JINSEI STORIES
退屈日記「出ていけ、の後の息子との関係。父ちゃんの苦悩はつづく」 Posted on 2021/06/18 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくは息子が(ぼくが不在の時に近所の悪い先輩たちを家にあげ騒いだ。詳細はわからない)について嘘をついたことで、出ていけ、と怒ったのは先の日記で書いた通りだけど、その翌日、息子は仏語の試験日であった。家に人を呼ばないと約束したのに、あっさり破られていたことで、怒り心頭に発した、父ちゃん。
試験のことなどすっとんで、ぼくはそこまで頭が回らず、前日に叱ってしまったのである。
本人もぼくも少なからず、精神的ショックを受けた。
リサに相談をしたら、今、彼の周りにいる友人たちがよくない、という助言、情報だった・・・。
※ 手つかずの昼食・・・
「今日はどうしているの?」
「それが昼前までは部屋にいたんだけど、昼ごはん、と言っても返事がないから、覗きに行ったら、もぬけのからだった」
「今日は試験じゃない?」
「昼ごはんも食べずに試験?」
「14時から、18時まで」
「昼ごはんはどうするんだろう・・・」
なのに、土曜日に先輩たちを呼んで家でパーティ?
しかも、昨日、ぼくが怒鳴りつけたので、夜遅くまで恋人と話し込んでいた。
勉強はしてないだろう・・・やれやれ。
周りにいる友だちがよくない、というのは思い当たる。あの子は人に好かれるので、みんなが集まってくる。そうなると断れない性格なのだ。
「どういう友だちなの」
「通りで知り合った連中」と驚くべき返事だった。
え??
「ストリート・キッズか!」
「え? ストリート、あ、うーん。そうかなぁ。学校の卒業生だけど、・・・」
昼ごはんはそのまま、テーブルの上で、手つかずのまま、終わった。
しかし、それは夕飯も同じだった。夕飯を準備して、帰りを待っていたが、戻ってきたのは夜の9時だった。
(これから、部屋に乗り込んで、聞き出すつもりだけど)
じゃあ、試験終わりから21時まで、どこをほっつき歩いていたのか・・・叱った翌日なのに、効き目ゼロ。
「ごはんだよ」
と言ったら、いつもの、
「はーい」
が戻ってきた。
しかし、暗ーい、はーい・・・。
部屋から、彼女と議論する声が聞こえていた。喧嘩?
もう一度、叱るか、悩んだけど、様子をみることにした。
あんまり、細かいチェックが出来ない。小言ばかり言うと、思春期というか、難しい年ごろだし、親がうまく着地点を見つけてやらないとならない。さて、どうしたものか・・・。
夜の23時に夕飯が手つかずだったので、部屋に行ったら、寝ていた。
「あれ、ごはんは?」
「・・・・ン、何時?」
「11時だけど、寝たの、もう?」
「眠くて」
「試験前に遅くまで恋人と話し込むからだろ。試験はできたのか?」
「うん、大丈夫」
まったく、・・・。
何が原因なのか、調べて、彼の日常を正さないと、こういうダラダラはいけない。これじゃあ、目標の大学なんて、絶対無理だ。(息子の志望校はフランスでもトップの大学?なので、ぼくはもう悲観的、無理じゃないか、と諦めかけている)
難しい年ごろなのだ。それはわかる。
悪い仲間の影響を受けなければいいが、あと、半年で彼は18歳になり、フランスでは成人となる。今年の九月から高校三年生になり、来年6月にバカロレアの本試験だ。
そのあと、大学受験があり、志望校に行けるかどうか、進路が決まる。
その一番大事な時期、まだ子供なので、分かってるようで分かってない。
不意に現れた地元のバッドカンパニーたち・・・。
かわいいガールフレンドにも振り回されている気がする・・・。
ぼくがしっかり導かないとならない。
ただ、問題は我が息子、人一倍頑固なのである。
「ボンジュール、辻仁成の春ごはん」というドキュメンタリーが今日、日本では放送されるが、まだ、その撮影中には、こういう問題は、まだ勃発していなかった。
さて、どうするかな・・・
父ちゃんの苦悩は、
つづく
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※ 手つかずの夕食・・・