
とマノン。
二コラは目をくりくりさせたまま、ちょっと恥ずかしそうにしている。
「え? いや、ううーーーん」
一時間番組の威力はすごい。尊敬のまなざしである。
急に、父ちゃん、ふんぞり返った。←コマツの親分さん・・・みたいな感じで。えへへ。
「ま、なんだね、ちょっとね。あはは」
「ムッシュ・ドロール(変なおじさん)って、もしかして、歌手なの?」
と二コラ。セーヌ川のライブシーンが印象的だったみたいだ。
「違うよ。シェフでしょ? あんなに料理作ってた、テレビの中で」
とマノン。
いや、困った。今更、小説家です、とは言えなくなっちゃった。
横に腰を下ろし、
「二コラ、どうだった。テレビ出演?」
と訊いてみた。
うーーん、と二コラ君。あれ、なんか、浮かない顔をしている。
どったの? 不満なの?
「だって、ぼくのおにぎり、プチ・ポワ(エンドウ豆)がちゃんと綺麗に入ってなかったから、がっかりしたんだ」
えええええ? そこかい!!!!
「おじさんのおにぎりより、かっこよく握れてないのが嫌だった」
まさかの、ダメだしーーーー?
「小さいし、ぜんぜん、丸くない」
向上心高すぎしんさくーーーー?
「それが残念だったよ。おじさん」
やれやれ。笑。
楕円形のテーブルに息子とマノンと二コラとぼくが座って、焼肉弁当をつついた。
辻家の焼肉弁当は、一晩味噌で漬けたさがり肉を焼き、それをカツオデンブで和えて食べるスタイル。これが実にうまいのである。
陸のもの、と、海のもの、とのハーモニーは最高である。いつかレシピ紹介しようね。
しかし、これがさがり肉じゃないと美味しくない。カツオデンブじゃないと、ダメ。
たまたま、週末楽をしようと思って多めの肉を仕込んでいたのが役立った。
2人だとちょっと多いかな、と思っていたので、ちょうど良かった。
「美味しい?」
「美味しいーーーーー」
「なんで、この子たちいつもうちで食べるの?」
息子がそういう顔で、二コラを見ていた。ま、君もそういう時代があったじゃないかぁ!!
でも、めげない。二コラ君、大喜び。あっという間の完食であった。
息子は食べたら、自分のお皿をもってキッチンへ。
それをまねて、息子の後ろを金魚の糞のように追いかける二コラ・・・。
和む・・・。
昼食後、マノンと少し話したのだけど、離婚した両親の家を行き来する生活にちょっと疲れてきた、と愚痴っていた。
毎週、どっちかの家を行き来しないとならないのだから、確かに疲れる。
それに、ここには書けない複雑な問題(お父さんの新しい奥さん問題)もあるので、ね、子供たちが一番大変なのだ。
マノンは昼食後、友だちの家に行くというので出かけたけど、二コラはそのまま残って、夕方、お父さんが迎えに来て、お父さんの家の方に行くらしい。
それまでお絵描きをするというので、ジュースとチョコレートを出してあげた。
お、相変わらず、うまいじゃないの。
「凄いね」
「ムッシュ、ぼくはね、将来、画家になりたいんだ。だから、絵の学校に通うことにした」
「凄いな。マジか」
「ルーブルの中に子供のお絵かき教室があるんだよ。ぼくはシャドーの上手な描き方を学びたい」
「シャドー?」
「顎とかに入るカゲのこと」
「なるほど~、めっちゃ本格的じゃん」
「そして、いつか、ムッシュみたいにテレビにも出るんだ」
「いいね。じゃあ、いつか、おじさんのライブとか映画のポスターも描いてね」
「うん。あと十年待って、有名になるからね」
ぼくは二コラの頭をごしごしとさすってやるのだった。未来のある子供は元気を貰える。ありがとう。二コラ!
つづく。
NHK BS「ボンジュール、辻仁成の冬ごはん」をお楽しみに!
秋ごはんと春ごはんの再放送も、希望。←だれに???